第111話 唐突な商談
――数日後のエルフの町。
カイルたちは再度モンスターの襲撃に備え、町で待機していた。
ロミリオの話によると、モンスターは複数回に分けて襲撃してくることがあったためである。
あと数日様子を見て、何事もなければ船を受領しに行く予定だ。
夜、カイルたちはロミリオの商館の一室に集まっていた。
「モンスターたちはもう襲ってこないみたいだな」
「そうだな。そろそろ船を受領しにいくか」
レイジーンへカイルが返事する。
「メルフィスさんは僕たちが護衛して送り届けます」
ロミリオとメルフィスが護衛の段取りについて話し合い始める。
各々が自由に話し始めた頃、カイルは商館の外が騒がしいことに気づく。
「なんだ? 何やら外が騒がしいぞ」
カイルは窓際へと近づき、窓を開いて周囲の様子を確認する。
「――さぁぁん! いますかぁぁ!」
(なんだ? 誰かが叫んでいる?)
声のした方へ視線を向ける。
「カイルさぁぁん! 商談に来ましたぁぁ!!」
「――ヒースラルド!」
カイルの言葉に部屋にいる皆が一斉に反応する。
「あっ! カイルさん、やっぱりそこにいたんですね! 早く商館から出てきてください。商談しましょう!」
「……商談希望らしいが?」
カイルは後ろにいる皆の方へ視線を向けて問いかける。
「とりあえず商館から出ましょう」
ロミリオが移動し始めるとカイルたちも後ろに続き外へと出る。
「最初の頃と雰囲気が全く違うね」
移動中にアイリスがカイルに話しかけた。
「今となってはどっちが本来の彼なのか分からんな」
商館から外へ出てヒースラルドと対峙する。
「また懲りずに姿を現してどういうつもりだ?」
最初にカイルが問いかける。
「だぁかぁらぁ、商談希望ってさっきも言ったじゃないですか!」
「せっかく逃げおおせたのに、わざわざ自分から捕まりに来るとはな」
メルフィスが声を発し、レイジーンとロミリオが武器を構える。
「おっと! 捕えようとするのは止めておいたほうがいいですよ」
「こうして現れたのは何か策があるからかもしれない。不用意に近づかない方がいい」
メルフィスの意見に皆が頷く。
「では早速商談に入りましょう! まずはこちらをご覧ください!」
ヒースラルドが肩に背負っているリュックを自身の目の前に下ろし、中から宝石のようなものを取り出した。
「この輝き! 美しいでしょぉぉ?」
彼は宝石のようなものを両手に抱きかかえてカイルたちに見せる。
「暗くてよく分からん。何かの石か?」
「おっと! これは失礼しました! しばしお待ちを……」
(俺の微量な魔力でも、この宝石に注入すれば)
ヒースラルドが魔力を込めると、宝石は輝きを放ち始めた。
(よし! 起動は完了だな)
「宝石が輝き始めた? いったい何をした?」
「この宝石が何なのか気になりますよねぇぇ?」
「もったいぶらずに教えろ」
「まぁまぁ、そう慌てずに。本日は特別にお集まり頂きました商人様たちに今から商材の説明をしますから」
(効果発動までには時間がかかる。とりあえず時間稼ぎだ)
カイルたちは武器を構えたまま、ヒースラルドの言葉を待つ。
しかし、ヒールラルドはなかなか口を開かない。
痺れを切らしてカイルが再び問いかけようとした時、ようやくヒールラルドは口を開いた。
「…………な、な、なんと! この宝石、たった一つでエルフの森一帯を吹き飛ばします!」
「「何!?」」
その場にいる全員が驚き声を上げる。
「もちろん、あなたたち諸共です!」
「正気か!? あんたまで巻き込まれるぞ!」
カイルは言葉で刺すような勢いでヒールラルドへ問いかける。
(そんなことは事前に対策済みだ!)
「俺のことより自分たちのことを少しは心配したらどうですかぁぁ?」
カイルたちは彼の様子を窺う。
「今回は初回取引なのでぇぇ!! 試供品として無料で一つ差し上げまぁぁす!!」
「ふざけるな!! あの宝石を止めるぞ!」
カイルが真っ先にヒースラルドへと駆け出すと、レイジーンとロミリオも後ろへ続いた。
「使用後のぉぉ感想をぉぉ、ぜひお聞かせくださいぃぃ!! 生きてましたらねぇぇ!!」
彼らが駆け出した直後、アイリスは魔法詠唱を開始する。
「アイスアロー」
氷の矢がヒースラルドに向けて放たれた。
しかし、彼へ着弾する前に障壁のようなものにぶつかり、氷の破片となって地面に落ちた。
「すでに起動は完了しましたのでぇぇ、防御障壁が構築されていますぅぅ。その為の時間稼ぎをしてたんですぅぅ」
宝石の光の輝きはますます増していく。
「ほらほらぁぁ、もうすぐですよぉぉ!!」
カイルとレイジーンは障壁に斬りかかる。
二人の剣は弾かれず、そのまま障壁を切り裂いた。
(いける!)
「なっ!? 障壁を切り裂いたのか!?」
ヒースラルドは想定外の事態に顔をひきつらせた。
カイルとレイジーンは互いに一瞬顔を見合わせると、障壁を切り裂き始める。
(そうか……レクタリウスなら障壁を切り裂けるのか! それにカイルの剣も可能だったとは! ここは誤算だったな)
人が入れるほどに障壁を切り裂くと中へ入っていき、カイル、レイジーン、ロミリオがヒースラルドを取り囲む。
「早くその宝石の輝きを停止させろ!」
カイルが剣を構え言葉を放つ。
「俺を斬ったところで、この宝石はもう止められないぞ!!」
「斬られたくなかったら、すぐに止めろ!」
「止め方なんて知るわけねぇだろぉぉ!! 輝き始めたら最後よ!!」
ヒースラルドは宝石を地面に置き、リュックから小瓶を取り出す。
「せっかく、障壁を切り裂いてここまで来たのに残念だったなぁぁ!!」
そう言い放ち、ヒースラルドは小瓶を地面に投げつけた。
(…………あれ? プロテクションスフィアが発動しない……あれ?)
ヒースラルドは自身の身体を見渡し、何も変化がないことに動揺を見せ始める。
「おい! お前なんか焦ってないか?」
レイジーンが彼の異変に気付き問いかける。
「あ、焦ってなどいない! おい!! お前ら、早く止めろよぉぉ!!」
「「はっ?」」
三人は思わず声を上げた。
「アイリス! この宝石にアイスアローを!」
カイルの呼びかけにアイリスは頷き、魔法詠唱する。
アイスアローが宝石に命中するが、輝きは失われなかった。
アイリスたちもカイルたちの元へ合流する。
「おい、だからどうやって止めるんだ?」
「知るか!! は、早くしろ!!」
宝石の輝きはさらに増していく。
メルフィス、ロミリオ、レイジーンも停止する方法が思いつかず、万策尽きたという表情をしている。
ヒースラルドは宝石の傍でうわ言を言っているが、すでに皆の耳には届かない。
アイリスがカイルの隣に立ち、彼の顔を見つめた。
カイルもアイリスの顔を見つめると、彼女は悲しそうな表情をしながら首を左右に振る。
そのまま互いは見つめ合い、アイリスはカイルの手をつなぐ。
彼女の手は微かに震えていた。
(せめて最後の瞬間はこうしていたい……)
アイリスが目を閉じると、カイルも覚悟を決めて目を閉じる。
宝石の輝きが最高潮に達した。
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