第14話 天才魔法使い、トークに圧倒される

 王女姉妹のトークに圧倒され、話の終わりが全く見えず焦りを感じ始めていた時、他の皆が帰ってきたと一人の兵士が伝えに来てくれた。

 それにより、リエル様は落ち着きを取り戻す。



「すみません、私ったら話に夢中になってしまって」


「別に構いませんよ。マルクス王子のこと気に入られてるんですね」


「そんな……。別に好きって訳では……///」



 そう言ってリエル様は顔を赤くする。

 あえて言葉を濁したのに。それもう好きって言ってるのと大して変わらないから。



「ってお姉ちゃん! もうその辺で終わり!」


「あら、もうこんな時間なのね」



 帰ってきてくれて本当に助かった。欲を言えばもう少し早く帰ってきて欲しかった。エリンの目からハイライトが消えているのは気のせいだろうか。



「では私たちはこれで」


「また夕食の時に」



 そう言ってラエル王女とリエル様は部屋を出て行った。

 僕とエリンも皆の元に向かった。





「なんかエリンさんとお兄ちゃん、ぐったりしてない?」


「そんなことはない……と思います」


「僕も大丈夫……多分」



 大丈夫だけど少し休みたい。エリンはするりとポケットの中へ入っていった。少しして、ポケットの中からひょっこりとエリンが顔を出す。



「リク、アイスを一つお願いします」


「了解」



 目の前に現れた魔法陣の上にアイスを乗せる。アイラが作ってくれた分だ。僕のアイテムボックスにいくつか入っている。アイラはまだ未完成だと言うが、十分美味しい。アイスはすぐに魔方陣の中へと消え去った。



「アイナはこれからどうするの?」


「暫くはお城の人が面倒を見てくれるみたいなので、その間に働き口を探そうと思っています」



 これでルカよりも年下のアイラよりも年下なのである。信じられないぐらいしっかりしている。



「ねぇ、お兄ちゃん。言いたいことがあるなら口に出してもいいんだよ?」


「いや、別に何もないよ」



 真面目な話、僕も人のことを言えないので口には出したくない。働くわけでもなく、目的なしに自由に旅をしている僕にとって、アイナの発言は眩しすぎる。



「リク様、美味しい果物いっぱい買ってきた」



 アイラたちが手一杯に荷物を持っていたので、取り敢えずアイテムボックスに突っ込んでおく。



「シエラが食べたそうなものはなさそうだけど……」


「妾は十分食べてきたから問題ないのじゃ」



 そうだよね。シエラが遠慮という言葉を知らないことなんて随分前から知っている。



「満足したのじゃ。じゃから夕食が緑に染まっていても問題ないのじゃ」



 おお、そこまで考えての行動か。意外と気を使ってくれているのかもしれない。……シエラが満足するってどのぐらい食べたんだろう。





「」ダラダラダラ


「シエラ、涎汚い」



 出てきた夕食を見てシエラの口からは涎が溢れ出て来ていた。



「料理人に頼んでお肉料理を作ってもらいました。普段作らないのでお口に合うかは分かりませんが……」



 気を遣わせてしまった。テーブルの上にはステーキが並べられている。さっき満足するまで食べたみたいなこと言っていたとはいえ、こんな料理が出てきてシエラが止まるはずなかった。

 あと数日したら次の国に向かおうかな。シエラのせいで食事の度に気を遣わせるのもあれだし。そんなことを考えながら夕食を楽しんだ。





 日も当たらない地下の牢獄で、とある3人はチャンスを窺っていた。そして、そのチャンスは訪れる。



「これはこれはラエル王女、お会いできて光栄です」



 ハイエナの獣人がやってきたラエル王女に話しかける。

 勿論、3人との間には鉄格子がある。



「随分と余裕そうですね」


「あんな傭兵を雇っているとは、流石、一国の主ですな。是非後で紹介してもらいたいものです」



 狐の獣人が下卑た笑みを浮かべながら語り掛ける。

 彼らはこの時、ラエル王女があんな傭兵がいたら雇えるお金なんて一国の王であっても絶対に出せないと思ったのを知る由もない。

 だが、リクがお金に興味を持たないことをラエル王女は察していた。精霊により悪意がないことを察していることもあるが、何より彼らの地下の金庫にあったお金をこの3人の悪事を暴いた報酬として渡そうとしたときに「子供のためにでも使ってください」と言って、当たり前のように全額返された事がそれが事実だと後押ししていた。



