第03話 天才魔法使い、魚を狩る

「まさか自爆するとは思わなかった」


「船の破片何て何に使うの?」



 船が爆発した後、急いでその破片を出来る限り僕のアイテムボックスに入れたのだ。



「デルガンダ王国のギルドに持っていくのがいいかな。一応、国と協力してこの間のドラゴン騒ぎ調べてるらしいし」


『今すぐ戻るのかや?』


「涎汚い」


『うぐっ』



 アイラの突っ込みがシエラにクリティカルヒットした。どうせこの間、王都の人がくれた食べ物を思い出したとかそんなところだろう。



「いや、せっかくだしガノード島もちょっと調べよう。何か残ってるかもしれないし」


『了解じゃ』



 王都の料理がおいしかったのは分かったからそんなに残念そうにするのは止めて欲しい。



「そういえば、シエラさんはあのドラゴンの集団追いかけるとき三日間寝ずに飛んでたの?」


『当たり前じゃ。2,3日寝なくても妾は平気じゃ。……な、なんじゃその目は!』


「早めに飛んで他のみんなが来るのを待つ間に寝てたとか? 小さい島なら途中にいくつかあったし」


『そ、そ、そんな訳ないのじゃ』



 図星かよ。そういえば、シエラとの速さの差のわりに他のドラゴンとそんなに離れてなかったな。シエラからガノード島で何かあったか聞いてる間に追いついてきたし。

 ということは後ろから付いてきてたドラゴンは3徹か。シエラはほんと、いいご身分だ。シエラみたいな人の部下とか絶対なりたくないわぁ。



『か、勘違いするでない。妾は見方を気遣える心優しいエンシェントドラゴンなのじゃぞ? ……じゃ、じゃからそんな目でこちらを見るのをやめるのじゃ!』


「他のみんながかわいそう」


「お父さんと兄貴も似たようなことしてるから強く言えない……」


『ルカは妾の気持ちを分かってくれるのじゃな?』


「ル、ルカはそんなことしてないから分からないもん!」



 確かにあの国の陛下と王子なら大臣たちに迷惑をかけていてもおかしくはないな。世界を舞台にした鬼ごっことか迷惑でしかないし。



『主様、そろそろ着くのじゃ』





 シエラから降りた後、僕は辺りを光で照らした。



「うわぁ」


「……地獄絵図?」


「まぁ、ここに居たドラゴンが戦ったらこうなるよね」



 そこにあったのはただただ広がる焼け野原だった。あちこちが焦げ付いていて、ところどろころに生き残った草花が残っている。



『二,三百年もすれば元に戻るから問題ないのじゃ』



 流石ドラゴン、人間とは感覚が違うな。二、三百年待てばいいと考えられるところが人間とは違う。そういえばシエラって何歳なんだろう。



『妾か? 千年は生きとると思うのじゃが……』


「せっ……!」


「おばさん」


『失礼なことを言うでない。人間で言えばまだ……何歳なのじゃ?』



 知らんわ。



「お兄ちゃん、お腹空いたー」


「そうだな。ちょっと魚取ってくる」



 そういって行こうとした僕のコートの裾をアイラとルカが引っ張る。



「お兄ちゃん、ここに置いて行かれるのは流石に怖いんだけど……」


「私たちもついて行く」


『妾が案内するとなると二人置いて行かねばならんしなぁ』


「じゃあシエラ、また頼む」


『任されたのじゃ』



 かなり薄暗くなってきた空に向かってシエラが飛び立つ。



「シエラ、見えてる?」


『このぐらいの暗さなら問題ないのじゃ』


「じゃあ、僕は見えないから任せるよ」


「狩場に着いたらもう一度光を出せば魚が来るかも」


『ナイスじゃアイラ。主様、任せるぞ』


「了解」



 ルカの顔が青ざめているように見えるのは気のせいだろうか。まぁ、ここらへんで見た唯一の魚があれじゃ無理もないか。





『主様、着いたぞ』



 その声を聞いて僕は適当な位置に光の球を出した。



「「「……」」」


『主様、皆が乗っていて動けんから仕留めるのは頼んでよいか?』


「え、あ、うん」



 光に照らされた海にはドラゴンの数倍はある大きい蛇のような形をした魚影だった。シエラってこいつどうやって狩ってるんだ?



