第155話 深海の勇者
直後、ヤファスの正面に模様や文字が書かれた透明状の板が現れた。
「刮目せよ! 震え……怯え……そして畏怖せよ! これが俺の……ステータスだ!」
板がカイルの正面まで移動し、書いてある内容が読み取れるようになる。
HP: 99999
MP: 99999
攻撃力: 99999
防御力: 99999
耐久力: 99999
素早さ: 99999
運: 99999
所持スキル: Non-display
「……なんだこれは?」
カイルは首を傾げた。
「はぁ……お前……このステータスを見て何も感じないのか?」
「何も感じない……すまんが、本当に意味が分からん」
「はぁ……これはな、ステータスシステムって言ってな。人間の能力を数値で管理できるんだ」
「そうか……」
「あれ? 理解できなかった? その人の能力が一目で分かるんだぞ。画期的なシステムだと思わないか?」
「ご高説はまだ続くのか?」
「おいおい、話の腰を折るなよ」
(無知な人間に知識でマウント取って気持ち良くなってんだからよー)
「それはすまんかったな」
「やれやれ……数値は絶対だから能力の有無と強弱が露骨に出る。現実は非情なのである。でもさー、俺だけがステータスカンストしてたら、そんなの関係ないよなぁ! 周りは全部俺より格下なんだから!」
(ステータスシステムを構築した結果、この空間だけ現状は俺が有利になるよう色々な法則を最適化している! ってこいつに言っても分からんか)
「まずステータスカンストの意味が分からん」
「カンストすら知らないのぉ? はぁ……これだから……しょーがねーなー教えてやるか。カウンターストップ、俺の能力値が上限値に達してんだよ。こんなの俺の星なら基本中の基本の知識なんだけど、な!」
「……さっきから若干気になってたが、あんた元いた星でもそんな調子だったのか?」
「そんなわけねーだろ」
(こんな言動してたら周囲の人間から引かれるに決まってるわ。俺と同じ能力やそれ以上の能力を持った人間がごろごろいる。そんな状況じゃ俺が優位に立てないからな! 他人の目が届かない、元の俺のことを知ってる人間が誰もいないからできるんだよバカが。今のこの状況! このやり取り、展開からしてもうすでに俺の気持ちよさへ繋がってんだよ!)
饒舌に語っていたヤファスが静まり返る。
「やっと長話が終わったようだな」
「あぁ、そうだな。同時にお前の人生も終わる!」
ヤファスが一気に間合いを詰め、カイルの正面へ蹴りを繰り出す。
カイルは両腕で防御するが衝撃で吹き飛ばされ、背中から柱に激突する。
(くっ!)
サイオニックフィールドの効果で衝撃を完全に無効化できず、アルメリナの爆発攻撃以上の衝撃を体全体で感じた。
「あれぇ? 普通の蹴りだと思ったんだけどなぁ。あっ! 俺の攻撃が弱すぎて失望してるのかぁ!?」
ヤファスは追撃のパンチとキックの連撃を繰り出す。
鈍い光沢を放つ金属でできたと思しき柱へカイルのアーマーが刻印を刻むかのようにめり込んでいく。
「これよー! これこれ! やっぱ爽快感って大事だよなぁ! これぞ主人公って感じ!」
ヤファスは連撃を浴びせながら笑顔で言い放つ。
カイルのヘッドアーマーへ警告アラートが通知され始めた。
(サイオニックフィールドで防ぎきれない。このままじゃまずい!)
ヤファスの拳を受け止めようと手を伸ばすが、彼は虚空から盾を取り出して防ぐ。
カイルの正面に展開された盾に自身の手が触れると、ソニックマニピュレーターの効果で盾が崩れ落ちる。
直後、崩れた盾の奥からヤファスの手が伸び、カイルの首根っこを掴む。
彼を柱から引き剥がして空中へと放り投げる。
空中で姿勢制御しようとした瞬間、再び首根っこを掴まれて地上へと投げつけられた。
仰向けになって地上へと激突し、再びカイルの全身を衝撃が襲う。
間髪入れずヤファスは虚空から取り出した剣を右手に持ち、地上のカイル目掛けて突き刺そうと急降下してくる。
剣先を手のひらで防ぐとヤファスの剣身が崩れ始めた。
その行動を予測していた彼は、虚空から取り出した新たな剣を左手に持ち斬撃を繰り出す。
カイルのアーマーに傷がつく。
(ちっ! 相変わらずアーマーは固いな。カンストステータスに加えてスキル、斬撃強化レベルMAX発動中でバフかかってるのになぁ)
即座に起き上がり、サイオニックセイバーで反撃に転じようとするが、ヤファスは一旦距離を取り各々の手に持った剣を虚空へと消した。
(身体が焼けるように熱い。それに全身が痛い……だが)
カイルはセイバーをパージし、サイオニックブラスターをコールして射撃する。
「どこ狙ってんだ!? 当たらねーんだよ!」
(こちとら回避スキルが発動してんだよ! スキルがぁ!)
放たれた粒子弾はヤファスへ襲い掛かるが、銃の扱いに慣れていないカイルの腕では彼の身体を捉えることはできなかった。
ヤファスは射撃を器用に回避しながら間合いを詰めてくる。
(まさか現地民相手に魔王との最終決戦で装備してた剣まで使う羽目になるとはな)
虚空から聖剣イヴァルダーを取り出し、袈裟斬りで仕掛ける。
(アーマーでは受けきれない!)
カイルは斬撃をバックステップして間一髪でかわす。
「へー」
即座に体を捻り、回転しながら間合いを詰め右薙ぎで追撃した。
斬撃の直撃は避けられたものの手に持つブラスターへ命中し、切り裂かれ使用不可となる。
今度はカイルがセイバーをコールして反撃しようとするが、正面にはヤファスの姿がない。
直後、カイルの後頭部に衝撃が走る。
瞬時に空中回転しながら繰り出したヤファスのかかと落としが炸裂したのだ。
カイルは衝撃音と共に地面へうつ伏せに倒れる。
「さっき見せたステータスの意味、ご理解頂けましたかぁ?」
ヤファスは薄ら笑いを浮かべながら、勝ち誇った表情で眼前に倒れるカイルを見下ろす。
「俺はあんたのように……恵まれた才能はない。あんたは才能に加えて……絶え間ない努力を続けてきたんだろう。今までの発言もそういう経緯が……あったんだろうと思う」
カイルは地面に跪きながら正面のヤファスへ右手を伸ばす。
「あんたには到底及ばない。……けど、そんな俺にもどうしても譲れないものがある。マナの収集を止めてほしい……これだけは頼む! 星が……みんなが本当に困るんだ……頼む」
(は? こいつ何勘違いしてんだ? チートで楽して気持ちよくなる! これよ!)
「俺に気安く触れるな……雑魚が!」
カイルの右腕がヤファスの足に触れようとした瞬間、その右腕が斬り落とされ――絶叫が木霊する。
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