第129話 騎士の意志
「終わりましたね……」
レティルスが呟く。
「ええ……しかし、彼らの所業によって現在も多くの人々が苦しめられています」
「そうですね……まだ戦争は続いています」
「……拘束しないのですか?」
「王が話をしたいと希望されていますので一緒に来てもらいます。そういう意味では拘束になりますね」
レティルスは笑みを浮かべた。
「では大人しく拘束されるとしましょう」
サークリーゼも笑顔で返す。
「その笑顔、昔のサークリーゼさんに戻ったようで嬉しいです」
「今、私は笑顔だったのですか?」
「ええ、とても。さぁ、地上へ上がりましょう!」
サークリーゼは再び笑顔になる。
「――ありがとう」
サークリーゼは突如、どこからか懐かしい声が聞こえたような気がして周囲を見渡す。
「ん? どうしました?」
「いえ、なんでもありません。気のせいです」
二人は地下から城内へと出ると王の間へと向かう。
部屋に入るとロムリア王が奥の玉座に座っているのが見えた。
玉座の前に二人が並び立つとロムリア王は話し始める。
「話の概要についてはレティルスから聞いた。余は何も知らなかったのだ……」
「イラベスク商会が王の耳に入らないよう巧妙に隠蔽していました」
「そのようだな」
「私も正直に申しますと、王と商会は共謀していると当初は考えていました。……今思えば浅はかでした」
「そう考えるのも至極当然のこと」
「……私は王国に対して反逆を企て、さらに地下から貯蔵品を盗み出しました」
「…………サークリーゼよ」
「はい」
「全ては余が至らなかった故、招いたこと。もう一度、国のために力を貸してくれぬか?」
「ありがたきお言葉……しかし、私は復讐した時点で彼らと同じ穴の貉に成り下がりました。そのような大役、今の私には不相応かと存じます」
「サークリーゼの気持ちは理解している。その点については心配しなくてよい」
「さらに王国騎士団にも少なからず損害を与えています。私が復帰した場合、中には納得できない者もいるかと思います」
「そこについては私からも彼らに説明します」
レティルスが会話に入る。
王とレティルスから期待の眼差しを向けられてもサークリーゼは首を縦には振らなかった。
「……どうやら意志は固いようだな」
「申し訳ございません」
「よいのだ、無理強いはせん。それと話はもう一つある」
「何でしょうか?」
「詫びにもならんことは分かっておるが、何か希望があれば申してみよ。可能な限り応じよう」
「……それでは現在捕らわれている私の仲間、バティスを解放して頂けませんでしょうか? 彼もイラベスク商会の犠牲者で、元は善良なる国民です」
「では、早急に手配しよう」
「ありがとうございます」
「うむ」
ロムリア王はゆっくりと首を縦に振った。
「レティルスよ」
「はっ!」
「ユーファリア帝国との停戦交渉を進めよ。戦争を直ちに終結させるのだ」
その言葉を聞いてレティルスはすぐに返事せず、悲しげな表情をしながら王を見つめた。
「余の身を案じておるのか?」
「はい。王の処遇がどうなるのか分かりません」
「レティルス、もうよいのだ。最後は余が責任を取る」
「ロムリア王…………御意!」
「サークリーゼよ、今の話聞いたな?」
「はい」
「帝国軍が入城すれば、貯蔵している財宝は全て没収されるであろう」
「はい、おそらくそうなるでしょう」
「サークリーゼの専用装備である剣と鎧はそのまま持っていくがよい」
「……有難く使わせて頂きます」
「レティルス、サークリーゼ……両名とも大儀であった」
「「はっ!」」
サークリーゼとレティルスは王の間から出ていく。
二人は城門前までやって来ると立ち止まった。
「サークリーゼさん、気が変わったらいつでも戻ってきてください」
「あまり期待しないでくださいね」
「首を長くして待ってます」
「言ったそばから」
「ははは! では私は早速、停戦交渉の準備に取り掛かります」
「交渉がうまくいくことを願ってます」
「ありがとうございます!」
レティルスは別れ際に通行証をサークリーゼに渡す。
サークリーゼはレティルスと別れ、城門をくぐり王都に出る。
王都を出る際に門番に通行証を見せると、何のお咎めもなく外に出ることができた。
そのまま道なりに歩き、ある人物との合流地点へと向かう。
合流地点へ到着すると馬車が一台停車しているのが見えた。
荷台に近づいていくと、馬車の持ち主がサークリーゼに気付く。
「無事に終わったのか?」
「ええ、購入した道具の助けもあり事なきを得ました」
「そいつはよかった」
「本当に感謝しています。レスタさん」
「勘違いしないでほしいが、あんたを許したわけじゃねーぞ。俺の大事な仲間を傷つけようとしたんだからな」
「理解しています」
「あんたに協力したのは商売だからだ」
「いい商人に出会えてよかったです」
「まぁな」
「ところで他にも探している道具があるのですが……」
「どんな道具だ?」
サークリーゼは道具の内容について説明し始めた。
「そんな便利な道具あるわけないだろ……」
「もしかしたらと思って聞いただけなので忘れてください」
「……と思わせておいて、実はあるんだなーこれが!」
「本当ですか! いくらですか?」
「どうしよっかなー。超、超貴重だからなー。在庫一個で滅多に手に入らないし」
レスタはサークリーゼの様子をちらちらと窺った。
「言い値で買いましょう」
「いや、こればっかりは値段を提示されても売るわけにはいかねー」
「理由が必要ですか?」
「そうだなー」
「……贖罪のためです」
サークリーゼは真剣な表情でレスタの目に視線を向ける。
「……詳しく聞かせてくれ」
彼が事情を詳しく説明すると、レスタは快諾する。
「では代金はこちらで」
サークリーゼは剣が格納された鞘をレスタに手渡した。
レスタは受け取った鞘から剣を抜く。
「……えー! これってイラベスク商会が所有する至宝の一つ、マキア・セレスじゃねーか!」
「はい、本物です。シュバリオーネも渡そうかと思ったのですが、そっちは折れたので置いてきてしまいました」
「あの剣が折れるなんて……あんたいったい何と戦ってたんだよ?」
「主にこれですね」
サークリーゼはレスタが受け取った剣を指差す。
「あっ……納得」
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