『狩ったことなどないぞ。いつも逃げられるのじゃ』


「ねぇ、これ美味しいの?」


「アイラ、分かる?」


「ごめん、あんなの見たことないから分からない」



 まぁ、そうだよね。というかシエラさん? よく分からない魔物のところに僕を連れてくるのは止めて欲しいんだけど。



『かみついた時に美味しいのは確認済みじゃ』



 なんだその確認方法は。まぁ、あれを倒すのは変わらないけども。



「シエラ、二人を任せたぞ」


『了解したのじゃ』



 僕らの周りをぐるぐると回っていた魚? がこちらに向かって飛びついてくる。



「はっや」


「お兄ちゃん、それ本当に思ってる?」


『一連の動きに無駄がないのじゃ』


「鮮度は大事」



 飛びついてきた魚の上空に移動し、首を刎ねてアイテムボックスに収納した。アイラの言う通り鮮度は大事だと思う。新鮮な魚が美味しいのはシートルの街で確認済みだ。



「よし、帰るか」


『早く食べたいのじゃ』


「アイラ、あれ一人でさばけるの?」


「僕も出来う事なら手伝うよ」


「リク様が手伝ってくれるなら多分大丈夫」



 アイラが凄く勇ましいことを言う。味付けとかは絶対できないけど、素材のぶつ切りとかなら任せて欲しい。





 ガノード島に着いて僕らを下ろすと、シエラはすぐに人の姿になった。



「主様、妾にも仮面とトランプをよこすのじゃ!」


「はい、これでいい?」


「ルカ! トランプをするのじゃ!」


「ふっふっふ。お兄ちゃんたちにも勝った私の実力見せてあげる」



 二人のところとアイラの手元を照らせるように光の球を出す。僕とアイラは料理の担当ということになったので、トランプは不参加だ。というか、二人でやるのなら仮面を付ける意味ないと思うんだけど。楽しそうだから別にいいんだけどさ。



「リク様、調味料は――」



 アイラに言われた調味料と、適当なサイズに切った魚? をアイテムボックスから出す。

 その後は言われるがままに素材を魔法で切っていった。アイラは手早く下ごしらえを終え、少し考える素振りをする。



「どうしたの?」


「一気に過熱したいけど私はまだ手加減がうまくできないからリク様にお願いしたい」


「でもこの量一人じゃ厳しいな」



 シエラのことを考えてアイラはかなりの量を作っていた。さて、どうするか。と、考えて僕とアイラの視線がとある人物へと向く。



「ん? 何じゃ?」


「シエラって火の魔法使える?」


「魔法ではないが使えるぞ」


「お兄ちゃん、急にどうしたの?」


「シエラに料理を手伝ってほしい。私とリク様じゃ難しい」



 シエラとルカに事情を話してトランプを中断してもらった。



「このくらいでどうじゃ?」


「もう少し弱い方がいい」


「こうか?」


「そのぐらい。これを焼いてほしい」



 シエラが手のひらを前に向けて、そこから炎を出す。ドラゴンって口からじゃなくても炎出せたのか。



「……かば焼き?」


「ご飯もこっちにあるぞ」


「(じゅるり)」



 シエラさん? 仮にもドラゴンの中の頂点の存在なんだからだらしない顔をして涎を垂らすのは止めた方がいいと思うんだけど。

 シエラがぎくりと動いて涎を拭く。何も反論してこないのはアイラやルカにばれたくなかったからだろう。

 一通り焼き終わり、アイラとシエラ、ルカが盛り付けていく。その間に僕は寝床を作る。僕は少し離れたところで手をかざした。



「ん?」


「どうしたの?」



 たまたま気が付いたルカがこちらに近づいて来る。

 魔法で人が入れるぐらいの空間を作る。地面に出来た穴をじっと見つめてみるが、暗くて何も見えない。



「この下に変な空間がある」


「ほんとだ。暗くて全然見えないけどなんか結構深そう」



 魔法で照らすと、そこには大量のドラゴンの死体があった。

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