第74話 リザードマン掃討
二人が拠点防衛隊へ追い付いた頃には、ファイアリザードマンとの戦闘が開始されていた。
モンスター達は討伐隊が向かった道とは反対方向から現れている。
(こいつら、もしかして別の群れなのか)
カイルは手近なファイアリザードマンに攻撃をしかけるため間合いを詰める。
アイリスは後方に下がり様子を窺い、状況によって魔法詠唱も必要になると考え準備した。
モンスターは全て金属製の剣と鎧で武装しており、数は防衛隊の約二倍だ。
カイル達二人が加わったところで数の優位性は覆せない。
しかし、エンチャントアイスの効果は予想以上に有効だった。
ファイアリザードマンはカイルのショートソードで斬りつけられると、反撃する間もなく体が凍結していく。
最初は数的不利で防衛隊が押され気味だったが、カイル参戦後は徐々に拮抗状態へと持ち込む。
ファイアリザードマンが一体、また一体と倒されていく。
「今だ! 一気に畳み掛けるぞ!」
リーダーは防衛隊全員に合図する。
皆で協力して奮戦し、モンスター達を圧倒していく。
「これで最後!」
リーダーが自身の槍でファイアリザードマンに止めを刺す。
「なんとかモンスター達は蹴散らすことができたな。皆で手分けして負傷者を拠点に連れて行ってくれ」
無傷な隊員達に指示を送る。
それから彼は、カイルとアイリスの姿を見つけると近づいてきた。
「君達は確か拠点待機の商人だったな? どうして逃げなかったんだ?」
「商人ですが、戦闘の心得もあります。モンスターの数が想定より多いと感じたので勝手な判断で来てしまいました」
「そういうことか、助かったよ」
リーダーは右手を差し出すと、カイルもその手を取って握手を交わした。
防衛隊は拠点へと引き返す。
後方で待機していた商人達も拠点へと戻ってきた。
「ありがとう、ロゼキット」
「カイル達も無事でよかった」
夕方になると討伐隊も拠点に戻ってきた。
討伐隊リーダーは皆を集めて無事に討伐が完了したこと、防衛隊リーダーはファイアリザードマンに拠点が襲撃されたことをそれぞれ報告する。
翌日からは拠点の防衛人数を若干増やし、討伐隊は別の群れの調査を開始した。
それから一週間の間に、討伐隊はファイアリザードマンの根城を発見し無事攻略する。
拠点には群れから逸れたリザードマン達が散発的に襲撃してきたが、カイル達は難なく撃退した。
討伐隊が拠点に戻ると、討伐隊リーダーはリザードマン達の掃討完了を宣言する。
周囲は歓声に包まれ、参加者は喜びを分かち合う。
モンスターの脅威は去ったが、各リーダー、キャタの発起人たちは拠点へ常駐して作業を続けると話す。
カイル達は引き続き拠点に残って作業を手伝えば、貰える権利も増えると事前に説明を受けていた。
しかし、カイルはキャタへ戻ることを選択する。
リオール草を入手できる権利は確定しており、その量も十分すぎるほどだったからだ。
何より早くシフのところへ戻って報告したいと考えていた。
討伐隊は明日の朝に解散となり、残る者達と戻る者達に分かれる。
――翌日の早朝。
カイル達は山に登りリオール草を採集していく。
「ここら辺まで来ると、たくさん生えてるね」
ロゼキットがカイルへ話しかける。
「もっと上まで登らないといけないかと思ったが、すぐに手に入ってよかった」
馬車は拠点に置いて、代わりに収穫の為に台車を持ってきていた。
「これだけあったら十分だね」
アイリスが台車に積まれたリオール草を見ながらカイルに話しかける。
「そうだな」
三人は十分な量を採集し終えると拠点へ戻る。
馬車の荷台に積み込み作業をしていると、ダームルに話しかけられる。
「おー、カイルさん。町へ戻るのか? ついでに俺も乗せていってくれ」
「ここまでどうやって来たんですか?」
「ここに向かう商人の馬車に乗って一緒に来たんだがな。その商人が拠点に残るっつーもんだから……」
「わかりました、町まで送ります。積み込みが終わったら荷台に乗ってください」
「助かるぜー!」
昼過ぎに作業は完了した。
アイリス、ロゼキット、ダームルの三人は馬車の荷台に乗り込んでいる。
カイルも馬に乗り、馬車はキャタに向けて進む。
途中、カイルは後ろを振り返って荷台の様子を窺う。
