ラブレター事件 その5

とにかく私達は気を取り直して、下校することになりました。


その間もフミは気が治まらないらしく、非常に荒れた気配を発していましたが。


しかも、家に帰るとお母さんとの間でまたいざこざがあったらしく、さらに心を乱されてしまったようです。


いつもより遅れてフミが現れると、


「フミちゃん、大丈夫?」


玄関で出迎えたヒロ坊くんが彼女に問い掛けるのが二階まで聞こえてきました。彼は表情などから私達の精神状態を鋭く感じ取ることができるのです。そして、気遣ってくださる。それがあるからこそ、フミもカナも感情を普段は爆発させずに済んでいるというのも間違いなくあります。それがなければ、鬱憤を誰かにぶつけてしまっていたでしょうね。


「あ~、ヒロ坊に心配かけちゃった……」


二階に上がってきたフミが申し訳なさそうに呟きました。そんな彼女にイチコが、


「平気だよ。あの子はちゃんと分かってるから」


となだめます。


「ありがと……」


フミもその時には納得したのですが、しばらくあの#館雀__かんざく__#さんのことについて話をしているうちにまた感情が昂ってきたのか、


「あ~もう…あ~もう……!」


とイライラしてくるのが分かります。


そこに、仕事を終えて沙奈子さんを迎えに来た山下さんが現れたのですが、


「……ホント、何なのあの子!? 意味不明なんですけど!?」


突然、フミが声を上げました。それまで口には出さずに頭の中であれこれ考えていて、ついそれが言葉になってしまったようですね。それを、カナが、


「まあまあ」


と改めてなだめます。


「なにか、あったんですか?」


山下さんが少し驚いた様子で尋ねてきました。なので私が応えます。


「実は、学校の方でちょっとトラブルがありまして。それ自体はあまり大きなトラブルではないんですが、その時の相手の方の言動がやや突飛に過ぎまして、それでフミが怒ってしまったんです」


続けてイチコも。


「私の靴箱に間違えてラブレターを入れちゃった子がいて、それを私たちが読んじゃったんだ。で、ラブレターを入れた子がそれでショックを受けちゃったみたいでさ」


しかし当のイチコがそんな風に飄々としているのが余計に刺さってしまったのか、フミがカッと目を見開いて、


「あれって、ショックとか何とかいう感じ!? 明らかに頭おかしいレベルだと思うんですけど!?」


などと声を荒げてしまいました。


ですがイチコは穏やかに言ったのでした。


「フミも落ち着いて。私はもう別に怒ってないから。


確かに気分悪い言い方だったけど、ラブレター見られちゃって照れ隠しってのもあったのかもしれないしさ。


とにかく言われたのは主に私なんだし、フミがそこまで怒ることないって」


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