第180話 正装 2

 (セイバーもブラスターも決定打にならない……)


 カイルは状況を整理する。


 (アーマーがさっきより強力になっているからか。……もしかしてさらに強力なアーマーを隠し持ってるんじゃないか?)


 一瞬視線をロームに向ける。


 構えることもなく自然体で佇んでいるが、相変わらず表情は分からず意図は汲み取れない。


 (それなら状況が互角である今のうちに勝負を決めないとまずい)


 対抗策を考え始めた。


 (他に使えるのはソニックマニピュレーターとサイオニックフィールド……いやこれは武器というよりも防御用だな)


 思考を巡らせる。


 (他の武器……王都戦で使用した大砲のようなのがあったな……確か……キャルスって名前だったか? あれは使えるのか?)


 カイルが意識すると視界に情報が表示された。


 (使える! こいつで決める!)


 <キャルス:起動>


 前回使用時と同じように自身のアーマーの右肩付近に砲身が現れる。


 ロームをロックオンした直後、前回は出なかったメッセージが表示された。


 <バーストモード:使用可能>


 (目標を一つに絞る代わりに強力な攻撃を繰り出せるということか)


 カイルがバーストモードを選択した後、キャルスの砲身に光が収束していく。


「カイル君。まさか……それで私を射撃するつもりかね!?」


「そのまさかだ!」


 射撃準備が整う。


 カイルが射撃指示をすると砲身から光が放たれた。


 前回とは異なり光球ではない。


 ロームの身体全体を包み込むほどの太さを持つ青白い光の筋が彼を襲う。


 即座にシールドを展開し、キャルスの砲撃を防御する。


 着弾と同時に眩い光が放たれ、カイルの視界を奪う。


「うおぉぉぉ!!」


 ロームの叫びが広い空間に木霊する。


 (眩しい)


 カイルの意識に反応するようにヘッドアーマーが自動で設定変更を行う。


 眩しさが軽減された後、目を凝らすがロームの状況は把握できない。


 砲身からは光の筋が放たれ続けており、ロームは叫び声を上げ続けている。


 その状況から有効打になっていることだけは推測できた。


 光の筋が徐々に細くなっていき、やがて消える。


 ロームの状況が露わになった。


「またアーマーの形状が変わっている……」


 カイルの視界に全く損傷していない新しいアーマーを身に着けたロームの姿が飛び込む。


「室内でそんな物騒なものを使わないでもらえるかね」


「全く……効果がない……」


「君が今どういう表情をしているのか見れないのが残念だね。恐怖か、それとも絶望か」


 カイルは言葉を返せない。


「その様子……どうやら今のが君の最強武器だったようだね」


 (……キャルスも通じない……まだだ! 他の武器はないか!)


 意識すると使用可能武器のリストがヘッドアーマーに表示された。


 リストにはカイルが今まで使用した武器しか表示されていない。


 (……無いのなら!)


 カイルはサイオニックセイバーをコールし、即座に現行の最大出力3%に上昇させた。


 今までとは異なり、剣身は伸びない。


 セイバーの出力を上げる際、剣身を伸ばし射程を向上させるか、伸ばす代わりに剣身を太くし斬撃威力を向上させるか選択できる。


 先ほどのように懐へ飛び込まれることを警戒し、さらに強化したと思われるロームのアーマーへ対抗するため、後者を選択した。


 一気にロームへと間合いを詰め、セイバーで斬りかかる。


 ――命中。


 ロームへ回避行動を取る暇さえ与えなかった。


 さらに斬撃を繰り出し次々命中させていく。


 同時に攻撃しながら背後へ回り込む。


 ロームに動く気配はない。


「おぉぉぉ!!」


 一連の攻撃を締めくくる渾身の突きを繰り出す。


 ロームのアーマーへセイバーが刺さる。


 その瞬間、光の剣身が消えていく。


 剣身がアーマーの奥深くへと突き刺さったからではなかった。


 光の剣身がアーマーに弾かれて拡散し、消滅していったからである。


 カイルの右手にはセイバーの柄だけが握られていた。


 ロームがゆっくりと身体を捻り、カイルと正対する。


「ん? どうしたのだね? コンサートは開演したばかりだ。それなのに君のライトスティックはもうバッテリー切れなのかね?」


 (セイバーが壊れた……!?)


「何意味の分からないことを言っている……」


「私はてっきりライトスティックを振ってコンサート当日のリハーサルでもしているのかと思っていたよ。まるでリーア君のファンのように……違うのかね?」


「まだだ!」


 カイルはロームの問いかけを無視し、彼の両肩に手をかける。


 即座にソニックマニピュレーターを発動し、ロームのアーマーの破壊を狙う。


「無駄だ、諦めたまえ」


 左腕でカイルの右腕を掴む。


 掴んだ腕を引っ張り自身へ引き寄せたと同時に右手でカイルにボディーブローを叩きこんだ。


 突き刺すような衝撃がカイルを襲い、悲鳴と共に崩れ落ちた。


 ロームは地面に倒れた彼の背中を段差のように見立てて、自身の右足を乗せる。


 その行為は自身が勝者であることを誇示するかのようであった。


「力加減がね……難しいのだよ」


 しゃがみ込み、カイルのアーマーの背中付近を調べ始める。


 サイオニックフィールドの効果で威力が軽減されているものの、それでもカイルは激痛で身体を自由に動かすことができない。


「何を……している」


「致命傷を与えると君のアーマーの防衛機能が働いてしまうからね」


 ロームはカイルの問いかけをはぐらかし、彼のアーマーの細部を確認していく。


「…………あった! これか」

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