黒歴史 その8
『来週からはちゃんとBタイプのリボンにしてきてくださいね』
その私の言葉を受けて
そんな顔をするくらいなら最初から素直にしたがっておけばいいんです。身から出た錆というものですからね。
なのに彼女は、その日の下校時に、私と鉢合わせて、
「星谷さん! あなた何様のつもり!? 一軍とか二軍とか三軍とか、勝手にそんなこと決めないでよ! スクールカーストの真似事!? ドラマとかアニメとかの真似したいんだったら妄想の中だけでやってよ! 人を巻き込まないで! 何が三軍よ! 三軍って何よ! ふざけないで!
三軍って…三軍って、なによう…」
一気にまくし立てたものの、最後には感情が昂り過ぎたのか嗚咽混じりになり、殆ど言葉になっていませんでした。
私としてはこの程度のことは想定済みでしたのでどうということもありませんでしたが、その時、
「美嘉…」
と名前を呼ばれ、そちらの方がハッとなってしまいました。
「お父様……」
そう、なぜか父が私のすぐそばに立っていて、一部始終を見ていたのです。険しい表情で。
ただならぬ気配に、私は、父に促されるままに自動車に乗り、その場を去りました。
それから父は、
「今のはどういうことなのか、説明してくれるかい……?」
と、自動車を走らせながら、静かではありますが有無を言わさぬ圧力を感じさせる口調で問い掛けてきたのです。
けれど私は、
「…これは、私のプライベートな問題です。いくらお父様とはいえ、娘のプライバシーに立ち入る権利はありません」
と返させていただきました。ですが、そんな私に父は告げました。
「美嘉……<プライバシー>という言葉は、自身の悪行を覆い隠すことに利用する為にあるものじゃないよ。そして親には、子供を管理監督する為に行使できる<監督権>という権限がある。それは、子供のプライバシー権より上位に存在する。
君がもしプライバシーを理由に事実を隠匿するというのなら、私は、躊躇うことなく監督権を行使させてもらう」
「……」
この時の父は、普段、私に対して底なしの愛情を向けてくれる<父親>としての姿ではなく、時には非情な決断を苛烈に下さなければならない<大企業の重役>としての姿を見せていたのかもしれません。
その気迫に、私の背筋を冷たく固いものが奔り抜けるのを感じました。
『ダメだ……私はまだ、この人には勝てない……』
確かにそう察してしまったのです。
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