草食系男子

私は今の段階では決して彼と性的に深い関係になろうと思っている訳ではありません。


ただただ、イチコやカナのことを性的な目で見ないという彼だからこそ、スキンシップを図りたいと思うのです。


……というのも、言い訳にしか聞こえないかもしれませんね。


ええ…正直申し上げて、彼ともっと触れ合いたいという強い欲求があるのは事実です。


彼がもし、私と同世代であれば、いわゆる<男女の関係>にさえなりたいと本気で思う程度には。


ですが彼には、そういう部分の欲求がまるで存在しないのです。決して『隠してる』とか『気にならないふりをしてる』とかではなくて、本当に、性的なことについての関心が欠落しているかのように芽生えていないようでした。


その点では、むしろ千早の方が関心を抱いているのかもしれません。実際、いわゆる<少女漫画>と呼ばれるものではありますが、男女の関係について踏み込んだ表現をしている、はっきり言ってしまえば明らかに<セックスそのもの>以外の何物でもない描写がされているものがあり、千早は熱心に読みふけっていたのです。


それはフミが買ってきたものを千早が読んでいたという形なのですが、隣で千早が大きくページを広げてそれを読んでいても、ヒロ坊くんはまったく関心を示さなかったのでした。


しかも、『少女漫画だから興味がない』ということではなく、夢中になって読んでいた千早に、


「面白い?」


と声を掛けながらページを覗き込み、しばらく一緒に眺めた上で、


「ふ~ん」


と一声発しただけですぐにいつものように動画を見始めてしまったのです。


近頃は性的なことに関心の薄い、いわゆる<草食系男子>と呼ばれる男性も増えてきているとは聞きますが、ヒロ坊くんももしかしたらそういう傾向なのかもしれません。


けれど、お義父さんはそれについてはまったく心配なさってらっしゃらないようです。


「性的なことに関心がないのは問題じゃないと私は思う。要するに自分が認めた相手とだけそういう気持ちになれればいいんだから。


実は私も、そちらの欲求は強い方じゃないんですよ。妻以外の女性にはその意味での関心はありません」


カナを居候させるにあたってついついそういう部分の心配をしてしまった私に対して、お義父さんはそう応えてくださいました。


そしてそれは口先だけでなく、カナが居候していても何の不安も感じないくらいには事実だったのです、


実のお兄さんから性的な被害を受け、非常に警戒心の強いカナでさえ。


そんなカナが、たとえ小学六年生と言えど健康な男の子であるヒロ坊くんと一緒にお風呂に入れるのですから、いかに彼がまったくその種の気配を発していないかが分かるものだと思います。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る