第12話 天才魔法使い、性悪貴族を片付ける

「兄ちゃん、そっちは護衛が多いからこっちから行った方が――」


「いや、面倒だからいいよ」



 一人少年が加わったので、僕らは歩いて移動していた。



「ちょっとここで隠れててね」


「う、うん」


「シエラ、この子の護衛よろしく」


「うむ」


「エリン、行くよ」


「分かりました」



 僕は正面から突っ込んだ。こちらに気付くが早いか彼らの上空に魔法陣が現れ、それを通過して威力の弱められた雷が落ちる。

 倒れた彼らは地面に現れた魔法陣の中へと落ちていく。



「うっそ……」


「シエラ、他にいる?」


「後は建物の中だけじゃ」


「よし、じゃあ行こうか」



 少年の案内の元、真ん中にある巨大な屋敷以外は調べ終わった。



「に、兄ちゃんは何者なんだ?」


「旅人だよ」


「間違えてはおらんが……」


「それでは納得できませんよね」



 間違えていないんだからそれでいい気がするんだけどな……。



「それより、あの屋敷の中も分かる?」


「あの建物は入ったことないんだ。何か大事なものがあるらしくてちゃんと雇っている人しか入ってるところを見てない」



 ふむ。じゃあ、この子には一足先にみんなのところに行ってもらおうか。なんかリーダーっぽかったし早くみんなのもとに返した方がいい気がする。

 よく考えれば気絶した人が山盛りの僕の部屋に放り込まれてるのか。恐怖でしかないな。



「分かった。そういうことなら俺、皆のところに行く」



 と、言ってくれたので僕の部屋へ行っていただいた。



「兄ちゃん、後でちゃんと話聞かせてくれよな!」


「大人しくしてたらね」


「うん!」



 魔法陣が光り輝き、彼の姿が消えた。

 さてと、これで最後だ。





「後は地下にいる3人だけ?」


「そのようじゃな」



 多分ここまで来ていなかったから例の貴族3人衆だろう。

 ちなみに、建物の地上から上はすべての部屋を捜索して、あったものは回収している。



「わざわざ地下にいるなんて何の話してるんだろうな」


「覗いてみますか?」


「え?」



 エリンが力を籠めると、空中に出来た四角い光に映像が映し出された。暫くして、声も聞こえてくる。



「そんなことがあったのか」


「連れ去られた獣人の子供の姉の知り合いみたいでした」


「我ら三大貴族に逆らうとはいい度胸してるチュー」



 こいつらそんなに偉いやつだったのか。というか語尾がチューって何かダサいな。



「ふんっ。どうせ貧乏人だろ。だが仕返しはせんとな」



 これでもお金はこの先困らないぐらいには持ってるんだけどな。



「あいつの周りにいたガキどもがいました」


「そいつら攫えばいいチュー」



 うわぁ。ふとシエラとエリンの方を向くとごみを見る目で映像を眺めていた。



「こいつらなら燃やしても問題ないと思うのじゃが」


「そうですね。私がいればリクの言葉は信用されるでしょうし、罪を逃れるのも簡単だと思います」



 怖い。君たち怖い。気持ちは分かるけどさ。いや、分かるからこそ。



「建物は消し飛ばそうか」


「流石は主様じゃ」


「異議なしです」



 僕らは彼らの元へと向かった。穴をあけて真上から。



「な、なんだお前らは!」


「護衛どもは何してるチュー!」


「お前はあの時の――」



 さて、彼らも送ったことだしこの地下にあるものも全部回収しておくか。





 建物を壊そうとしてふと思う。隠し部屋とか無かったのだろうかと。なので、上から順番に炎で消し炭にしていった。屋根消すと屋根裏部屋が、天井を消すとまだ捜索していなかった部屋が出てきたので遠慮なく全部回収した。

