第136話 住人の正体
――空島内。
再び島の中へと戻ってきた二人はノーアへ会いに行く。
ノーアの部屋に到着し、ノックすると扉の奥から彼女が現れた。
部屋の中はカイルが寝ていた部屋と同じような質素な構造になっている。
ノーアから椅子に座るよう促されると、二人が座った後に彼女もテーブルを挟んで対面して座った。
「こちらがアイリスを助けてくれたノーアさんだ」
「初めまして、アイリスさん」
笑顔になったノーアがアイリスに話しかける。
「助けて頂いてありがとうございます」
「いえいえ。起きてからの体調はどうですか?」
「はい、おかげさまで元気です」
アイリスはノーアに笑顔を返した。
「アイリスの件について魔法が関連しているのはなんとなく分かりました。何が原因だったんですか?」
「魔法……ですか」
「もしかして魔法は関係なかったのでしょうか?」
「あー、いえ。そういう意味ではありません。どこから説明しようかと考えていました」
「こちらも早とちりしてしまいました。……そういえば、先日からあなた以外の住人と全くすれ違わないのですが、他の住人は別地区に住んでいるのですか?」
「この島には私しかいませんよ」
「「えっ?」」
カイルとアイリスは驚きながら互いの顔を見る。
「驚きますよね」
「はい」
「驚きついでにもう一つ。……私は人間ではありません」
「確かに人間技じゃないです」
「いえ、比喩ではなくそのままの意味です」
「えっと……それはつまり……」
カイルはモンスターなのか?と発言しそうになったが思いとどまった。
(アイリスを診てもらったのに、モンスター呼ばわりはあまりにも失礼だな。けど人間じゃないなら何なんだ?)
ノーアはカイルの正面へ握手するように手を差し伸べる。
カイルも彼女の手をとって握手しようとする――手がすり抜けた。
「……もしかして幽霊……ということですか?」
「なかなか鋭いですね」
「えっ?」
「実は私……AIなのです。そして、あなたたちが今見ているのは私が作り出した立体映像です」
「えーあい? りったいえいぞう? どういう意味なのでしょうか?」
「失礼しました。如何せん、この星の人間と会話するのが初めてなものでして」
「この星の人間? 俺の理解不足ですみませんが、さっきから話についていけていません」
「突然情報の激流に飲まれているので無理もありません。大丈夫です、これから順に説明していきます」
「ノーアさんは人間の魔法使いではないということでしょうか?」
「そう考えてもらって構いません」
「分かりました、お願いします」
「まず最初にあなたたちが空島と呼んでいるこの場所。……ここは島ではありません」
「島ではない……?」
「はい。この島……いいえ、この艦は当時最新鋭の外宇宙探索船プロメアース級一番艦プロメアース」
「外宇宙……探索船……プロメアース」
「空に浮かぶ大きな船だと考えてください」
「こんな巨大なものが空に浮かぶことができるなんて……そういえば俺がここに来た時、島……いや船が突然現れたように感じました」
「それはミラージュシステムの効果ですね。普段は地上から見えないようになっています。しかし、一定の高度に達した地点からでは見えるようになります」
「そういう仕組みになっていたのですね」
「ノーアさん。地上に残っている数百年前の文献では観測者がいて、ここへ来るには空翔石が必要だとも書いてありました」
アイリスが質問する。
「高高度からの観測が必要ですが、それには高度な技術が必要ですからね。なのになぜ分かったのか? という顔をされていますね」
「過去にはそういう技術があったのかもしれませんけど」
「数百年前に艦のトラブルが発生し、その際にミラージュシステムが一時的に停止しました」
「その時にたまたま地上から観測されたということ?」
「そうかもしれません。あと……空翔石についてですが、これについては船から脱落したモジュールパーツ……船の部品のことを指しているのかもしれません」
カイルとアイリスは互いに顔を見合わせて納得したように頷く。
「……唐突ですが、カイルさん、アイリスさん……私から二人にお願いがあります」
「こちらも助けて頂いた礼をしたいです。俺たちにできることがあれば話してください」
アイリスに代わり、再びカイルが話す。
「ありがとうございます。経緯から説明しなければなりませんので、続きは明日お話ししますね」
「分かりました。こういう話になるとは思ってなかったので、整理する時間を頂けると助かります」
「それではまた明日」
カイルとアイリスはノーアに礼を言って部屋から出ていった。
「ここが島じゃなくて船。ノーアさんは別の星の人……じゃなかった……えーあい……だったな」
「私は空島の秘密が分かって嬉しいよ。話聞いててワクワクしたもん」
アイリスはニコニコしながらカイルに返事する。
「俺にはまだ話の半分も理解できてないが、アイリスが嬉しそうでよかった」
そう言いながら、カイルは両手を自身の胸の前に出して手の甲を見せてぶらぶらさせた。
「何してるの?」
「オバケの真似。だってここって人間は俺たちしかいないんだろ? いるかもしれないぞー」
「こ、怖くないもん」
若干声を震わせながら、カイルの服の裾をつまみながら歩く。
しばらく歩くとつまむのを止めてぴとっと彼の身体にくっついた。
「エンチャントかな?」
「むー。今回は違うのー……そうだ、カイル」
「ん?」
「この船って最初からノーアさんだけしかいなかったのかな?」
「一人にしては部屋が多すぎるからなー。それも明日聞いてみよう」
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