夏休み最後の
夏休みも残り一週間。私達は、夏休み最後の大きなイベントとして、水族館に来ていました。皆、課題や宿題は一通り終わっているのですが、それだけにスケジュールに余裕を持たせたいからです。残りの一週間は、ひたすら体と頭を休めるために使う予定です。
しかし、夏休み最後の土曜日ということもあってか、人出は大変なものでした。はぐれないようにと考えるとそればかり気になってしまって楽しめない可能性もありましたので、敢えてはぐれても大丈夫なようにと、携帯電話を持っていないヒロ坊くんとイチコには私が用意したスマホを持ってもらうことにしました。
千早は既に私が渡したスマホを持っていますので大丈夫なはずですが、念の為、バッテリーの状態等を確認しておきます。
その上で、
「もし連絡が取れなかったとしても、午後三時に正面入り口のところで待ち合わせということで」
と、万一に備えました。
するともう、入場してすぐにそれぞれが見たい展示の方へと移動してしまい、バラバラになってしまったのです。
そして私は、ヒロ坊くんと二人きりでした。
ヒロ坊くんは大水槽の前で、サメやエイやイワシなどが泳いでいる様子を食い入るように見ていました。
私はそのすぐ隣に寄り添うように立ちます。そうすると時折、彼の体が触れて、その度に私の心臓はどきんと強く脈を打つのです。
ああ……幸せです……
このまま時間が止まればいいのに……
そんなことも思ってしまいます。
けれどもちろん、時間は止まってはくれません。
ふと気付けば、イルカショーの開園時間が迫っていました。
「イルカショーが始まりますよ。どうしますか?」
私が問い掛けると、彼は、
「う~ん、今日はいいかな」
とのことでした。今日の気分としては、イルカショーよりもこうして水槽の中の魚達を見ていたいという感じだったのでしょうか。
私としては、彼と一緒にいられればそれこそどちらでもよかったのですが。
二人きりですし……
周りにたくさんの人がいても、それほど気を配る必要もない見ず知らずの他人ばかり。私にとってある意味では展示されている魚と変わらない存在です。
こうして思わぬ形で彼と二人きりの時間を堪能できて、私はとても満たされていました。
『水族館に来て本当に良かった……』
正直申し上げて、別荘の時よりも充実した時間だった気もします。
あちらはカナやフミや千早や玲那さんのためという意味合いが強かったので、もちろんそちらも大事でしたが。
対して、今日は、あくまで私自身のためになった気がしたのでした。
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