ケーキ作り

イチコの誕生日パーティが終わるのを待っていた玲那さんの御友人達は、にっこりと笑顔で迎えた玲那さんと一緒に、カラオケボックスへと入っていきました。これからまた、<オフ会>という形でパーティをするそうです。


三時間、たっぷりと楽しんだ上にさらにそれですから、驚くべきバイタリティーですね。


そちらの皆さんは、アニメという共通の趣味があっての繋がりでもあるとのこと。


実は、沙奈子さんのファンで彼女のことを影ながら守ると誓った男性方は、同じアニメ好きである玲那さんと知り合って意気投合。アニメ談議に花を咲かせ、交流を重ねるうちに、彼女の人柄に惹かれ、沙奈子さんだけでなく玲那さんのことも守ろうと心に誓ったのだとか。


故に、彼女が事件を起こしてしまった時にも、それがどうしようもなかったことだと信じ、玲那さんを攻撃しようとする者達から守ろうと努めたのだと聞きました。


玲那さんのことを知れば、それも当然のことではないでしょうか。彼女を攻撃する人達は、


<実の母親の葬儀の場で実の父親を包丁で刺す>


という事柄のほんの一部分だけを見て、玲那さんを攻撃しているのでしょうから。


このことからも、私は、報道される<事件>それぞれに、他人からは計り知れない複雑な事情があるのでは?とも思うようになりました。事象の一面だけを見てすべてが分かったように考えるのは危険だとも学びました。


玲那さんもまた、私にとっては<人生の教師>と言えるでしょう。




こうして玲那さんとはカラオケボックス前で別れ、帰る途中で山下さん、沙奈子さん、絵里奈さんとも別れます。


「またね~、バイバ~イ」


千早が笑顔で手を振りながら、三人を見送りました。山下さん達は、玲那さんの<オフ会>が終わるまでの間、アパートの部屋に戻って親子水入らずの時間を過ごすのだそうです。私としてもそれを邪魔するのは申し訳ないので、ヒロ坊くんの家に戻っての<二次会>には誘いませんでした。


こうして、ヒロ坊くんと、千早と、イチコと、カナと、フミと、私の六人でヒロ坊くんの家に戻り、そこで改めて、千早が手作りしたケーキによる二次会を開くことにします。


そう、千早は既に、ケーキまで手作りできるようになっていたのです。ケーキ作りに関しては、主に、ヒロ坊くんの家で、ビデオ通話を通じて絵里奈さんからの指示を受けつつ、沙奈子さんの手ほどきの下、何度も失敗して、でも諦めることなく挑戦し、ついにその技量を身に付けることができたのでした。


この時にも、ヒロ坊くんは、失敗して落ち込む千早を、


「大丈夫だよ。失敗するのはいいことだってお父さんも言ってた。失敗するから成功できるように工夫できるんだって。何度だって失敗していいんだよ」


と、励ましていたのです。


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