「それより早く我々を解放するちゅー。捕まるようなことをした覚えはないちゅー」



 それを聞いてラエル王女やその後ろにいる大臣、兵士は呆れ顔を浮かべる。

 彼らは知らないのだ。隠し部屋など意味なく突破されたことを。地下にあった、どんな魔法を使っても傷一つ付かないと思っていた巨大金庫を唯の一振りで破られたことを。そもそも帰る家が既になく、その場所もリクの魔法により掘り返されて整えられた庭が見る影もなくなっていることを。



「ではこれはどう説明しますか?」



 ラエル王女が次々とリクが隠し部屋で回収した物を提示していく。そこにあったのは賄賂、密売、人身売買などの悪事の証拠だった。

 それを見せられ、3人はようやく焦り始める。



「と、取引をしよう。私たちは地下の金庫に莫大な金を保管している。この国の3年分の予算はある。頑丈な金庫で私が直接行かなければ開くことも出来ないし、どんな武器、魔法を使っても不可能……な……はず……」



 ラエル王女は彼らの前にあるものを提示した。

 彼らが目にしたのは金庫の中にあったはずの帳簿だった。お金の収支のすべてをがそこにはあった。



「そんな……馬鹿な……」


「誰がそんなことをしたちゅー!」


「隣の国の英雄ですよ」


「「「英雄?」」」



 瞬時に連絡を取れるのは国のトップとギルドだけなので、距離があるデルガンダ王国の情報は当然彼らには伝わっていない。



「数千のドラゴンを一人で倒したらしいですよ。なんでも仲間の妹があなた達に悪いようにされているところを見て、カッとなってやったらしいです。後悔も反省もしていないとも言っていましたっけ」



 彼らはその話を聞いて、先日奪われた一人の少女、アイナを思い出す。



「お前が余計なことをしなければ!」


「何てことしてくれるちゅー!」


「そもそも子供いたぶって遊びだしたのはお前らだろ!」



 ラエル王女はそんな3人を見てひとり呟く。



「こんな者たちを今まで野放しにしていたとは……」



 調べれば調べるほど出てくる悪事の数々にラエル王女は少なからず責任を感じていた。それは後ろにいる大臣たちも同じだ。リクたちが次この国に来る時には、こんなことがない、平和な国にしよう。胸の中でそう誓ったラエル王女はその場を後にした。

 彼らに罰が下るのは全ての悪事を暴いた後の話である。





 翌日、凄く控えめな扉をたたく音と、凄く弱々しい声で目を覚ました。

 アイラはアイナと一緒に寝ているので今日は久しぶりに一人でベッドにいる。



「あの、私です。ギルドマスターです。すみません、助けて欲しいんです。あの――」



 迫力がないせいでいまいちピンとこないが、ギルドマスターが助けを求めるって結構やばい事態だったりするのではないだろうか。僕は目をこすりながら扉へと向かった。

 ふと自分の格好を見る。……着替えるべきだろうか。いや、でもギルドマスターが城まで来るとか緊急事態に決まってるし。まあ、いいか。相手が女性ならまだしもギルドマスターだけなら問題はない。凄く女々しいがあの人の性別男らしいし。そう思って扉を開けた。



「!?」



 そこには深刻そうな表情を浮かべたギルドマスターとラエル王女。そして、その二人の部下らしき者が数名後ろで控えていた。

 ……何この羞恥プレイ。僕は着替えてから扉を開ければよかったと後悔しながら、そっと扉を閉めた。

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