父から教わる

父は続けます。


「私の父、つまり君の祖父も、決して家庭的な人ではなかった。実に自由奔放で豪放磊落。人間としては大変に魅力的な人物だったが、仕事以外でも人付き合いを理由にほとんど家には帰らない、何人もの女性と浮名を流す、<父親>としてはおそらく『最低』の部類に入る人だっただろう。


若い頃にはそんな父に反発し、『自分は決してこうはなるまい』と考えもしたが、瑠理香るりかと結婚してからは彼女一筋という意味では父とは違っていたものの、十分に家庭を省みることができなかったという点では、父と同じ過ちを犯してしまったと思ってる。


そして残念なことに、瑠理香も私とよく似た人だった。


そのせいで君には本当に申し訳ないことをした……せめてもと思ってシッターや家政婦をつけたりもしたものの、シッターや家政婦は<親>じゃないということを、私達は十分に分かっていなかった。私は自分が子供の頃に父を求め、しかし素直になれずに反発していたのと同じことを繰り返してしまった……


だけど今の君は、かつての私とは違う。とてもいい表情をしていると思う。いい出逢いをしたのだと、瑠理香と一緒にとても喜んだ。私達は救われたのだと感じたよ。


今、君の周りにいる人達には、感謝しかない。


だからもし、私達の力が必要ならば遠慮なく言ってほしい。親としては未熟だった私達の力が及ばなかった部分を代わりにしてくれた人達に対して、恩返しがしたいと思ってるんだ」


ボンゴレビアンコを作りながら、父は自らの中に秘めていた想いを吐き出すかのように、そう語りました。


私は、それを聞いただけで、胸がいっぱいになっていました。これまでのわだかまりが氷解するような気持ちにすらなっていました。私が寂しい思いをしていた時に、両親もまた悩んでいたことを知り、心が軽くなるのを感じたのです。


もっとも、この時には確かにそういう気持ちにもなったのですが、人間の心理というのはそれほど単純なものではないこともまた改めて思い知らされることにはなりつつも、それでも、間違いなくマシにはなったのです。


この後、話に夢中で余計に手際が悪くなってしまったことでいささか残念な出来になってしまったボンゴレビアンコでしたが、でも、どんな高級な料理よりも、私の胸を満たしてくれたのは間違いありませんでした。


とても優秀で、人としても完璧なように他人には見えるであろう父にも、未熟で足りない部分があるというのを本人の口から聞かされ、やはり人間は完璧にはなれない。完璧でない自分を必要以上に卑下しなくてもよいのだと、父から教わることができたのでした。


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