第02話 天才魔法使い、勇者と再会する

 昼食を食べ終わり、僕らは店を出た。



「……美味しくなかったのじゃ」


「美味しくないと言うか……質素だったよね」


「味は必要最低限で栄養は完璧だった。でも人を楽しませる料理ではなかった」



 シエラ、ルカ、アイラの3人は、店を出るなりそんな意見を言い合っていた。なんというかアイラが作る料理とかお城で出てくる料理を食べ慣れている僕らからして見れば食べられない事は無いけど、お世辞にもおいしいとは言えなかった。

 そんなことを考えていると、ポケットから声が聞こえてきた。



「リク」


「エリン、もう大丈夫?」


「えぇ。なのでもう少し人気のないところにお願いします」



 そう言われたので、人通りの無さそうな所に移動してからエリンに出て来てもらった。



「羽虫は本当に貧弱じゃな」


「ここで何も感じない鈍感脳筋変態トカゲには言われたくないですね」



 あだ名がグレードアップした。シエラが何か言い返そうとしているが、その前にエリンの発言で気になったことを聞いてみる。



「何か感じたの?」


「説明しにくいのですが、例の黒い霧のかなり濃密なのがあちらの方から……」



 そう言ってエリンが指さしたのは僕らが向かっている国の中心……多分城の方角だろう。それに加えて、エリンの指は斜め下を向いているので多分地下かな。何だろう……この国の地下すごく怖い。でも調べるのがここに来た目的なのでやむを得ない。取り敢えずは――。



「エリン、シエラがここの真下に人がいるって言ってるんだけど、それを確認できる?」


「分かりました」



 そう言ってエリンが目を瞑って何やら力を籠めると、ストビー王国で地下の貴族を覗いた時のように四角い光に映像が映し出された。

 そこに映っていた鉄格子の中に入っていた人間を見て、僕らは素直に驚いた。いや、だって聞いていた話じゃもっと優遇されているものだと思っていたし。……三人とも多少やつれている気がするのは気のせいだろうか。



「お兄ちゃん、この人たちって……」


「私はこの国での勇者の扱いはもっと良いと思ってた」


「僕もそう思ってたよ」



 そう、勇者三人が牢屋のようなところに入れられていたのだ。一応、3人とも別々の牢には入れられているが、割と近い所にいる。これは別に3人を遠ざけなくても大して問題ないという事なのだろうか。一応勇者のはずなんだけどな……。確かロイドは僕がこの国と敵対してから帰国したはずである。もう本当に嫌な予感しかしない。

 そんなことを考えている間にも、珍しく難しい顔をして考え込んでいたシエラが口を開いた。



「……こやつら誰じゃったかな?」



 勇者と言われてもピンとこない辺り、ロイドたちに対して全く興味がなかったのだろう。しかし、よくよく考えて見ればシエラが勇者と接した機会なんてたかが知れている。ロイドと何処かの関所で会った時はつまらなさそうにしていたし、まともに向かい合っていた他二人の勇者とだって本当に少ししか顔を合わせていない。

 ……それでももう少し覚えていてもいいのではなかろうか。後者に限っては会った時、割と緊迫していたはずなんだけど。どれだけ人間に興味ないんだよ。



「主様よ、それはきっと主様のせいなのじゃよ」



 なぜに?



「話を聞く限り勇者と言うのはそれなりに有名なのじゃろ? それを覚えられないのはきっと主様の印象が強すぎるせいじゃ」



 酷すぎる暴論。なのに誰も反論しないのは何故だろう。

 いや、今はこんなことを言い合っている場合ではない。



「エリン、姿を消してから地下に移動してもらっていいかな」


「牢の中にしますか?」


「そうだね……ロイドがいる牢の中にしてくれるかな」


「分かりました」


「シエラは人が近づいて来ていないか警戒しておいて欲しい。見つかったら面倒なことになりそうだし」


「了解じゃ」


「でもお兄ちゃん、声がしたらそれだけで目立つんじゃないかな?」



 それもそうか。どうしよう。と、思ったがエリンが何か自信気な表情をしていたので聞いてみると、



「そのぐらいなら私に任せてください」



 とのこと。姿を消して忍び込んで音が全て遮断される。僕は犯罪者か何かかな? ……いや、やっていることは明らかに犯罪か。まぁ、でも面会だけなら許されるよね。



「主様よ、それこそ暴ろ――」


「よしエリンお願い」


「分かりました」



 シエラが何を言いかけていたかは知らないが、勇者が捉えられているという訳の分からない状況に混乱していた僕にそれを聞く余裕は無かった(嘘)。





 さて、目下にはみすぼらしい服装を着て小さな空間の端に座り込んでいるロイドがいる訳だが、どう声を掛ければいいのだろうか。

 そんなことよりも、僕が地下について驚いた事がある。皆の姿が見えるのだ。他人からは見えないのに、仲間内にだけなら互いに姿を見ることが出来る。本当に精霊と言うのは凄い。頑張った理由を考えれば素直に凄いとは言えないけど。

 エリンに目を向けると、こくんと頷いてくれたので多分既に音が遮断される精霊魔法は施されている。



「ロイド」


「! リクか? 静かにしないと見張りが――」


「それなら声が漏れないようにしているので大丈夫ですよ」


「……は?」


「エリン、ロイドにも僕らの姿が見えるようにできる?」


「大丈夫です」



 なんというか……好奇心の強い子供の時にこんな魔法使えたら全力で悪戯に使っている自身がある。かくれんぼとか絶対負けないだろうなぁ。



「これは……」


「精霊魔法と言うものです」



 ……って違う。こんな話をしに来たんじゃない。

 取り敢えず僕らがここに来た理由から説明したらいいのかな? いや、ロイドたち勇者がこんな状況になっていることを聞く方が先かな? そんなことを考えていると、先にロイドが口を開いた。



「それで、リクたちは何故ここに?」


「実は――」



 一応この国に黒い霧の原因があるから調べに来たことを説明した。念のため、魔族とのつながりは黙っておいた。別に説明してもよかったが、別に知らなくても話は出来るだろうと言う僕の推測で。決して面倒だったわけではない。



「そうか……。それで、リクが魔族といたと聞いたんだがあれはどういう事情だったんだ?」


「リク様、今凄く面倒くさそうな顔をした」


「今絶対その理由でリリィちゃんたちの事伏せてたよね」



 えっと、なんかすいませんでした。

 特段、答えない理由もないので取り敢えず説明しておいた。



「あまり驚かないんですね」


「あぁ、僕の方も色々あってね……」



 多分だけど勇者が牢獄に入れられているとか言う異常事態の原因を聞いたらこの国が何をしようとしているのかも分かるだろう。そう思ってこの国の仕組みも考慮して話を聞くことにした。

 ロイドは心なしかうつろな瞳をして言葉を紡ぎ始めた。

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