 地面にも隠し部屋があったりするのだろうか。そう思って適当に地面を掘り返すと、銀色の四角い塊が出てきた。高さだけでも大人二人分はありそうだ。



「金庫ですね」


「見た目は頑丈そうじゃな」


「取り敢えず中身回収しようか」



 刀で角を切り落としてそこから入る。



「容赦ないですね。相手が相手なので可哀そうとも思いませんが」


「くっくっく。妾の仲間に手を出したこと後悔するといいのじゃ」



 二人とも悪い顔してるなあ。取り敢えず、中に入っていたお金と紙切れを回収する。



「あれ、何か騒がしいな」


「建物が燃えることなく消し炭になる威力の炎なんて出したら見つかるに決まっておるじゃろう」


「それに、地面があんな風に掘り起こされるとそれなりに音もしますし」



 と、言う事で自分の部屋へと戻った。



「兄ちゃん! 大丈夫だったか?」


「まあね」



 それにしてもなんというか……物凄い絵面だな。部屋の広いスペースには人が山積みになっている。そして部屋の隅では子供たちが大人しくしている。

 そんなことを考えていると、ノックもなしに扉が開かれた。



「お兄ちゃん、帰って、る!? ……ついにやっちゃったの?」


「やってない」



 確かに山積みになっているのを見たらそう見えなくもないけれど、そういうことを言うのは止めて欲しい。僕がそんなことするわけないじゃないか。



「あの……兄ちゃん、部屋から出るなって言われてたから……」



 うん、それは僕が悪かった。トイレぐらいは許可しておくべきだったか。僕は謝りながら魔法で奇麗にした。ついでにこの子達の傷も治しておこう。

 さてと。



「ルカ、その扉閉めてくれる? ラエル王女にでも見られたら面倒なことに――」


「ルカちゃん? こんなところで何をしているのです、か!?」



 遅かった。





「と、いうことです」



 カッとなってやってしまった。反省も後悔もしていない。そうきっぱり言った僕は呆れ顔で二人の王族に眺められた。



「私たちも彼らの悪事を見つけられずに手を拱いていたのにたった3人で……」


「お兄ちゃんとシエラさんとエリンさんがいたらそうなるよね」


「うむ」


「そうですね」



 何でちょっと誇らしげなんだよ。



「今は彼らの屋敷に誰もいないということですね。私たちの方で調査に――」



 ラエル王女がそこまで言って兵士が入ってくる。結局扉閉めてなかった。



「ラエル王女! 例の3人の貴族の屋敷が消滅し、まし、た……」



 ラエル王女がここに居るのを知って僕の部屋に来たのだろう。例の3人で通じるぐらいあの貴族有名なのな。その兵士はこの部屋の景色を見て声が小さくなっていく。



「なっ!」



 ルカとラエル王女の視線がこちらへと来たので、つい視線をそらしてしまった。ラエル王女の目は素直に驚いたものだったが、ルカはさほど驚いていなかった。何でだろうね。



「主様の命令じゃったからな」


「私はリクの意見に反対したりしませんよ」


「いや、二人とも結構乗り気だったじゃん」



 僕の言葉に目を逸らす。ここまできてなに自分は悪くないですみたいな感じを出しているのか。そんなことはさせない。



「それでお兄ちゃん、この人たちどうするの?」


「本当は屋敷に返そうと思ってたんだけど……」



 もし僕の姿を見ている人がいなければ、新手の盗賊にでも入られたと思って諦めてもらう予定だったのだ。屋敷を燃やすことが決定した辺りから諦めた予定である。だが、その理由以上に……。

 僕は部屋の端で大人しくしている子供たちに目を向ける。



「この子達戻すのはちょっと心が痛むというか、ね?」


「ラエル王女、これどうするの?」


「何か悪事の証拠でもあればこちらで確保することもできるのですが……」


「それなら大丈夫だと思います。屋敷にあった物は一通り回収してきたので。隠し部屋にあった物から地面に埋まってた金庫の中身まで」


「ねぇ、お兄ちゃん。そういうの泥棒って言うんだよ?」



 自分でもわかってるからその辺は言わないで欲しい。



「主様、妾はそろそろ寝てもよいか?」


「いいよ。手伝ってくれてありがとう」


「一応主様の従魔じゃしな。気にせんでもよいぞ」


「あの人が……従魔?」



 助けた少年が不思議そうな目線をこちらに向けてくる。



「では私もお先に失礼します」



 エリンは小さく欠伸をしながら僕のコートのポケットの中に入っていった。



「えっと、証拠ってどれですか?」



 僕は適当にアイテムボックスから紙切れを出していった。



「少し待ってくださいね。それ担当の者を呼んでくるので」



 ラエル王女は兵士を連れてどこかに行ってしまった。



「それで僕に何か用だったの?」


「アイラとアイナが寝ちゃって暇になったからちょっと見に来ただけ」


「兄ちゃん、本当に旅人なのか?」


「そうだよ」



 僕の言葉を信用できなかったのかルカの方に視線が向く。



「間違ってはないんだけど……う~ん」



 何かシエラとエリンも同じ反応してた気がする。

 子供たちとその横にある死屍累々な景色を見ながら、これどうしようと僕は一人頭を悩ませた。

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