第11話  覚醒と奴隷と闇

day4


ふと目が覚めた。


「知らない天井だ


…って、言ってみたかったんです。テンプレって奴ですよね」


と、呟いた。

でも何だか記憶がおかしくて、どこで知った言葉か分からないんだけどね。

状況を把握してみる。窓の方を見ると明るい。明るさから日中だと思う。

腹時計から考えるに、一晩は気絶していたようだ。

顎に手をやって、ヒゲの状態を確認し、ヒゲの長さから時間経過を判断しようと思ったが手が動かない。

柔らかくて暖かい温もりを感じる。

窓と反対を見ると、椅子に腰掛けた美少女が居て、俺を見ていた。そもそも、この温もりの正体は彼女の手だ。

記憶が混乱してる。


『えっ!俺この子連れ込んでやっちゃった?どうしよう淫行罪で警察に捕まる』


オロオロオロオロ。

冷や汗が出る。

でも、どう考えてもこの部屋に連れ込んだ記憶が無い。

酒好きってわけじゃ無いが、酔って記憶が飛んだことが無いのが自慢なんだが。

取り敢えず彼女を見る。

うわ。めっさ綺麗やん‥。

どうやってこの子と知り合ったんだろうか。

ふと彼女の情報が見えた。頭の中にディスプレイが出てるみたいに



名前 シェリー・ハリントン

種族 ヒューマン

性別 女性(処女)

B82 W56 H82  

身長158cm

年齢 16

レベル 2

生命力 50/54

魔力  79/79

強さ  58

ギフト


歌姫


スキル

剣術(片手剣)1

馬術2

交渉1

算術1

殿方奉仕

風魔法1(封印中)


魔法(封印中)


ウインドカッター

スピードアップ


職業 無職



称号

奴隷|(ランスロット)


あれ?突っ込みたくなる内容が盛りだくさんなんだが。男性奉仕とか男性奉仕とか。それが有るのに処女とか。

それより、奴隷の所有者が俺っぽいけどどういう事だ?

彼女をよく見ると、俺には効果の無かった隷属の首輪が装着されている。

金髪に蒼い瞳。吸い込まれそうだ。髪はかなり長そうだ。

3サイズが何故かステータスカードに記載有ったけど、すらっとしていてモデルみたいだ。

アイドルになったら間違いなく大ブレイク必須な容姿である。

外観だけじゃなく座っている姿勢も気品を感じる。服が安物のワンピースなのが勿体ない。


うーん、記憶に無い!こんな美少女の奴隷ってかなりするだろうに、どうやって買ったんだろうか?!


