一年ぶりの
「この辺りって、確か三千院の近くですよね」
市街地を抜けて山道を通り、四十分ほど走ったところで、絵里奈さんが問うてきました。交通量が少なく、信号も少ない道なので、既に結構な距離を移動してきています。
「はい、三千院までは自動車で十分ほどです。秋には紅葉シーズンということもあり混雑しますが、今の時期も綺麗ですよ。外国のお客さんには大変喜んでいただけます」
そう答えさせていただいてから少しして、すっかり暗闇となった中で照明に照らされた別荘が見えてきました。
「お~っ、着いた着いたぁ~! なっつかし~!」
一年ぶりにそれを見るカナが声を上げます。
「あれがそうなの!? カワイイ~♡」
千早が窓に張り付くようにして言いました。変化のない夜の道にさすがに退屈してきたところだったのでしょう。一気にテンションが上がる様子が窺えます。
別荘に隣接した駐車場にマイクロバスを停め、
「さ、みなさん、行きましょう」
と促して下りていただき、その後で、
「お疲れ様でした。スムーズな安全運転、さすがです。またよろしくお願いいたします」
ドライバーの方にも労いの言葉を掛けさせていただきます。すると、
「こちらこそご利用ありがとうございました」
と、帽子を取り、軽く会釈してくださいました。
その自然な仕草に、良い印象を抱きます。こういった小さなことの積み重ねが信頼に繋がっていくのでしょうね。さすがは父が普段から懇意にしているタクシー会社だと思いました。
私も見習わなければと実感させられますね。
そんなことを思いつつ振り返り、「ふわあ…」と館に見惚れているヒロ坊くんや、待ち遠しそうにそわそわしている千早の姿に思わず笑顔になるのを感じながら、
「どうぞこちらに」
皆さんを案内します。
そして門のところに来ると、
「ようこそおいでくださいました。私はこちらの館の管理者で
と、アンナが私達を出迎えてくれました。
私も約一年ぶりの再会です。以前は両親が来賓を接待する際に私も同席することが多かったのでたびたび顔を合わせていたのですが、今は彼とその周りのことを優先しているため別荘に来る機会が減ってしまいましたし。
「アンナさん、またお世話になります!」
カナが嬉しそうに声を上げました。そんなカナにアンナも嬉しそうに微笑み応えます。
「またお越しくださいましてありがとうございます。どうぞごゆっくりお寛ぎください」
すると千早と玲那さんが何か言いたげにさらにそわそわしているのが見えて、
「こんなところで立ち話もなんですから、まずはお入りください」
アンナは皆さんを招き、玄関をくぐります。
そうして私は、まるで家に帰ったかのような安心感も覚えつつ、ヒロ坊くん達が入っていくのを見届けた後、一年ぶりの別荘に足を踏み入れたのでした。
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