黒歴史 その6
最初は「何言ってんの?」みたいな反応だった他の生徒達が私の言葉に興味を持ち始めたのを感じ、私はほくそ笑みたくなるのを堪えながらさらにどのような反応が出てくるのかを待ちました。
すると、一人の男子生徒が、
「能力のある人間が一軍って言うけどよ、じゃあどうやってその能力のある人間ってのを区別すんだよ。成績か?」
と尋ねてきたのです。
『エクセレント!!』
思わず声に出てしまいそうになるのを堪えるのが大変でした。まったくここまで想定通りだと感動さえ覚えます。
なぜなら、普段から深く考察している人であればそんな質問はしてこないでしょう。自分に考えがないから、他人に訊くしかないのです。自分にしっかりした考えがある人であれば、自らの考えとの差異について具体的に質問してくるはずです。もしくは、自らの考えを提示するでしょう。
そのどちらもないというのが、自分では考えようとせず、他人の考えを聞いて、もしそれが自分に都合の良いものであればその尻馬に乗ろうと考えているだけの人だという何よりの証拠です。
でも、私は、それを嘲笑ったりしませんでした。
なにしろ、私の望む最高の道化なのですから。称賛こそすれ、嘲る必要はまるでありません。
だから私は大袈裟なくらいに両手を広げて、
「そう、それです! それでいいんです。あなたの様に自分の意見をはっきりと口にできる人こそが一軍に相応しい!」
と高らかに声を上げさせていただきました。するとその男子生徒の顔がパッと紅潮し、表情が緩むのが分かりました。心の隙が丸見えです……!
ああ、本当に愉快…!
私は続けます。
「頭の中で思ってるだけでうじうじしてる人に社会は動かせません。意見のある人はどんどんおっしゃってください……!」
と。
するとそれに応えるように次々と発言が飛び出してきます。私はそういう人達を皆、
「あなたも一軍です! あなたも!」
と認定していったのです。
こうなると後は楽なものでした。皆、口々に意見を述べて、私はただそれを追認していけばいいだけなのですから。それだけで彼らは自ら私の術中に嵌ってくれるのですから。
そうすることで彼らは、自分が一軍だと、能力を持つ者だと認められたという錯覚に高揚し、そして勝手に私のことを、<自分を導いてくれる者>と誤解してくれるのです。
集団詐欺を行う詐欺師や、カルト宗教の教祖がよく用いる手法ですが、この程度のことにも気付かないんですから、本当に優秀な者に導かれなければ容易く道を誤る人達ですね。
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