父と娘のコミュニケーション
「何かいいことがあったみたいだね」
家に帰ると、今日は父が先に帰宅していました。そして私の顔を見るなりそう言ったのです。
そして、
「今日は私が夕食を作るよ。パスタでいいかな?」
と尋ねてきました。
「あ、はい」
私は思わずそう応え、テーブルに着きます。
すると父は、キッチンに入ってパスタを作り始めました。
料理は必ずしも得意ではない父でしたが、数は少ないもののそれなりに作れるものもあり、パスタ料理もそのうちの一つでした。
「久しぶりにボンゴレビアンコが食べたくなってね。材料も買ってきたんだ」
と言いながら、必ずしも手際がいいとは言い難い手つきで、包丁を使います。
実を言うと、母も料理は得意な人ではありませんでした。なのでいつもは家政婦に作っておいてもらうことが多いのですが、今日は久々に自身の作るパスタが食べたかったということで、断ったそうです。
「美嘉には言ったかな。昔、海外出張していた時に現地でパスタ料理については仕込まれてね。
突然、そのような話を切り出され、私はやや戸惑っていました。そこに、
「……美嘉には、寂しい思いをさせてしまって申し訳ないと思ってる……」
と。
「お父様……」
その言葉で、父がどうして急にこのようなことをしたのかを察してしまいました。彼なりの、
<父と娘のコミュニケーション>
のつもりだったのでしょう。
大手家電メーカーの重役も務める一流のビジネスパーソンである父も、家庭では一人娘とのコミュニケーションに戸惑う凡庸な父親だったのです。
彼は続けます。
「私も瑠理香も君に構ってあげられなかった……
私達は決して<良い親>ではなかったと思う。そのせいで美嘉は
私達は悩んだよ。どうすれば君が自ら不幸になるような振る舞いをしていることに気付けるか、考えた。君を公立の高校に通わせるようにしたのも、その為の施策の一つだった。それまでとは違う環境に置けば、新たな視点を得ることができるんじゃないかと思ったんだ……」
「……」
「本当なら、私達自身が君と向き合うことで気付かせてあげるべきだったんだろう……
でも、私も瑠理香も、<親>としてどうあるべきか、何を君に伝えるべきかという明確なビジョンがなかった。私達は多くの人と出逢い、多くのことを学んだが、皆、ビジネスパーソンとしては優秀な人達だったが、残念ながらその中で<親としての在り方>を教えてくれる人はいなかったんだ……」
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