第121話 傭兵への依頼と移動

 ――数日後。


 セルバレトはイラベスク商会の建物の一室で傭兵候補と面会している。


「カミールさん、イラベスク商会へのご協力感謝いたします」


「あぁ、依頼の内容を話してくれ」


 セルバレトはロムリア王国への伝手でカミールを紹介してもらっていた。


 彼が元サークリーゼの仲間であったと聞きつけ、白羽の矢が立つ。


「サークリーゼの行方はお分かりですか?」


「知らん」


「彼は戦争の混乱に乗じて王都へ姿を現すはずだとオーナーは考えております」


「……つまり……サークリーゼと戦えと?」


「話が早くて助かります」


「…………いくらだ?」


「報酬相場の二倍お支払いいたしましょう」


「全く足りん」


 セルバレトはしばし考え込む。


「では……三倍でいかがでしょうか?」


「まだだ」


「も、もうこれ以上はいくらなんでも厳しいです」


「それなら他をあたれ」


 カミールは椅子から立ち上がり部屋から出ていこうとする。


 セルバレトは本来このような案件をミーリカへ依頼する予定で考えていた。


 しかし、その頼みの綱は切れてしまっており、また他に頼める当てもない。


 前回ジグマイヤーへ失敗報告をしているため、今回はなんとしても成功させたかった。


「ま、待ってください!…………四倍……いや、五倍! これ以上の支払いは無理です」


 セルバレトはカミールを引き留めて、すがる様な目で訴えかける。


「……金額面はそれでいい」


「ありがとうございます!」


 承諾の返事にほっと胸をなでおろす。


「それとイラベスク商会で保有している武器と防具を使わせろ」


「分かりました。ショートソード、ロングソード、バスタードソード、各種防具などご希望のものをお申し付けください」


「違う」


「失礼しました。もちろん、剣以外の武器が必要であれば用意できます」


「俺が求めているのはイラベスク商会が保有している名剣マキア・セレスだ」


 セルバレトは予想外の返答に一瞬目を大きく開いた。


「マキア・セレスはさすがに……代わりにリルファリアでいかがでしょうか?」


「奴はシュバリオーネを保有している。同程度の武器ではダメだ」


「…………分かりました。そこは私がなんとかします。……では、依頼の方はよろしくお願いします」


 深く頭を下げてカミールから立ち去ろうとする。


「待て」


「まだ何か?」


「名鎧ノムドも必要だ」


「えっ! それはいくら何でも無理です! 私の権限の範疇を超えています!」


「ダメだ。お前はサークリーゼを間近で見たことがあるのか?」


「いえ……しかし、元ロムリア王国騎士団所属というのは知っています……。本来はマキア・セレスだけでも無理難題なんです。どちらかでお願いします!」


 セルバレトの返事にカミールは無言を貫く。


「…………私の権限では判断しかねます。一度オーナーに相談させてください」


 ――翌日。


 セルバレトがジグマイヤーへカミールの要望について報告する。


「名剣マキア・セレスだけでなく名鎧ノムドまで所望しています」


「サークリーゼのことをよく把握している。構わん、使わせてやれ」


「しかし、両武具ともイラベスク商会の秘宝。そのまま持ち逃げするかもしれません。たかが一傭兵に使わせるのは……」


「私が許可するといっているのだ」


 ジグマイヤーの固い意志表示にセルバレトは、それ以上食い下がらなかった。


 ――数日後。


 王都を行き交う人々の表情からは笑みが全く零れておらず、皆どこか不安そうだ。


 いつも活気に満ちている商店街も、この頃になると不気味な静寂に包まれており、嵐の前の静けさといった状況だった。


 カイルは王都脱出の準備を整える。


 事前にアイリスの両親にも声をかけたところ、カイルたちと一緒に脱出することとなった。


 商会のスタッフは船に乗船希望するものと王都に残る者とに分かれ、残ることを希望した者には無理強いをしない。


 彼らは複数の馬車に分乗して移動を開始した。


 当初、王都の脱出は困難を極めると思われていたが、以外にもあっさりと許可が下りる。


 (帝国軍との戦いに備えて、こちらまで手が回らないのか? いずれにしても最大の心配事が解消された)


 王都を脱出したカイルたちの馬車は、マルスライトが指定する目的地へと向かう。


 ――後日。


 カイルたちはマルスライトの目的地へと到着した。


 そこら一帯は、一見何の変哲もない海岸ではあるが、断崖絶壁になっていた。


「ここが目的地なんですか? とても船が停泊できるような場所には思いませんが……」


「まー、そう早まるな」


 マルスライトはカイルたち主要メンバーに声をかけ、店舗のスタッフたちは一旦馬車で待機することとなった。


 カイルたちはマルスライトに付いていくと、彼は洞窟の入口前で立ち止まる。


「この中だ」


 カイルたちは明かりを付けて、洞窟の奥へと進む。


 洞窟は緩やかな下り坂になっており、馬車の通行も難なくできるほどの道幅があった。


 しばらく進むと明かりに照らされて建築物のようなものが見えてくる。


「ここが私の第二ラボだ」


 マルスライトが建物の入り口正面で立ち止まりカイルたちに告げた。


 洞窟の最奥は開けた空間になっており、他にもいくつか建築物がある。


 さらに港の設備もあり、船が停泊しているのが見て取れた。


 その後、カイルたちは明かりなどを各所に設置し、馬車受け入れの準備を行う。


 それから馬車で待機してるスタッフたちと協力して食料などの物資をラボへと運び込む。


 カイルたち含め、全スタッフ数十人で取り組み、日没前には全ての物資をラボに運び終える。


 大人数のため当初は馬車での野宿も検討していたが、宿については複数の建物に分かれ、また船内も利用することで解決した。


 ――翌日。


 カイルたちはさっそく出航の準備を開始するが、すぐ問題に直面する。


 洞窟の外へ出て沖の方を確認すると、帝国海軍の船が複数隻、周辺海域を警戒しているのが分かった。


「カイルさん、このままじゃ出航できない」

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