こんな時だからこそ
夏休みが終わり新学期が始まったある日、フミが言いました。
「来週はカナの誕生日だよね。こんな時だけど、こんな時だからこそちゃんとお祝いしなきゃね」
その通りだと思いました。
「ありがと。フミにそう言ってもらえると嬉しいよ」
カナも頬をほころばせます。
辛い時、苦しい時こそ穏やかに日々を過ごすことを心掛ける必要があると、私も感じています。
でないと精神をより擦り減らし、他者や社会を恨んでしまう傾向にあると考えるからです。
そしてそれは、本来は被害者である筈の方が追い詰められて加害者へと転じてしまう危険性を高めることになると私は考えるのです。
カナは、確かに<犯罪加害者の家族>ではありますが、それは本来、カナ自身には何の落ち度もない、偶然の産物でしかありません。
例えばカナが、カナのお兄さんに何らかの加害行為を行っていたのであればまだ分かるのです。ですが、カナは、多少はお兄さんに反発していた部分はあっても、結局は一方的な被害者でしかありませんでした。
幼い頃から、性に興味を持ち始めたお兄さんにあてがわれたスケープゴートとして扱われ、お兄さんがあの事件を起こす直前にはレイプ未遂まで……
そんなカナに、いったい、何の責任があるというのでしょうか?
世間から責められなければいけない理由がどこにあるというのでしょうか?
だから私は、カナが、穏やかで、小さな幸せを感じられる時間を過ごすことを支えたいと思います。
多くの人はそれを、
『不謹慎だ!』
と罵るかもしれませんが、カナはしっかりと被害女性に対する負い目は感じていますし、世間に対して、日々を楽しんでいる、被害女性を蔑ろにしている、というようにとられかねないことをしている訳でもありません。そんなカナを、加害者家族だからというだけで責めている方々は、一体、普段からどれほど聖人君子のような清廉とした日々を送っているというのでしょうか?
私は、自らを省みてもそのような生き方をしていた記憶がありません。ましてや私は、法律上の責任は問われなかったというだけで、むしろ加害者側として過ちを犯した人間です。
そんな自分にカナを責める資格があるとは、微塵も思いません。
だからカナには幸せになっていただきたいのです。自身がこの世に生まれてきたことを後悔していただきたくないのです。
そのために、私も微力ながら力になりたいと思います。
カナの誕生日パーティを行うことを取り決め、その日は解散となりました。
「カナ姉の誕生日パーティ、楽しみだな~」
嬉しそうに笑顔を向ける千早を家に送り届けながら、
「そうですね」
と、私も笑顔を返させていただいたのでした。
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