「――で! 拠点が襲われると思ったからよー、待機してた。ちゃんと戦える者がいないと不安だろ? それで案の定襲撃された……まっ、俺の予想通りだけどな! けど、相手が悪かった。さすがのリザードマンも俺の斬撃でばっさりよ!!」
ダームルは自身の武勇伝を力説していた。
(拠点防衛戦の時、確かあの人いなかったよな……)
アイリスはものすごく眠たそうな顔をしており、ロゼキットが察して代わりに話を聞いている。
カイルはロゼキットと目が合う。
その目はカイルへ何かを訴えかけるようだった。
カイルは無言で頷いて前方を向く。
「あっ! びびっと来た! 新曲来た! 凱歌来たわー! あぁ、ダームル様のー活躍で――」
(すまん、ロゼキット……)
馬車は無事にキャタへ到着した。
討伐隊本部の建物の前でダームルを降ろす。
「カイルさん、ありがとな!」
彼は上機嫌で去っていった。
カイル達は本部の建物の中へ入って報告した後、権利獲得に必要な書類へ記入する。
全ての手続きが完了し、リオール草の買付代金を本部へ支払った。
次回以降は、キャタの取引所でリオール草を優先買付できると係りの人は説明する。
その際、権利書を提示すれば、さらに通常の買付価格よりも安くなると付け加えた。
万が一取引所で在庫がなければ、現地に採集しに行く許可も出してもらえるとのことである。
手続きと説明を聞き終えた三人は宿へと戻った。
「カイル、権利獲得おめでとう!」
ロゼキットが宿に戻る道中でカイルを祝う。
「ありがとう!」
「宿に戻ったらどうする?」
彼がカイルに尋ねる。
「今日は、日が暮れてきたから町で一泊して明日オンソローに戻ろう」
「だったら今日はお祝いだね!」
アイリスは嬉しそうにカイルへ話しかけた。
「そうだな!」
――翌日の朝。
カイル達は準備が整うとキャタを出発した。
途中、積荷を襲うゴブリンを退けながら、無事オンソローへ到着する。
「ロゼキット。フロミアさんに話したいことがあるから、もう少し付き合ってくれ」
「わかった」
カイル達はフロミアの元を尋ねた。
「リオール草は入手できましたか?」
「はい、無事に手に入りました」
カイルはリオール草の供給が止まっていた理由を説明した。
同時に草を優先的に買付できる権利も取得したと伝える。
「そういうことになってたんですね……あっ! そうだ。カイルさん、コーヒーの調理器具入荷しましたよ」
「ほんとですか! ぜひ買付させてください」
カイルは調理器具を八台買付する。
彼はフロミアに改めて礼を言い、積荷の積み込み作業に取り掛かった。
作業が完了すると港へ向かい、ロゼキットと別れる。
出港した船はカイルとアイリスを乗せてルマリア大陸を後にした。
二人は昼頃、ロムトリアの店に戻ってくる。
今日は定休日だ。
馬車を保管庫に止めて、店の中へと入る。
「クルム、エリスただいま!」
「お帰りなさい!」
クルムとエリスは笑顔でカイル達を迎えた。
カイルはさっそくコーヒーの調理器具が手に入ったことを報告する。
「これでコーヒーも販売できますね!」
エリスが嬉しそうに話す。
「そうだな。荷物積み下ろしが終わったらすぐ、またアルバネリス王国に行くことになる。実際の販売はそこから帰ってきてからだな」
「わかりました!」
クルムとエリスが返事する。
「クルム、エリス、店の運営には慣れたか?」
カイルがクルム達に尋ねると、彼らは互いの顔を見つめあった後、カイルの方を向く。
そして、首を縦に振って元気よく返事した。
「はい!」
「安心した。……ところでクルム、商品の買付に興味あるか?」
「買付? ……はい! ぜひやってみたいです!」
「そうか、ならアルバネリス王国から戻ってきたら買付も担当してもらう。帰ってきたら説明するからな」
「わかりました、お願いします!」
その後、カイル達は荷台から積荷を降ろす作業に取り掛かる。
作業が終わると店内でエリスがコーヒーを作ってくれた。
「おー、うまい!」
「ありがとうございます」
エリスはトレイを両手で抱えながらニコっと微笑んだ。
準備が整うとカイルとアイリスは馬車に乗り、アルバネリス王国へ向かう。
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