これってひょっとして育児では? その1

「それにしてもピカもよくやるよね」


「だよな。最初は浮かれてるだけかと思ったけど、完全にガチ入ってるよな」


学校でいつもの様に四人で集まってる時、急にフミとカナにそんなことを言われました。何のことかとすぐには意味が分からなかったので、「何のことですか?」と訊いたら、


「ヒロ坊のことだよ」


と声を合わせて言われたので、ああ、となりました。


「そうですよ。私は本気です。本気で彼を立派な男性に育て上げて私の夫として迎えます」


と、改めて宣言させていただきました。


「それにフミもカナも彼のことは可愛いと思ってるじゃないですか。単に私が彼の魅力を一番理解してるだけのことです」


冷やかしならお断りという意味も込めて、きっぱりと言わせていただきます。


「だけど、それって子供育ててるみたいなものよね。だって相手はまだ九歳なんだから」


フミにそう言われて私は、「…あ」となりました。


「確かにそういう見方もできますね。ですが私は彼のお母さんじゃありません」


フミの言うことにも一理あるかも知れませんが、そうです。私は彼のお母さんになったわけじゃなりません。あくまで彼を立派な男性に育て上げるのが私の目的なのです。


「お母さんじゃなかったら、ベビーシッターかな?」


微妙にニヤリと笑う感じでフミが追い打ちをかけてきます。


「ベビーシッターでもありませんよ。失礼な」


私の崇高な目的を理解できないとは、やはり凡人ですね。でもそこまでのやり取りを黙って聞いていたイチコが、


「別に何でもいいんじゃない? ヒロ坊が嫌がってないんだし、最近はヒロ坊もピカのこと結構好きみたいだし」


と、課題をしながら言いました。いつもの様にゆるい感じで。


だけど私は、自分の体がカアッと熱を持つの覚えました。『最近はヒロ坊もピカのこと結構好きみたいだし』という言葉に、どきんと胸が高鳴ったのです。全身の血が激しく駆け回って、ガタッと腰を浮かせ、


「本当ですか!?」


思わず訊き返してしまった私に、フミとカナが<仕方ないね>と言いたげな苦笑いを浮かべながら、


「ホントに好きなんだね~」


「ちょっと悔しいけどそこまで本気だってんならあんたに譲るよ、ヒロ坊のこと」


と、応援とも何ともつかない言葉を掛けてきました。するとイチコが、


「こらこら、勝手に譲るとか決めないで。私の弟なんだから」


と口を挟んできましたが、やっぱりその口調は怒ったりしてるものではありませんでした。私達の掛け合いに突っ込んだだけだというのが伝わってきます。


イチコは私の気持ちを温かく見守ってくれているのだと改めて感じたのでした。


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