第84話 悲劇の繰り返し

 私はふと目覚めた。何故か目下落下中だ。

『この高さから堕ちたら死ぬよな。不味いよなこれ。しかも何故落下中なのだろう?』

 と思うと地面が近づいてきた。不思議な事に何故か少し『飛べた』

 辛うじて地面へダイブすることは避けたが、コントロールの方法が分からない。木の高さ10m位だろうか、水平に飛んでいると、争いの音が聞こえてきた。どこかの村のようだ。不意に飛べなくなったのが分かる。勢いのまま弾丸の如く飛んでいき、身なりの悪そうな剣を振りかぶっていて村人に切りつけようとしていた奴に私は頭を手で覆いぶつかっていった。


 そいつは派手に吹き飛び、頭の中に

『剣術(片手剣)を奪取しストックしました』


 と意味不明な言葉が聞こえてきた。


 私も派手に転がり呻きながらも何とか立ち上がった。


 まず今の自分を確かめる。

 右目が痛い。矢が刺さっており、引き抜くと眼球が付いてきていた。右目が見えない。何故矢が刺さっているのか解らないが、失明したのが理解できた。

 自分の格好を見ると革では無いが、金属の皮鎧風な鎧を着ていて、楯を左腕に着けている。腕に矢が刺さっていて、おもむろに引き抜くと段々傷が癒えて痛みが引いた。

 右目も見えないが痛みは引いた。背中に剣を二本背負っていた。一本を抜いて構えると禍々しい日本刀と言うより大太刀だ。

 何故か分からないがこれは私の愛刀で多くの死地をくぐり抜けていると魂が理解した。


 一番の問題が自分が何者か、名前も思い出せない。一つ言えるのはここが日本ではなく、今は集落が賊に襲われているという事だ。


 多くの住人が殺されている。

 襲っている奴を見る限り、私より遙かに弱そうだ。

 先ずはこの罪も無い人々を助けよう。私にはそれが可能な力があると心が告げていた。


 賊をどんどん切り裂き、闘っている住人に


『加勢する』


 と告げて押されていた戦況をみるみるうちに覆していき、

 私の10m位前で襲われている奴が斬られようとしていて


『間に合わない』


 と思った時何故かアイスアローを使わなきゃと思った瞬間伸ばした手の先から氷柱の様な物が飛んでいき族の頭に突き刺さった。

 そういえばさっきから何とかを奪取しましただのストックしましただの不思議な声が聞こえてくる。

 しかし魂は驚いていなかった。


 遠くの奴に向けて試しに


「アイスアロー」


 と言うと先ほどの氷柱が飛んでいく。


 これは凄いと思い、どんどんアイスアローを放ち倒していく。


 やがて全てを倒して、負傷者の救助に当たった。

 負傷者の手当てが一通り終わると若い奴を引き連れて一人の老人が私の所にやってきた。


「どこのどなた様か存じませんが、旅のお方よ。我らの村をお救い頂き感謝します。私はこの村の村長をしております。貴方様が居なければこの村の全員が殺されているところでした。」


 と言い手を上げると若い女がこちらに来た


「今宵は部屋をご用意致しますのでどうぞごゆっくりお休み下さい。謝礼にお渡しできる物が残念なごら御座いません。この者セチアを差し出しますので謝礼変わりに頂いて下さいませ。夜伽などお好きになさって下さい。」


 と言うとセチアと言われた女性が出てきて


「セチアと申します。旅の冒険者様。村をお救い下さりありがとうございます。私のような女でご不満かと思いますが、お仕えさせて頂きますのでどうぞ宜しくお願い致します。」


 とお辞儀をして家に案内されていった。

 差し出すってどういう事だ?結構綺麗な女性だったな。困ったなどうしようかな。ここが何処かわからないから夜伽はともかく話を聞こう。ここでは性接待が当たり前なのかな?


