公共交通機関
「すいません。それではよろしくお願いします。大希、山下さんの言うことちゃんと聞いてな」
「うん、分かってる」
見送りに出たお義父さんに言われて、ヒロ坊くんはにっこりと笑いながら応えました。大人に対して反抗的に振る舞わなければいけない理由のない彼にとっては、念を押す必要すら本来はないのでしょうが。
「
『うしし♡』という感じで千早がからかいますけど、彼にはまったく通じません。
千早のそれが悪意からのものでないのを知ってるからですね。
ほんの少しでも皮肉っぽさを匂わせるだけでも過剰に反応する方がいらっしゃいますが、私に言わせるとそれはわざわざ自ら『それだけ精神的に余裕がない』という弱点を晒しているようにしか見えませんので、ご自身にとっても不利益になるんじゃないでしょうかと、他人事ながら心配になってしまいます。
そんなことも思いつつ、今日も二列に整列して駅へと向かいました。
今回は先頭が私と千早、二番目はイチコとヒロ坊くん。三番目がカナとフミ。最後尾は山下さんと沙奈子さんという並びでした。特に取り決めはないので、その時々の気分ですね。
今回は、千早が私の隣にいたかったというのがあったようです。
その気持ちも蔑ろにしたくはありませんので、形には拘りません。
安全に確実に辿り着ければそれで目的は果たされるのですから。
むしろ、おとなしく私の隣にいたいということであれば好都合ですね。
駅に着くと、ヒロ坊くんも千早も、自分の分の切符を本人が購入します。こうして電車の乗り方なども自然に学んでもらうのです。こういう時、大人はついつい、慣れてない子供がもたもたすることに苛立ってしまうようですが、そうしてもたもたするのは最初のうちだけです。そして最初は誰でも未経験でスムーズにできないものでしょう。
しかしそういう、上手くできない未熟な期間を経てできるようになっていくのです。それを待つ心の余裕がないというのも、むしろ弱点だと、今の私は感じます。
たまに、
『子連れは電車に乗るな』
などと言う的外れなことをおっしゃる方がいらっしゃいますが、そういう方は<公共交通機関>というものを理解していませんね。
公共交通機関というものは、文字通り<公共>のものなのです。一部の人間だけが快適に利用できればいいというものではありません。様々な事情を抱えた万人が当たり前に利用できるからこそ<公共交通機関>なのです。
決して、<サラリーマンや学生の通勤通学専用交通機関>ではないのです。
『子連れは邪魔だから』
などという、極めて個人的な主観を理由に、他者の利用を制限するようなことはできないということを、自覚しなければいけませんね。
それができないような方を<大人>とは、私は思えません。
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