ラブレター事件 その15

「何あれ……!?」


『ふざけんな!』と声を荒げて出ていってしまった館雀かんざくさんに、フミは怒るのを通り越して呆れていたようでした。


私は言います。


「探偵社に依頼して、行動は監視してもらっています。もし何かしようとするなら即座に通報するようにお願いしていますので大丈夫だとは思いますが、なかなか強情な人ですね」


探偵社からの、


『二十四時間監視、開始しました』


との返信をスマホで確認しながら。


日常的に私が色々なことを依頼しているからか、その探偵社は非常に迅速に対処してくださるのです。


するとカナが、


「さすがピカ。抜かりない」


と言ってくれますが、このようなことはない方がいいので、正直申し上げてあまり嬉しくはありません。


さらにカナはイチコに向き直り、尋ねます。


「にしてもイチコ。これからどうすんの?」


「どうするもこうするも、それは館雀さん次第かな~」


先ほどのやり取りを経てもイチコはいつもと変わらず飄々としていました。


「昨日今日と話してみて感じたけど、館雀さん、自分でもどうしたいのかよく分かってないみたいなんだよね。だからさ、とにかく本人が自分の気持ちとか望みとかがはっきり分かるまで話を聞いてあげたらいいんじゃないかな」


とも。


しかし、そんなイチコに対してフミは、まるで泣いているような表情になります。


「だからイチコは優しすぎだって! ああいうのはガツンと言ってやらなきゃダメなんじゃないの!?」


フミの抗議に対しても、イチコはフワッと微笑みながら返すだけです。


「本人が分かってないのにガツンと言って分かるのかなあ? 私はなんてガツンて言ったらいいのか閃かなかったよ」


確かに。


私もこの場で館雀さんの様子を見ていても、彼女に対して攻撃的に対応するのはむしろ相手の思う壺という印象しかありませんでした。


彼女は結局、相手を煽ることで自身のペースに巻き込もうとしているだけなのでしょうね。だけどイチコもお義父さんもまったくそれに乗ってこないから、彼女としても攻めあぐねている。


私にはそう見えたのです。


フミの言うように『ガツンと』言ったところで、彼女には通じなかったでしょう。その程度はおそらく慣れているでしょうから。


あのように相手を挑発するような言い方をしているのですから、当然、これまでにも攻撃的に相対してきた人はいたでしょうし。




「だからどう責任を取ってくれるんですか!?」


翌日も館雀さんはイチコの家に押し掛け、そう問い掛けます。ですがイチコはやはり、


「うん、何度も言ってるけど、具体的な内容が分からないとどうすればいいのかが分かんないんだよね」


と平然としていたのでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る