『性別の所の表記からまだ手を出してないんだよね。ほっ。』


って、気にするのはそこじゃ無いよな、と一人突っ込みを入れる。

取り敢えず確認しよう。


「えっとおはようで良いのかな?」

「いえ、今はお昼少し前ですからこんにちはでしょうか」

「ハリントンさんだっけ?今の状況がよく分からないので、教えて貰えると有難い。」


そう言った瞬間、彼女の表情が強張った。


「どうして私の家名をご存知なのですか?」


と震える声で質問してくる。


「ご存知も何も、君の名前がシェリー・ハリントンって出てるよ」


名が前でファミリーネームは後ろなんだね。


「えっと、どういう事でしょう?」

「どうもこうも、君を凝視したらステータスが見えたよ」

「えええ!ひょっとしてスキルもですか?」


驚く事なのかな?と思いつつ、よく考えずに


「うん」


と言ってしまった。

途端に彼女は、雪のような白い肌を急激に赤くして両手で顔を覆ってしまい、


「ランスロット様のばかばかばか」


とモジモジしてしまった。握られた手が離れたのが残念。でも可愛いから許す。

少なくとも俺のステータスカードの名前は知ってるのね。

よくよく考えてみれば誰かに名乗ったような気がしてきた。


「ごめん。本当に状況が分からなくて説明してくれると嬉しいんだけど。」


と言い体を起こすと、


「失礼しました」


と再び手を握ってきた。45のおっさんには自分の子供のような年の子に手を握られるとドキドキするんですけど。いや18でもドキドキするよね。

段々と45のおっさんじゃなく思春期のチェリーになってきた気がする。


「改めてご挨拶を。お助け下さりありがとうございます。シェリーと言うのは昔の名前なので新しい名前をどうかお付け下さい。」


と理解不能なことを口に出し、とりあえずスルーしていると野営地を脱出した直後の話をし始めた。


要約するとこうだ。

何人か追っ手が来たが俺が魔法で返り討ちにしたんだそうだ。初級魔法の筈なのに詠唱もなくとんでもない威力で驚いたのだと。

追っ手を倒した直後に気絶し、指示された通りに街に辿り着いた。街に入るのにひと悶着有ったが、盗賊に襲われた事と、俺の状態を見て慌てて街に入れてくれた。但し起きたら門番の所に来て手続きをして欲しいと言われている、と。


そして急ぎ治療を行って貰ったらしい。治癒術士が治癒魔法を使って傷を治療し、金貨30枚が対価だった、と。

貨幣価値が分からないので、それが安いのか高いのか分からない。後で貨幣価値は後で必ず確認しなければいけないな。


今は門番の方の案内で厩舎に馬車を停め、宿屋に泊まっている。宿泊費は金貨2枚の所。

俺は丸一日気を失っていて、今ようやく目覚めたのだった。


既に襲われた場所には騎士団を派遣しており、生存者の救出と可能で有れば遺体の回収等を行っているそうだ。

あの馬車とかは、現場の確認次第だが俺の物になるらしい。騎士団の帰投待ちなんだと。


門番の所でステータスカードを確認して犯罪者じゃ無ければ、との条件はあるみたいだが。

盗賊から出ていて回収したカードは一旦預けたそうで、盗賊が賞金首だった場合は懸賞金出るらしい。


今回の出来事は、隣国の奴隷商人がこの街に、シェリーを含めた4人の高級奴隷をオークションに出す為に隣国から向かっていた道中で起きたらしい。二つ隣町で冒険者10名の護衛を雇い移動したが、最後の野営地は王都から半日の距離だった為に油断した。そこを盗賊に襲われたと。


普通は隣町で一泊して朝出発するのだそうだ。隣町からだと、朝出れば夕方前には辿り着く。

どうやら見張りが矢で射殺され、冒険者の半分は寝てる所を襲われた。シェリーも馬車から引きずり出されてレイプされかけた所、俺が助けに入った。

どうも所有者の奴隷商人が盗賊のリーダーに殺され、所有権が仮で移った。奴隷商人が売り物の奴隷を縛るのは奴隷商特有の仮主人という権利らしい。

そして俺が盗賊を殺した為、俺に所有権が移った。本来は仮でしか移らないのに、主人となったのは不思議だと言っていた。

もし俺が仮主人だったら、今回は国に所有権が移り、オークションに掛けられるはずだった。

条件の一つはよく有る血だと思う。多分矢が刺さった時に掛かったんだろうと聞いたら、血だけでは無理だと言われた。


シェリーはその後の俺の戦いを、まるで英雄を見たかのように話し、


「私はランスロット様に命を救って頂きました。あのままでは奴隷としてどこぞの変態の所に買われ、惨めな一生を過ごす事になる所でした。ランスロット様はとても強く驚きました。あと、その、とっても格好良かったです!

