和解の夏 その6
御手洗さんが転校して数日経って、私が繰り上がる形で学級委員長になり、副委員長も新たに決まり、ようやく落ち着いた頃、イチコが突然言いました。
「ねえ、
「…え?」
急にそんなことを言われて、さすがの私も面食らってしまいました。
でも、そのピカって呼び名は私の古い記憶を呼び覚ましました。確か幼稚園の頃に、そんな風に呼ばれていたことがあった気がします。
だけど、何だか嫌な気はしませんでした。
「私のこともイチコでいいからさ、ピカって呼んでいいかな?」
緊張感の欠片もない、呑気でお人好しそうな顔で彼女は言いました。フミとカナが、やれやれという感じで肩をすくめます。
「いいですよ、イチコ」
けれどそれ以上に、さほどの抵抗感もなくそう答えた自分に、私は自分でも驚いていました。こうして私は、本当にこのグループの一員になったと言えたのでしょう。
ただ、グループの核であるイチコは認めてくれていても、この時点ではまだ、フミとカナには認めてもらえていなかったことも事実です。だから二人は私のことを『星谷さん』と呼んでいましたし、私も二人のことを『田上さん』『波多野さん』と呼んでいました。
それは、私がフミとカナに対してしてしまったこともそうですが、御手洗さんが転校していったこともまた影響していたのかもしれません。
後から聞いた話ですが、フミは、私のいない時にイチコに対して、
「ねえ、どうして星谷さんをグループに入れようと思ったの?」
と訊いたそうです。それに対してイチコは平然と答えたそうです。
「入りたいって言ってたからだよ」
と。しかしフミは納得できず、
「でも星谷さんって、私達だけじゃなくて御手洗さんにもひどいことしたみたいだよ? それなのにおかしくない?」
そう食い下がったとのことでした。ですが、やっぱりイチコの鷹揚さは揺らぐことがなかったそうです。
「フミが今言ってることって、ピカが言ってたことに似てない? ほら、『悪い事した人には人権は無い』みたいな話。
あの時も私言ったけど、何か悪い事をしたらその人はもう一生赦されちゃいけないの? どの程度の悪い事にもよるかも知れないけど、ピカのしたことって、謝っても赦されないことかなあ? もう同じことはしてないみたいだけど?」
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