第22話 天才魔法使い、元凶と戦う

「何をするかと思えばただの転移か。こんなものでどうにかなるとでも?」



 流石に転移だけでどうにかなるとは思っていない。というか問題は転移した後だ。正直これで無理だったらもうお手上げだ。

 僕はゼハルの言葉を無視してエリンに声を掛けた。



「エリン、シエラはどう?」


「もう大丈夫そうです。持つかは分かりませんけど」



 いや、流石にからシエラの結界が耐えられないほどの余波が届くとは思えないんだけど。というか持たなかったら人の住む領域が被害を被ることになる。

 そんな僕らの会話を聞いていたゼハルが口を開いた。



「シエラ?」


「エンシェントドラゴンのことですよ。まあ、あなたには関係のない話です」


「そうだな。どの道全て我の手の中に納まるのだから関係は無い」



 さてと。これはもう使わないかな。そう思って僕は刀をアイテムボックスの中に戻した。



「なんだ? 戦うのではないのか?」


「戦うよ。全力で」



 それだけ言って僕は転移魔法でゼハルの上空へと移動した。目下にはガノード島、その中心にゼハルがいる。



「エリン」


「全力で行きます」



 僕が右腕を左から右へと振り切ると同時に、弧を描いて風の刃が飛んでいく。それはエリンの今までにない魔法陣を通り抜け、威力や速度を更に増してゼハルへと向かって行く。ゼハルはそれを避け切れず、左腕の肘から先が切断された。流石になら攻撃は通るようだ。だが、すぐにその腕は再生して何事もなかったかのようにこっちを振り返った。その表情には怒りの表情と共に不気味な笑みが現れていた。



「やはりあいつの子孫か。面白い。直々に殺してやる」



 そう言いながら動こうとしたゼハルは気が付く。島の至る所に魔法陣が現れていることに。魔法陣からはまるで噴水のようにマグマが噴出し、ゼハルに襲い掛かる。ゼハルはそれを避け続け、やがて過剰に現れたマグマがガノード島を覆っていく。



「この程度ではすべて避けられますね」


「そうだね。でもこれなら――」



 エリンの転移魔法で僕は移動した。



「くそっ! なぜこの我が逃げなければ――」



 何か独り言を言っていたゼハルの頭上に移動し、至近距離からマグマを押し当ててマグマで地面が見えなくなったガノード島へと突き落とした。マグマは巨大な水柱を上げながらゼハルを受け入れた。

 これでまだ生きてたら正直気持ち悪い。そう思いつつも僕は次の攻撃の準備に移った。



「このっ――」



 マグマから飛び出してくるなり、ゼハルはその動きを止めた。全身が熱で溶けつつもまだ生きていることにやはり僕たち人間とは違うんだと思い知らされる。ちなみに、ゼハルが動きを止めたのは上空に現れた無数の氷の刃のせいだろう。エリンのお陰でサイズが異常なことになっているが、たとえオーバーキルだとしてもゼハルを倒せるのなら問題ない。そう思って僕は無数の巨大な氷の刃を弾丸のようにガノード島へと放った。

 それらはガノード島を覆っていたマグマは水しぶきを上げた後、地面へとしぶきを落とすことなく固まった。別に氷のように透明と言う訳ではないので、中がどうなっているのかが見えない。一応次を準備して待ってみると、数十秒後には固まったマグマにひびが入り、ゼハルが飛び出してきた。体の所々が崩れ、満身創痍と言った様子だ。

 逃げられないと判断したのか、ゼハルは何やら力を貯め始める。まあ、上空にある魔法陣のサイズを見れば誰だって逃げられないと判断するだろうけど。それはガノード島の数倍のサイズはある。これでも威力を上げるために抑えたつもりなのだが。



「この我が人間などに負けることがあっていいはずがあるかっ!」



 そう言いながらゼハルは手元から闇色の何かを放射状に放ってきた。それは上空にある魔法陣に届くか届かないかのサイズにまで広がった。



「エリン」


「これで終わらせます」



 僕が魔法を放つと、現れた雷は魔法陣を通って青白い光と轟音を立てながらガノード島へと降り注いだ。その一瞬、ゼハルがにやりと笑ったような気がした。

 予想以上の衝撃に思わず目を瞑った。次に目を開けた時にはガノード島が黒焦げになってポロポロと崩れていくのが見えていた。少し待つと、シエラがこちらへと飛んできた。



「取り敢えずは終わったのかや?」


「どうにかね」



 これで終わりではない。あと一つやっておかなければならないことがある。エリン、シエラと共にある場所へと移動して、シエラに乗って目的のモノを探した。メノード島には負の感情を集める魔道具があった。ユーロン島にはリントブル聖王国にあったが、それは東の端だ。もっと都合のいい位置がユーロン島にはある。ストビー王国を襲ったヒュドラはその方向から現れた時点で気が付くべきだったかもしれない。もしかしたらルカと出会う要員となったスタンビートもそれが原因かもしれない。



「リク、ありました。2人とも、準備はいいですか?」


「いつでもいいよ」


「妾も問題ないのじゃ」



 シエラが人の姿へと変化すると同時にエリンの転移魔法で獣の森の地下へと移動した。





 そのこぎれいな空間の中心にはリントブル聖王国の地下で見たのと同じ水晶があり、その中には随分とサイズダウンしたゼハルが入っていた。



「っ! なぜお前らがここにいるっ⁉」


「これ以上復活でもされたら面倒なので仕方ないですね」


「妾の住処を破壊した罪は重いのじゃ」



 すみませんシエラさん、それ大方僕の仕業です。



「まっ、待て! これを壊されたら我は――」



 そんな言葉に真っ先に反応したのはエリンだった。



「負の感情が無いと生活が出来ない害虫は駆除しないといけないので仕方ないですね」


「害虫? それは自分の事を言っているのかや?」


「あなたには私の事が虫にでも見えるのですか? どうやら目が悪いようですね、仕方ないので私が治療してあげます」


「そんな恐ろしいことさせる訳なかろう? 喧嘩でも売っておるのか?」


「勘違いしないで下さい。私は格下のあなたを優しく諭してあげているだけですよ?」



 今までの緊張が急に解けたせいか、いつもの調子の戻ったようで何よりだ。いや、喧嘩をしているのはよろしくは無いんだけども。

 そんな二人のやり取りにどこか安堵しながら僕は腰の刀を抜いて魔力を流した。真っ黒な刃はやがて白く光り輝く。



「人間がそんなことをして許されるとでも――」


「それはそうだね。でも、神がすることを全ての人間が許容できるわけないじゃないですか」



 僕はその刃を振り下ろし、水晶を真っ二つに破壊した。それは地面に落ちると同時にキラキラと光を反射させながら粉々に砕け散った。

 僕はシエラとエリンに視線を向けた。



「帰ろうか」


「ふむ、宴会へと向かうとしよう」


「騒がしいのは好みではありませんが、アイラが甘物を作ってくれると言うのならば参加せざるを得ませんね」



 いや、宴会をするなんてこれっぽちも決まっていないんだけれども。

 そんなことを考えながら僕らはメノード島へと戻った。

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