第16話 天才魔法使い、子供の才能に驚く

「おぉ、本当に凄いな、転移魔法は」



 そんな興奮気味の魔王様。ここはメノード島の西の端からさらに西へ進んだところ……つまり、メノード島の漁師たちが言っていた化け物みたいな魚が生息していると言われる場所だ。魔法の練習のついでにシエラの食料確保……ではなく、漁師たちの悩みを軽減してあげようと思ってここを選んだのだ。

 そして、シエラの背中の上にはいつものメンバーと魔王様、サリィさん、リリィがいる。いつかのようにシエラが僕ら以外の人を乗せるのを渋っていたが、リリィの勇士を見たいという魔王様のプライドを捨てたどけ座の前にはシエラも断ることが出来なかったようだ。



「りく、はやくまほつかいたい!」


「じゃあ、シエラからは少し離れようか。っと、その前の魔王様、これ、人間の国の王たちからです。空いている日程を書いているので希望を出してほしいとのことです」


「おぉ、すまんな」



 魔王様が帰ってきたのは今日の昼食前だった。朝、サリィさんがお弁当を届けに行ったときにリリィのことを伝えたら、案の定仕事を早く終わらせて帰ってきたらしい。

 多分見ているだけだと暇だろうし、このタイミングで渡してみた。決して今の今まで忘れていたわけではない。



「リク、その前にアイラが作ってくれたデザートを」



 そういえばそんな話あったな。完全に忘れていた。溶けるものもあるらしいので、取り敢えずアイラに指示されたものだけ出しておく。



「あいらすごーい」


「リク様の持っている道具と素材があれば誰でもこれぐらいできる」


「いえいえ、それだけじゃ無理ですよ。少なくとも私ではこのレベルの物は作れません」


「おかあさんがつくったのもたべたい!」


「それは魔法の練習終わってからね」



 さて、リリィもうずうずしているし始めよう。



~1分後~

「できた!」



 はっや。右手から左手に魔力を流して、何か出来る気がする発言からの行動ですでに魔法使えるとか僕の人生史上最速である。



「さすが俺の娘だ」


「リリィはやっぱり凄いですね」


「えへへぇ」



 この子何処までできるのだろうか。そう思って武器に魔力を流させてみるよう言ってみると、それもあっさりやってのけた。



「じゃあリリィ、こんなのは?」



 と言いながら魔力で作った足場に飛び乗る。



「えっと……こう?」



 僕の様子を見てから、少し考えたそぶりしていた。が、すぐに何か思いついたように実際に実行し、自分で作った足場にピョンッと飛び乗る。

 こんなにもあっさりできるとは思わなかった。



「……なんか悔しい」


「ルカは元から悔しがるほど出来てなかった」


「そ、そんなことはない……こともないけど……」



 こればっかりは個人差あるようだし仕方ないと思う。



『リリィが全力を出したらどのぐらい威力が出るのじゃ?』


「どうだろうね。リリィ、やってみる?」


「やる!」



 と言うので、リリィと空中に立ち、シエラに距離を取ってもらう。



「おとうさん、おかあさん! みててね!」


「おぉ、見てるぞ」


「リリィ、頑張るのよ」



 両親がこちらを見ているのを確認してから、リリィは徐に両手を前に突き出す。



「ほのおでいい?」


「うん。一番やりやすいやつでいいよ」



 リリィが目を瞑って集中し、「えいっ」という言葉と共に、その可愛らしい言葉とはかけ離れた威力が出る。目の前が炎で埋まってしまうぐらいの威力は出ている。

 炎が収まった後、リリィが少しふらりとし、魔力で作った足元が崩れて落下していったのでそちらへと向かって受け止める。



「えへへぇ。りく、みてた? りりぃすごい?」


「凄かったよ。お父さんとお母さんのところに行っても褒めてもらえると思うよ」



 そのままシエラの元へとリリィを連れて行く。

 ぐったりとサリィさんの膝を枕にして横になったリリィは、満足げな表情をしている。その間にも両親からの称賛の嵐は続く。



「リリィちゃん本当に凄かったね」


「リク様が威力を失敗した時ぐらいの威力はあった」


『本当、主様にもリリィを見習ってもらいたいものじゃ。大体失敗してあの威力はおかしいじゃろ』


「まぁ、お兄ちゃんだしね。失敗したせいで大事とかにならないといいけど」



 僕の失敗を強調するのは止めて欲しい。

 そんな中、コートの裾をクイクイッと引っ張られたのでそちらを向くと、そこら辺のお皿をからにしたエリンがいた。



「次のをお願いします」


「ずっと思ってたんだけど、その体のどこに入っていってるの?」


「別に体に入っているわけではないですよ。そもそも私たち精霊は魔力さえあれば食事は必要としないので」



 その割には初めて精霊に会った時、アイラの作った料理にかなりの数の精霊が食いついていた気がするけど。



「人間でいう娯楽だと思っていただければ。リクで言えば旅ですね。別にしなくてもいいという意味では」



 自分と体の構造が違うと、どうしても理解するのが難しいところがあるな。



「それはそうと、リクはしないのですか? 魔法の練習」


「少しだけしとこうかな。正直エリンがいればしなくてもいい気がしなくもないけど」


『妾のことを考えてもっと練習して欲しいのじゃが』



 シエラは怖がり過ぎなのだ。第一、シエラの翼を焼きそうになったのも一度だけなのに。



『体の一部が燃え尽きそうになる経験なんて一度すればトラウマ物じゃ!』



 確かに。そう聞けばかなり怖い話だな。

 と、いうことでアイラが作ったエリンの分のデザートと、サリィさんが作ったリリィの分のデザートを出してから、エリンの背中から降りる。



「じゃ、ちょっと行ってくる」


「わたしもみる!」


「俺も見てみるかな、リクの魔法」


「あなたから話を聞く限りでは凄いのでしょうが……。実際に魔法を使っているところは見たことがないので一度見てみたいです」


「お兄ちゃん、迫力ないからね」


「それはそれでリク様のいい所」


『海で会った魔族も、警戒する相手を間違えていたのじゃ』


「エンシェントドラゴンを見て、その背中に乗っている人間を警戒しろと言うのも無理な話ではあるんですけどね」



 みんな好き放題言ってくれるなぁ。まぁいいんだけどさ。

 その後、魔法の練習をしたり、シエラの背中でくつろいだりしてその日を終えた。

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