遊び
翌日日曜日。お昼前に千早が、いつものように、
「お~し! 今日も行くぞ~!」
と声を上げながら立ち上がります。沙奈子さんに料理を学びに行くのです。とは言っても、事実上、ただ遊びに行っているだけと同じですが。
千早にとってもヒロ坊くんにとっても、あくまで楽しいだけで、義務感や責任感とは無縁の行為でした。沙奈子さんとの遊びが、たまたま<料理>という形だったにすぎません。
「はいよ~!」
ヒロ坊くんも気軽な感じで応え、三人で出掛けました。
五分とかからず沙奈子さんのアパートに着き、
「やっほ~! 沙奈ぁ~♡」
やや鼻にかかった甘えるような声で千早が挨拶をしました。山下さんもそんな千早の様子に眉を顰めるでもなく、微笑ましそうに迎え入れくださいます。
今では千早が沙奈子さんを大切に想い、守ろうとしているからこその表情でしょうね。でなければただの行儀の悪い子供でしかありません。千早自身の行いが、山下さんの寛容を呼び起こしているのでしょう。
そうして流れるように昼食作りを始めた三人を、私は、山下さんとビデオ通話の向こうの玲那さんと共に見守ります。
その時、
「館雀さんの様子はどうですか?」
山下さんも気になってらっしゃったのでしょう。なので私も応えます。
「今は自宅にいるようです。出掛ける様子はありませんね」
「そうですか」
ホッとした様子の山下さんに、
「彼女について、分かったことがあります」
と切り出しました。
すると山下さんは姿勢を正し、話を聞く体勢を整えます。
「彼女は去年、母親の再婚で現在の住所に引っ越して来たようです。それに伴って中学も転校し、結果として私たちの通う高校に入学することになったようですね。
以前に通っていた学校関係者や彼女を知る人物の証言によると、昔から両親との関係はあまり良好ではなく、度々問題行動を起こして、それが原因でイジメを受けた時期もあるとのことです。
両親は、あまり親しくない人からはいわゆる『普通の人』であるという評価のようですが、その人となりを良く知る人物からの評判はあまり良くありませんね。一見すると人が良さそうにも見えながらも自分の都合を最優先し、何か気に入らないことがあると激高して声を荒げるということもあったようです。それが故に夫婦仲も良好とは言えず、互いに罵り合って諍いを起こす様子が、決して少なくない頻度で近所の住人の耳にも届いていたようです。
彼女の振る舞いは、両親のそういう部分の影響を色濃く受け継いだものと思われます」
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