第152話 深海での戦闘
「どうか話を聞いてください。そのマナの影響かは分かりませんが、地上では魔王が現れて人々が戦々恐々としています」
「へー、魔王ねぇ……。この星にも魔王っているんだ」
「どういうことでしょうか?」
「俺さ、二つの異世界を救った勇者なんだよ。つまりさ、俺はそれぞれの世界で魔王を倒してきてるんだよなぁ」
「二つの世界を救った勇者様、どうかこの世界も救って頂けませんでしょうか?」
「別に魔王と戦ってもいいけどさー、俺……目立ちたくないんだよねぇ」
(と言いつつ、結果目立って周囲に称賛された後「おいおい、止めてくれよ―。目立っちゃったじゃないか!」っていう展開が俺は気持ちいいから好きなんだけどさ。その為の前振りってことに気付けよー)
「――ヤファスさん?」
「あー? あー、ちょっと考え事してたわ。なんて?」
「魔王討伐にはすでにこの星の勇者が向かっています。ですので、ヤファスさんには一刻も早くマナの収集を止めて頂きたいです」
「だからさっきも言ったでしょ。それは無理だって」
「せめて理由を聞かせて頂けませんでしょうか? できることであれば協力したいと考えています」
「はぁ……めんどくせ……。決めた! お前、処すわ」
(口調が変わった!?)
カイルはヘッドアーマーをコールする。
<サイオニックフィールド:アンロック>
<サイオニックブラスター:アンロック>
<ソニックマニピュレーター:アンロック>
ヘッドアーマーを装着した直後、通知が来た。
(新しい装備? ここはマナが濃いからか)
ヤファスの放つ風の槍がカイルを襲うが、アーマーに直撃する寸前でかき消された。
「ん? バリア? ただの甲冑かと思っていたけど違うのか。っていうか、もうそのレベルまで科学文明が発展しているのか?」
(これがサイオニックフィールドの効果か。……これ以上の交渉は厳しいか)
「これはスピラ博士とノーアさんから託されたアーマーだ」
「ふむ。ということは、さっきの話は真実だったってわけか」
(おいおい、なんてもの託してくれてんだよ、スピラちゃーん。ったくあの時ハーレムに加えときゃよかったぜ。もっとも、彼女はこの俺をもってしても靡かなかったし、例えると難易度SSSランクのクエストだったんだがな)
「いいだろう、お前が名前のない脇役っていうのは訂正しよう。カイルって言ったか? ネームドキャラに昇格だ。喜べ!」
「すまんが、よく意味が分からないので素直に喜べない」
「まぁ、ネームドキャラつっても主人公に倒される引き立て役なんだけどな。それにその態度……交渉は諦めたみたいだな」
「諦めてはいない。だが、その前に交渉のテーブルについてもらう必要があると判断した」
「お前……他人からもらった能力を笠に着て調子乗った発言してんじゃねーぞ!」
(そういう奴はなぁ……この俺のチートで蹴散らしてやるぜ!)
ヤファスが一瞬前傾姿勢になると、一気に間合いを詰めてくる。
(速い!)
サイオニックセイバーをコールして応戦する。
「おいおい、武器まであるのかよ」
ヤファスはカイルの斬撃を回避し、すかさず背後に回り込む。
彼の背中へ強烈な回し蹴りを浴びせると衝撃音が木霊する。
(ダメージはないし、衝撃も感じない)
「俺は勇者だぞ! 舐めるなー!」
ヤファスは回し蹴りの回転の勢いを保ちつつ、虚空から剣を取り出してカイルへ追撃の回転斬りを繰り出す。
カイルはヤファスと正対するよう身体を捻り、回転斬りに対して左腕を盾のように構えて防ぐ。
サイオニックフィールドの効果で斬撃が弾かれると、ヤファスは一瞬姿勢を崩す。
その隙を逃さず、カイルはセイバーで反撃する。
「まだだ!」
ヤファスは反撃を回避し、剣をカイルの頭上へ振り下ろした。
頭上に命中する直前に相手の剣身を左手で握って受け止める。
次の瞬間、握った個所の剣身がぼろぼろと崩れ落ちた。
(ちっ! 異世界で手に入れた聖剣が!)
(ソニックマニピュレーターの効果か)
ヤファスはカイルから一旦間合いを取ると、右手に握る破損した剣を虚空へと消した。
「俺の知ってる勇者はそんな高圧的で傲慢じゃなかったぞ」
「俺は別に勇者になんて興味はない。もっと言うと異世界を救うことにも興味はないからな」
「それならなぜ勇者を名乗っている?」
「俺が求めているのは気持ちよさだからだ」
「どういうことだ?」
「勇者っていうのはな、それだけで皆から称賛され、羨望の眼差しを向けられる。さらに世界の救世主なんかになってみろ、その効果は絶大だ。そして、それができる能力が俺にはある!」
(まぁ、チートだけどな)
「その実績は素晴らしいと思うが、それを知ったらあんたを信じていた人間は失望するんじゃないのか?」
「俺はなー、俺が! 俺だけが! 気持ちよくなりたいんだよ! 物も! 人も! 俺以外の存在は全て俺のために存在する!」
「あんたに協力してくれた人たちの気持ちはどうなる?」
「それなりに考えているぞ。俺にとって都合よく、俺を気持ちよくさせる限りはな」
「そうじゃなければ?」
「ふふふふ……さぁ? ……その時の俺の気分次第だな」
「独善に陥っている」
「あぁん? 何が独善だ? あいつらはこの俺に世界を救ってもらって助かっている。そして俺は気持ちいい。これってWIN×WINだよなぁ?」
「そんなことを公言していたら、誰もあんたを勇者と認めないんじゃないのか?」
「おいおい、誰が喜び勇んで話すと言った? 普段の俺は、それこそお前が考えている勇者像そのものだ」
「だったら、なぜ俺に教えた?」
「ここには今、俺とお前しかいない。それにお前は異世界に行く術がない。そして何より、お前はその事実を誰かに伝えることはできない。理由は分かるな?」
「俺は無知だからな」
「すぐに嫌というほど分からせてやる」
(にしても……あのアーマー思ったよりも固いな……。アレを使うか。その間の時間稼ぎにこのアイテムを使うのはもったいねーけど!)
ヤファスは虚空から宝石のようなものを取り出す。
「来い! アルメリナ!」
手のひらに乗せた宝石が光を放ち始めて周囲を明るく照らした。
光が弱まると宝石は消えており、ヤファスの隣にメイド服を着た少女が立っている。
「ご主人様、なんなりとご用命くださいませ!」
「アルメリナ、俺を守れ」
「かしこまりました、ご主人様!」
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