第153話 メイド少女との戦闘
ヤファスが後方へ下がると、アルメリナはカイルへ向かってスカートの左右の裾を指で軽くつまみ上げて会釈する。
カイルは礼儀正しく上品な雰囲気を作り上げる彼女へ軽く会釈をしようとした。
直後、アルメリナはスカートの中に忍ばせておいたハンドガンを取り出す。
(銃器か?)
彼女はまっすぐ右腕を伸ばした。
その手の先にはハンドガンが握られ、左手を添えて構える。
彼女が銃の扱いに慣れていることは、流れるような一連の動作からカイルにも容易に想像できた。
間髪入れず、乾いた発砲音が響く。
カイルの胸を貫こうとした弾丸はサイオニックフィールドの効果で弾かれる。
続けてもう一発。
今度は彼の頭部へ向けて放たれるが効果はない。
さらに続けて発砲し、発砲音は合計15回に及び全て命中するが貫通弾はなかった。
アルメリナが一瞬後方を振り返り、ヤファスが何かの作業に取り掛かっているのを確認する。
(マギアを込めた魔導銃は効果なしですか)
「俺はあなたと戦う意思はない!」
カイルはアルメリナへ訴えかける。
「今の私はご主人様の盾でございます」
「なぜ俺たちが戦わなければならない!?」
「それがご主人様の望みだからでございます」
(話は通じないか……)
「魔導銃アサルトタイプ、これならどうでしょうか?」
アルメリナは虚空から新しい銃器を取り出した。
先ほど同様流れるような動作で発砲を再開し、断続的な発砲音が鳴り響く。
複数の弾丸がカイルのアーマーを貫こうと襲い掛かる。
(弾丸は回避できないが、今のところ効果はない。武器を破壊するか奪って拘束……試してみるか)
カイルはふわっと浮かび上がるとアルメリナへ一気に接近していく。
間合いに入り手を伸ばした瞬間、彼女は宙に浮かび上がった。
上昇しながらマガジンを交換し、古いマガジンを投げ捨てると地上のカイル目掛けて銃弾を叩きこむ。
彼も上昇して降り注ぐ銃弾を防御しながら再び間合いを詰めていくが、彼女は拘束を華麗に回避していく。
「私を捕まえようとするのは及び難いでございましょう」
アルメリナのスカートがふわりとめくりあがる。
太ももが見え隠れする姿は、彼女の上品な物言いとは裏腹にまるでカイルを挑発しているかのようだった。
カイルは拘束を諦めて地上へと一旦降りる。
(拘束できないなら……銃の扱いには慣れていないがサイオニックブラスター……使えるか?)
「抵抗しないのでしたら!」
今度はアルメリナがカイルへ間合いを詰めてくる。
カイルはサイオニックブラスターをコールすると、右手にハンドガンのようなものが現れた。
(あの女の子の持っている銃も小さかったが、この銃もだいぶ小さいな)
カイルはブラスターを慣れない手つきで構える。
(せめて練習したかったが……この状況で贅沢も言ってられないな)
アルメリナは魔導銃を左手に持ち替える。
接近しつつ虚空から新たな武器を取り出し、すぐさまそれを右手でカイルに投げつけた。
彼はそれを一旦回避しようとしたが、円盤状の投擲物は彼のアーマーに吸着するかのように追随してくる。
カイルは接近してくるアルメリナを見て絶好の機会と判断し、回避よりもブラスターでの彼女の銃破壊を優先させた。
右手が自由になったアルメリナは魔導銃を両手で構えて牽制射撃をしながら、再び後方へ下がり間合いを取ろうとする。
(この距離なら……変なところに当たるなよ!)
銃口から粒子弾が放たれる――と同時にカイルのアーマーに吸着した投擲物が爆発した。
爆発の衝撃により、当初の狙いから銃口が逸れてアルメリナの右腕へと粒子弾が命中する。
直後、彼女の右腕が吹き飛ばされ地面へと転がった。
彼女は一切悲鳴を上げず、着地してカイルから間合いを取る。
彼女の体やちぎれた右腕から出血はない。
カイルが目を凝らすと断面から鉄のようなものでできた管がいくつも露出しているのが確認できた。
「腕が……もう止めてくれ! これ以上の戦いは無意味だ!」
「私に情けをかけているのなら無用でございます」
「なぜそこまでして……」
「私は元奴隷の身。そんな私をあの人が救ってくれました」
「アルメリナ!」
二人の戦闘にわき目も振らず作業していたヤファスが声を上げる。
「申し訳ございません、ご主人様! 余計な事を話してしまいました!」
(マギア式吸着爆弾も効果なし……)
「……この星の命運がかかっている。話ができないのなら、俺も黙って引くわけにはいかない」
「最初からそれでよいのでございます」
(……くっ! 戦うしかないのか……)
無機質なヘッドアーマーの奥で沈痛な表情を浮かべるカイルは、しばし間をおいてサイオニックセイバーをコールする。
「ようやく戦う気になったようですね」
アルメリナは宙へ浮かび上昇していき空中で停止すると、一気にカイルへ向かって急降下していく。
カイルはセイバーを構えて空からの攻撃に備えた。
間合いに入る直前でカイルへ透明な液体のようなものでできた球体を左手で投げつける。
そのまま空中で前転しながらカイルの後方へ着地しようとした。
カイルは背後に回り込もうとするアルメリナの行動を先読みをして回転斬りを繰り出す。
彼女の両足を切り裂く斬撃は、無情にも感触が一切なかった。
両下腿から先を失ったアルメリナはうまく着地できず、バランスを崩し地面を荒々しく転がる。
(ご主人様、申し訳ございません。両足が切断されてしまいました。ですが……ですが! 命に代えてもご用命を果たして見せます!)
切断された両足からも出血はなく、腕と同じく鉄の管が露出している。
(左腕と左手さえあればまだいけます!)
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