これってひょっとして育児では? その2
それにしても、『最近はヒロ坊もピカのこと結構好きみたいだし』というイチコの言葉は、私にとっては大きな励みになりました。そうです。いくら彼を一人前の男性に育て上げられたとしても、私が彼に嫌われていては何の意味もありません。
次の日曜日。私は上機嫌で彼の家に向かいました。いつもの様にチャイムを鳴らし、彼が出迎えてくれるのを待ちます。
だけど、
「いらっしゃい…」
と扉を開けてくれたその日の彼は、いつもと少し違っているように見えました。笑顔なのは笑顔なのですが、あの輝くような笑顔とは少し違っているように感じました。これが女の勘、というものでしょうか? けれどまずはいつもの様に、
「こんにちは、ヒロ坊くん。じゃあ、今日も一緒にお勉強しましょうか」
と声を掛けさせていただきました。すると彼は少し困ったような顔になり、
「う~ん」
と、首をかしげてためらったのです。正直、私は動揺しました。
『わ…私、また何かしてしまいましたか……!?』
また何か彼に嫌われるようなことをしてしまったのでしょうか? 一体何が原因なのかと過去の記憶を探ろうとして固まっていた私に、彼の後ろから現れたイチコが語ります。
「実はヒロ坊、学校でクラスの女の子に意地悪されたらしいんだよ。それで金曜日からずっとテンション低くて」
「な、なんですって!?」
私の体を衝撃が走り抜けました。
『まっまま、まさかこんな愛らしい彼に意地悪をするような人がこの世にいるのですか……!?』
と思いました。それと同時に、激しい感情が体の奥から噴き上がってきます。憤りでした。
『許せません! 許せません! 許せません……っ!!』
ギリギリと締め上げるような力が体の奥底から湧き上がってきて、震えます。
「彼に意地悪をするとか、それはどこのどなたですか!? 許せません! そのような輩には断固たる態度で然るべき報いを与えねば!!」
体中に力が入り、私は自分でも気付かないうちに拳を自らの眼前で握り締めるという、女性としてあるまじきはしたない姿を彼の前で見せてしまっていたのでした。けれどそんな私にイチコは言いました。
「こらこら。物騒なこと言わないで。その辺はお父さんが先生と連絡を取ってちゃんとやってくれてるから大丈夫だよ。私が小学校の頃にイジメられた時もそうだったし、お父さんに任せておいたら大丈夫」
『く…っ! 何を呑気なことを……!』
正直、この時の私はそんなことを思ってしまっていたのでした。
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