 村長の家に着くと風呂を用意してくれていた。


 返り血でえらい事だった。家に入る前にセチアが


「クリーン」


 と言うとみるみる汚れや帰り血が消えて綺麗になった。


 風呂に行くと、脱衣場にもセチアがいて、着替えも用意されていた。


 鎧を何故装着しているのかは分からないが、一人では時間がかかるから脱がすのを手伝ってくれるのかな。中々気配りが良いな。


 服も脱いでいるが、何故かセチアは脱衣場にいる。まあ裸になれば悲鳴を上げて出ていくと思い風呂に入る。手拭いで体を洗って居るとセチアも裸で入ってきた。


 多分異世界に来ていると思う。

 何故か言葉が通じているし、魔法が使えた。何よりフランス人と思うような外観に、エルフと思われるのもいた。


 セチアが入ってきても見ないようにした。

 さっきは驚いていた見てしまったが、中々の美人で20台前半。スタイルがかなり良いな。胸でかくて綺麗な形をしている。

 この世界は混浴が当たり前なのかな。セチアから


「お背中お流し致しますね。あらあら随分とお若くご立派なんですね」


 と言われたらからだ。


 そう言えば自分の年齢すら分からない。


「ありがとうセチアさん。私はいくつ位に見えますか?」


 と質問したが、セチアは服は脱いでいるが、首に首輪を着けて外さないんだなと思ったら、


「そうですね、20歳にはまだなっていないのでは無いですか?」


『鏡を見る限り18、19位だな。18位と言っておこう。』


 と思ったが思いとどまり


「実は記憶がなく名前すら分からないんですよ。」


 と言うと驚いた顔をして


「それは大変ですね。ステータスを見ればお分かりに成るのでは?」


 と言うので、風呂を出て部屋で色々教えて貰う事にした。


 私は記憶をなくしているのに妙に落ち着いていた。


 彼女が前も洗おうとしてくれたが、丁重にお断りして、脱衣場でも背中だけにして前は断った。


 不思議な感覚だったな。


 風呂を上がると食事を用意してくれていたが、村長は村の復興の相談をしなくてはとセチアと私を残し出掛けていった。まあ奥さんがいるので二人じゃ無いが。


 夕食を頂き部屋に行くと、ベットが一つだった。どうするのかと聞くと、


「夜伽の後お一人でお休みをと言われましたら私は床で寝ますので如何様にも。ただ、経験が無く、初めてですので、その、あの、失礼が在るかもです。」


 と言う。よくよく聞くと、彼女は村長の奴隷で、食い扶持に困った村の農夫が税を納められず、10年位前に村長の奴隷にと差出され奴隷となり、メイドとして働いているという。こう言った事は初めてで緊張していると言う。


 風呂の事も聞くとこの国では男女別で、一緒に入ったのは奴隷が奉仕して体を洗ったり、着替えを手伝う為であると。


 驚きつつ、彼女に言う。


「君は私に一夜の性接待をするように言われてるんだね?」


「いえ、私を奴隷として、今回村をお救い頂いた分の対価といて私を、あなた様に差し上げると言う意味です。私の役目は奴隷としてお仕えする事です。奴隷であればご主人様に夜伽のご奉仕をするのは当たり前の事に成りますよ。」


「嫌じゃないのかい?」


「いやとかじゃないのです。私は奴隷ですので逆らうと生きて行けません。ご主人様に捨てられるというのは死を意味します。」


「見も知らぬ相手の相手をしろと言われているんだよ。いやだろう?私は心から抱きたいと思わないと抱かないんだ。でも君を床では寝かしたくないから、今日は添い寝だけお願いできるかな?目を失ったばかりで、今はその、女性を抱く気分じゃ無いんだ。それと君に魅力が無いわけでは無く、私の問題なんだ。」


 と言うと彼女は少し涙ぐんで頷いた。


「はいそうです。貴方様は紳士なのですね。自分で言うのも何ですが、見た目の良さのために、今回盗賊が襲って来たのです。同じような事を嫌い事実上の追放なのです。最早私はこの村には居られないのです。」


「そうだよな。確かに君は魅力的だ。村からしたら、君は厄介者だよな。分かった。私で良ければ君の身を引き受けよう。話は変わるが、さっきのステータスの事を教えてくれないか?」


「そうですね。自分の能力を見たいと思い ステータス と言うか思って見て下さいそれで見えるはずです。」


 成る程。頭の中で呟いた『ステータス』


 そうすると、『封印状態 解除条件を満たしていません』


 と頭の中に表示された。セチアに言うと驚いていた。

「聞いた事は有りますが初めてそう言う方を見ました。何が有ったのでしょうか?貴方様は冒険者じゃないでしょうか?ステータスカードとギルドカードを出してみればどうでしょうか?」


