星空
『カナ。幸せになってください。諦めないでください。でないと私は……』
そう申し上げた私に、カナは微笑みながら言ってくれました。
「分かってるよ。私もピカのことが好き。大人相手でもガーンとタンカ切ってみせるカッコいいあんたも好き。ヒロ坊のことで頭が一杯になってあわあわしてるあんたも好き。あんたが泣いてるところなんて、私も見たくない。
だから負けない。ロクデナシの兄貴にも、自分が育てた子供にも向き合えない根性なしの両親にも、正義面した卑怯者共にも。そしていつか、この恩を返す。何十年かかったって必ず返す。まあ、金銭的じゃなくて、精神的にってことにはなるかもしれないけどさ」
最後はちょっと申し訳なさそうに頭を掻きながらでしたが、カナのその言葉は本心からのものだと感じられました。そんな彼女に、私も、
「大丈夫ですよ。そのために必要なサポートはしますから」
と応えさせていただきます。
すると、どちらからともなくクスクスと笑みがこぼれ、いつしか一緒に笑い合っていました。
それはとても心地好い感覚でした。
他人を思い通りに操るのが当然だと思っていた頃の私では、決して味わうことのできない気持ちでした。
それを『綺麗事だ』と嗤う方は嗤えばいいでしょう。かつての私もきっと、今の私を見れば嘲笑うに違いありません。
ですが私はもう、そのような私自身に惑わされることもないでしょう。
これは他でもない、今の私自身にとっての幸せなのです。過去の私のものではありません。
こういう幸せがあることを気付こうともしなかったかつての私には理解できないでしょうから。
やがてあれほど大量にあった花火もなくなり、私は、
「それでは、片付けましょう。使った花火は全て水に浸せていますか? 周囲に火種は落ちていませんか? 後始末もきちんとしてこその花火です。
先ほども申し上げましたが、不始末が原因で火災になってはせっかくの楽しい思い出が台無しです。それを心掛けたいと思います」
そう言いながら、自らも注意深く周囲を見て回りました。自らが率先して行わなければ、千早に示しがつきませんので。
一通り片付けが終わり、アンナが最後の確認を行っている時、カナが空を見上げ、
「お~っ! 花火も綺麗だったけど、星もすげ~っ!!」
花火を始めた頃にはまだ少し赤味が残っていた空もすっかり星空に変わっていたのです。
この辺りは市の中心部のような人工の灯りが少ないので、星も綺麗に見えます。
皆で空を見上げていると、星に包み込まれているような錯覚さえ覚えました。
何度も見てきたはずなのに、今日、こうして皆と一緒に見ているということが、何か特別な感覚をもたらしているのだろうと感じていたのでした。
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