第411話 別れの時
最後の夜という事もあり、俺リギアはカエルを挟んで川の字で寝る事になった。
いい年をした親子が一緒の布団で寝るというのも考えものではあるが、今まで親子として暮らしておらず、泣いても笑っても一夜限りの事なのでとリギアの願いだった。
40半ばで親に添い寝をされると言うのでカイルも相当恥ずかしがったが、リギアのたっての希望であり、カイルが折れてくれたのだ。
翌朝、朝食の前に、日課としてカイルが息子達と朝稽古をするというので、俺も付き合った。そしてカイルの息子太達に持ってこさせた愛用の武器に、この世界で倒した魔物の魔石を使って可能な限りの強化を施した。
孫達に特別に何かしてやれるわけでもないので、せめてこれくらいはと言ったのだが、皆からある意味呆れられた。
強化した武器の全てが国宝級、伝説級の武器に仕上がったからだ。勿論カイルの愛用の武器にも施していく。
そして朝食の後、一国の一部の重鎮達と軽く話を行って欲しいとカイルからお願いされた。
朝食はカイルの奥さんが自ら腕を振っ他料理を食べた。料理が趣味だというので、調理人が作る普段の食事とはまた違った家庭の味を披露してくれた。
朝食が終わるといつのまに手配していたのか、向こうの世界に行く前にとお土産を渡された。有り難い話だ。
また、俺達の屋敷の管理をカイルに託した。自由にしてくれと。
町から少し離れたところにあるのだが、日帰りで馬車で行けなくはない距離だ。
もうそろそろ屋敷に時間になり、最後の別れを外で行なっていた。そうまさに玄関先でだ。一応カイルも魔法陣の発動を立ち会うと言ってはいたが、来るのは一部の者と、護衛や御者だ。そうしていると気のせいか辺りが少し薄暗くなってきた。快晴なのだが。
そして誰かが叫び出した。太陽が太陽が消えていく!と
俺達がこの世界に来てから初めての皆既日食だった、誰かが不吉だとか、この世の終わりだとか言い出したので、俺骨は一喝し、黙らせた。
俺は純粋な惑星や衛星等の天体の動きによって起こる天体の現象であると。不吉な事ではなく、むしろ神秘的なめでたい事だと説明した。
重鎮達を交え、天体について手短に話をした。皆既日食の説明と、簡単に天動説と地動説の話をしたが、この世界は地動説が主流だったので、天体の動きや大きさの概要を説明をした。
これは頭の良い者がきちんと星の動きなどを調べ、計測すればすぐ分かることだと。そして日食の話も過去の日付だとか、発生場所をきちんと調べれば、次はいつ発生するのかというのが計算で出てくるものだと。そのために星を見なさいと。天体の観測をしなさいと俺は伝えた。
そして国全体に黒い薄い膜状のフィルターを作った。日食グラスがないので、こういう時のためにとスキルや魔法の使い方を研究していたのだ。そうするとかなりの広範囲にわたり日食グラスの代わりになるような膜を生成できるということが分かっていた。
そして国を覆うのに魔力の大半を使ってしまうが、それでもこの日食を一人でも多くの者にけがなく安全に見てもらおうと、魔法を展開した。
これで直接太陽を見ても良いぞと話し、皆で日食を観覧と言うか堪能していた。勿論念話で不安がっている妻達に日食の事を伝えた。
そして日食が終わり、明るさが戻った頃に念話が入り、今直ぐに来てくれとトリシアに言われたのだ。
そうして屋敷に来る者や馬車を引き連れ、ゲートで魔法陣の元に行った。
この日食が最後の引き金だったらしく、魔法陣がもう発動していた。いつでも魔法陣が発動するような状態になっており、妻達はもう身構えていた。俺は待たせたなと言い、最後にリギアと二人してカイルと抱き合い、さらばと告げ、魔法陣の元に行った。そして魔法陣が展開しだしたのだが、この世界とさよならをするまさにその瞬間に俺はふと思い出し、二本目のアンタレスを引き出し、
「カイル!この剣をお前に託す。これは俺の愛剣アンタレスだ。この世界のどの剣よりも強く、壊す事のできない剣だ」
カイルの足下に投げた瞬間、俺達はこの世界から消え失せたのであった。
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