 と出し方を教えて貰い、2つ共無事に出た。

 ステータスカードに血を一滴垂らして魔力を込めてと言われてやると、簡易表示が出た。


 名前 ランスロット

 年齢 18

 強さ 21232

 職業 冒険者

 と出た。


 彼女は絶句した。


「強さ10000越えてる方って国でも数人しかいないと聞きます。あっ冒険者カードはなんと?」


 名前 ランスロット

 所属 バルバロッサ王都ギルド

 ランク S

 専属契約者 ナンシー・アルテミス


 と記載がある

 彼女はカードを掴む手をぷるぷる震わせて呻いた


「す、凄いでしゅ。プラチナのカードなので、ひょっとしてとは思いましたが、S級の方なんて感激です。」


 と舌を噛んだようだが恭しくカードを返してくれた。私もよくカードを見て

『ナンシーって誰だろう』

と呟くと頭が痛くなった。


 専属契約者って何者かと聞くと、ギルドの有望冒険者に対して一人専属の受付嬢をあてがい便宜を図る。他の冒険者は手が空いている時にしか相手をしないそんな制度と。つまり助手を斡旋してくれるそれも無料で。かなり凄い事と思う。


「それにしてもバルバロッサってなかリ遠いですが、何でこの国に来たんでしょうね。」


 そうセチアは言い説明してくれた。バルバロッサへは馬車で四ヶ月は掛かると言う。

 ただ、何も分からない所から手掛かりが見つかった。まずはバルバロッサに向かおう。そしてナンシーと言う受付嬢を探そう。少なくとも私の事を知っているのだろう。

 私の目に刺さった矢はここに飛ばされる前に既に刺さっていた。つまり意識を取り戻す前に戦闘をしていたと思われる。荷物もない。一文無しか。色々考えて、

『異世界転移だと無限収納とかあってうはうはなんだけどな』

 と呟くいている最中に


『無限収納の封印解除の条件を満たしました。無限収納を再開します。』


 と聞こえて、息をするのと同じで無限収納の使い方が分かった。

 収納してる物を確認すると死体が入っていたり、大量の食事、魔石とか、女性物の服のセットや自分の服など色々あり自分が何者か益々わからなくなった。

 お金が1000万G位あり驚いていた。記憶を喪う前の私は何者だったのだろうか?


「それと家に入る前の魔法は何なのか教えてもらえないか?」


「あっ、それは生活魔法でクリーンと言うんです。色々汚れ取るのとですね、あの時に使うと良いと聞きますが、ひょっとするとご主人様は使えるのでは?」

 と言うので試しにクリーンと唱えると使えた。


 それと気になっていた首輪について聞こうと思い


「そう言えばこれって何なんだい?」と首輪に触ったら、


『奴隷29を取得しました。従属魔法の表示封印解除の条件を満たしました。』


 と聞こえたので『従属魔法って何なんだい?』と思うと詳細が出て来た。まるでゲームだなぁ。

 どうやら私は奴隷契約をしたり、再契約も出来るらしい。

 試しに断りを入れて胸元に手を当て、『奴隷契約変更』と唱えると首輪が割れて、奴隷紋が刻まれたのが分かる

 彼女は驚いて絶句していた。首輪が外れる事は無いと思っていたようだ。

 

 彼女は金髪で肩までの長さで黒目。

 肌は白人。縦長のきりっとした男装が似合いそうな美人だ。彼女を見ていると何やら見えてきた


名前 セチア

 種族 ヒューマン

 性別 女性(処女)

83-55-84 身長158cm

 年齢 22

 レベル 1

 生命力 83

 魔力  68

 強さ  78


 ギフト

 天気予報


 スキル

 調理3

 メイド2

 生活魔法  



 私は絶句した。3サイズ表示とかって男のロマンな力だろうと。

 色々調べたり確認することが多く知恵熱が出そうなので、セチアには私の横で添い寝して貰い眠りに着いた。


 ワーグナー王国1日目の終わりだった。



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