第142話 博士
「それはマナの減少と何か関連があるのかもしれませんね」
「もしかして、生存者が魔王という可能性はあるのかな?」
アイリスが発言する。
「魔王討伐に乗り出すって記事には、魔王はアルバネリス王国領内にいると書いてたな」
「そっかー、それなら違うね。生存者に話を戻すと、この人は何のために海底でマナを集めているのかな?」
「これだけのマナを集める意図は分かりません」
「……俺たちに何かできることはあるのでしょうか?」
ノーアは二人の顔を真剣な表情で交互に見る。
「結論から言いますよ。驚かないでくださいね」
「はい」
「カイルさん、アイリスさん……この星を救ってください!」
「「えー!」」
カイルとアイリスはノーアの発言に困惑気味な表情をしながら、互いに顔を見合わせた。
「すみません、あまりにも急だったもので……。それなら地上の人たちに協力してもらうのはどうでしょうか?」
「地上の人たちに空島やノーアさんのことを話しても信じてくれるかな?」
「自分で言っておいてなんだが、難しいだろうな……」
カイルとアイリスは沈黙する。
「……お二人が戸惑いを覚えるのも分かります」
「ノーアさんの話は理解できましたが、正直なところ俺たちで対応できる枠を超えているというか……」
「いえ、むしろお二人にしかできないことです」
「俺たちにしかできないこと? アイリスは魔法使いですが、俺は普通の商人ですよ?」
「はい、存じています」
「アイリスに魔法で海底に行ってもらうのでしょうか?」
「いえ、向かって頂くのはアイリスさんではなく、カイルさんです」
「えっ! 俺がですか?」
「そうです。……見せたいものがあります。こちらへ」
ノーアは光の円を出すと、二人へ円に入るよう促す。
三人は円の中に入り、姿を消した。
「……部屋の雰囲気は似ているが少し違う」
再び円の中から三人が現れ、カイルが話し始める。
「正面に何か台座みたいなのがあるね」
アイリスは視界の先にある装置のようなものを見ながら話す。
「この台座の中央に立ってください」
カイルはノーアに指示された通りに動いた。
「これでいいですか?」
「大丈夫です。力を抜いて立っていてください。光が当たりますので、目をつむっておいてくださいね」
「ノーアさん、これは俺が海底に行くことと何か関係あるんですか?」
「はい、すぐに分かります」
(さっぱり分からないが、とりあえず目をつむるか)
ノーアの正面に操作パネルのようなものが現れる。
彼女が慣れた手つきで操作していくと、カイルの頭上に光の帯が現れた。
その帯はゆっくりと彼の足元へ向かって下降していき、地面に到達すると消えていく。
光の帯が消えると、ノーアは再びパネルを操作し始める。
すると今度は、カイルを包み込むように白い線のような模様が現れた。
その模様は徐々に色味を帯びていき、質感を伴った実体へと変化していく。
(なんだこれは? ……金属製の鎧?)
「ノーアさん、この鎧は?」
「ここから先は博士が説明します」
「ん? 博士?」
カイルは周囲を見渡すが、アイリスとノーア以外に人がいる気配は感じなかった。
(おぬし……おぬし……)
(声が聞こえる……?)
(そこのおぬしじゃ)
(幼い女の子の声?)
(誰がロリババアじゃ!)
(何も言ってませんよ)
(こほん。おぬし、名はなんという?)
(カイルです。あなたは誰なんですか?)
(わらわはスピラ。おぬしが今身に着けておるキネティックアーマーの設計開発者じゃ)
(キネティックアーマー? この鎧のことですか?)
(そうじゃ)
(ということはあなたが博士なのですか?)
(そうじゃよ)
「ノーアさん、今スピラ博士と会話ができました」
「分かりました。そのまま会話を続けてください」
「えっと、カイルは誰と会話してるの?」
アイリスは不思議そうにノーアの顔を見る。
「カイルさんは鎧に宿るスピラ博士の残留思念と会話しています」
(カイルよ、そのまま念じればわらわと会話ができる)
(分かりました)
(おぬし。ノーアに現在の状況をキネティックアーマーに送るよう伝えてくれ)
(はい。スピラ博士から直接伝えることはできないのですか?)
(残留思念の状態では無理じゃ。だから、カイルの手助けが必要なのじゃ)
「ノーアさん、現在の状況をキネなんとかに送ってくださいとのことです。よく意味が分からないので、そのまま伝えました」
「把握しましたので大丈夫です。今転送します」
(おー、きたきた。…………なるほどのー)
(もう状況を把握したんですか?)
(そうじゃよ。さすがノーアじゃ)
(俺たちもノーアさんに助けてもらいました)
(すーぱーAIノーアは、わらわが生みの親じゃからの)
(ノーアさんの母親だったんですね!)
(まー……そんな感じじゃ)
(この鎧を着て海底に行くのですか?)
(そうじゃ)
(……色々気になることがあるのですが……)
(まー、そうじゃろうな。その鎧があれば目的地には到達できるので安心するのじゃ)
(分かりました)
(さて、そろそろ本題に入るとするかの)
(お願いします)
(うむ。まず大前提として、このアーマーはおぬしの星の文明レベルでは過ぎたる力じゃ。適切に使いこなせるかの?)
(やってみせます)
(皆最初はそう言う。じゃが、残念な結果になったのは報告書だけでなく、実際にこの目で幾度も見てきた)
(そんなに扱いが難しいのですか?)
(ある意味ではな)
(ある意味?)
(力を行使するうちにその力に溺れるのじゃ。自分自身でも気付かぬうちにな)
(どういうことでしょうか?)
(例えば……そうじゃな。おぬしは何の仕事をしておる?)
(商人をしています)
(仕事で競合などに嫉妬したことはないかの?)
(……全くないとは言い切れません)
(正直でよろしい。では、それら競合を力で屈服させることができたらどうじゃ?)
(考えたことがありません)
(仮定の話じゃ)
(……うーん……気分がいいとかですかね?)
(そうじゃな。そうすると周囲の人はどうなる?)
(自分は気分が良いですが、屈服させられた方は不満が溜まります。さらに身内の中にも異議を唱える者が出てくると思います)
(この状況が続けば、不満は鳴りを潜め、表立って異議を唱える者もいなくなる)
(なぜですか?)
(その力に恐怖、畏怖するからじゃ。圧倒的な力を自分に向けられるかもしれないと考えたら恐ろしいじゃろ?)
(確かに)
(周囲の人々は自身に矛先が向くのを避けようとする。それはやがて称賛へと形を変える。こうなるとどうなる?)
(……自分の好きなようにふるまえるようになる?)
(そうじゃ。ここまで来ると自分に逆らう者は皆無となり、自身の行う行為は全て称賛される。己の行為こそがルールとなるのじゃ)
(そうなると正常な物事の判断ができなくなりますね)
(自分の行いが全て正しいと錯覚するからの。些細な事から始まった行為と状況に快感を覚え、果てはその快感に抗えなくなる)
(だから知らぬ間に力に溺れてしまう……というわけですか)
(理解できたようじゃの)
(話が長くなったが、一般人はこうなるのが普通じゃ。むしろ正常な反応とさえ言える。もう一度聞くが、今の話を踏まえて適切に使いこなせるかの?)
(俺は魔法……ギフトも使えない一般人です。絶対にそうならないとは言えません……)
(さっきも言ったが、おぬし正直な物言いをするのー)
(そうならないよう努力します。そして、この力は俺のためじゃなく、皆のために使いたい……そう考えています)
(本来は力を持つに相応しい者かどうか試験するのじゃが……今回はそうも言ってられん)
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