どうかお側でお仕えすることをお許し下さい。」


と顔を真っ赤にし上目遣いで懇願された。


奴隷になった経緯については、


「何故奴隷になったかは、おいおい御話しします」


と今は話してくれなかった。

命令すれば話してくれるだろうが、無理強いはしたくない。


部屋は小綺麗でWベット。椅子とテーブルが有り割と広い。10畳位だろうか。

日本だと二人で3万円位かも。後から確認したらお風呂とトイレも有った。


まずは自分の体をチェック。脚に刺さった矢の痕は無い。背中も痛まない。異常は無いようだ。

服が寝間着だったので


「誰かが着替えさせてくれたようだけど?」


と聞いたら


「私が御召し替えを手伝わさせていただきました」


とさらっと言われた。また見慣れない服が置いてあった。馬車の中に置いてあった服はサイズが合わず、宿の方に事情を話して買ってきて貰ったとのこと。


「シェリーの服は?」


と訊くとキョトンとした顔で何言ってるんですかと言う感じで


「奴隷の服なんか誰も気にしませんよ。この奴隷の服で十分です」


と言っていた。

いや君が良くても俺が困ると突っ込みを入れたかったが、口ぶりからすると奴隷としてしっかり教育されてしまったんだろうなと奴隷についての闇の部分を思い知った。


とりあえずお金は当面困らない額が手元にある。金貨100枚程あった。

門番の所に顔を出さなければいけないのでシェリーに食事をしてから出かけようと宿の食堂に降りていった。

テーブルに座ったが何故かシェリー床に座ろうとしたので慌てて止めた。


「何してるの?」


と聞くと


「私は奴隷ですので床に座るのが当たり前ですよ」


と言う。周りを見ると奴隷を連れている客が他にもいて、奴隷の女が床で粗末な物を食べていた。そしてその格好に驚いた。

ズタ袋に頭と腕を出せるようにしたようなとてもじゃないが服と言える代物じゃ無い。所謂貫頭衣ってやつだ。

しかもほぼパイ乙が見えてるんですが!かろうじてぼっちが見えないのが逆にショックだった。


取り合えずシェリーには一緒に座るように言ったが


「それではご主人様にご迷惑が掛かります」


と納得しないので、説得は後でするがこの場は


「俺こっちの文字読めなくてさ、注文出来ないし、病み上がりでしんどいから隣で助けてよ」


と言うと渋々隣に腰掛けた。

注文を取りに来た20代半ばのウエイトレスが奴隷が同じ席に座ってるのを見て驚いたが、メニューを読み上げて貰ってる状況から何も言わなかった。


「じゃあオーク肉の煮込み定食が良いな。シェリーは?」


と言うと首をかしげ


「奴隷食で」


と言ったので慌てて止めてウエイトレスに同じのを二つでと注文して、代金と余分なお金を握らせた。流石に何も言わなかったが奴隷食が有るとは驚いた。メニューの欄外に小さく書かれてるのがそうなんだろうな。

シェリーは、アワアワと慌てふためいて


「そんなわけにはいけません。」


と言うので、仕方が無いので


「主人として命ずる。一緒に同じ物を食べるように。」


そう言うと


「はい分かりましたご主人様」


と目を輝かせていた。

尻尾があったらブンブン振られてるんだろうな


呼び方について聞くと、誰も居ないところでは名前か主人が言うように指定した呼び方で大丈夫なのだが、外では例外なくご主人様と言う決まりが有るんだそうだ。

後で奴隷について聞こう。


食事が来ると彼女はソワソワして俺の方をじっと見る。あっそうか俺が先に食べ出さないと彼女は多分食べられないんだろうな。ふと見ると涎が垂れてるが見なかった事にしよう。


「いただきます」


と言ってから食べ出すと、不思議そうにしてたので、シェリーに


「食べて」


と促したらガツガツ食べ出し、涙が零れてるのを見てしまった。見かねてそっとハンカチで目をぬぐってやると、

慌てて


「これはその、汗なんです」


と誤魔化してきた。もちろん誤魔化しきれてないが、頷いてそっと拭って上げた。

最後の方は落ち着いたのか、食べ方が優雅になっていた。


彼女の体が細いのはスタイル維持を努力したのではなく食事の量が少なかった為なんだろうな。

美少女とのウキウキな食事の筈が、俺には味を感じられず腹を満たすだけの時間になってしまい、

この世界の闇に毒づいた。

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