第73話 拠点防衛
討伐隊本部の建物の中に入り、係りの人から詳しい話を聞く。
カイル達は物資を現地まで運搬するか、傭兵として参加するか役割が分かれていると説明を受ける。
貢献度に応じて報酬の配分が決まるので、カイルは物資運搬に志願して馬車1台分の運搬で貢献することにした。
決行日は明後日だ。
作戦はまず先遣隊が山のふもとに拠点を確保するため出発する。
拠点の予定地はイラベスク商会の施設跡地になると話す。
先遣隊が出発した翌日に物資運搬隊が出発する。
先遣隊がふもとを確保したら、物資運搬隊到着後に拠点とする。
拠点の構築に成功すれば、そこからリザードマンの根城調査を行う。
リザードマンは根城を拠点に群れで行動する。
そこをさえ抑えてしまえば、統率を失い散り散りになったリザードマンを各個撃破できると話す。
根城が見つかり次第、拠点にある程度の護衛を残して攻略を開始する予定である。
作戦の内容を理解したカイル達は、係りの人へ礼を言って討伐隊本部を後にした。
「100人以上の人達が参加するんだね」
「かなり大人数だな」
カイル達、物資運搬隊が出発するのは三日後になる。
出発の前日に物資の積み込みを終えて翌日に備えた。
――物資運搬隊が出発する当日。
物資運搬隊のリーダーとカイル達は挨拶をかわす。
彼はキャタ出身で討伐隊結成の発起人の一人だと話す。
カイルも軽く自己紹介した後、握手するとリーダーは出発の準備のため去っていく。
物資運搬隊は早朝に予定通り出発し、途中でモンスターに襲撃されることはなかった。
隊は順調に進むと拠点確保予定地が見えてくる。
予定地には廃墟となった木造の建物群があった。
(どの建物も破壊されてるな。ここもリザードマンに襲撃されたのか?)
それら建物群の周辺に先遣隊が待機して、物資運搬隊の到着を待っていた。
先遣隊のリーダーが物資運搬隊を迎え入れる。
互いのリーダー同士が互いの無事と状況を確認しあう。
確認が済むと、その場にいる全員で拠点構築に取り掛かった。
カイル達も荷台から物資を降ろし、各々の作業に取り掛かる。
――三日後。
雨風が凌げる程度の簡易的な野営地の拠点が完成し、中へ食料などの物資を運び込む。
拠点の構築が完了すると、討伐隊は次の行動に取り掛かった。
先遣隊リーダーを中心にリザードマンの根城調査の編成が組まれる。
カイル達は引き続き拠点の護衛を行う。
――二日後の夕方。
根城の調査隊が拠点へ帰ってきた。
彼らはエンボリオ火山の中腹に洞窟があり、そこを根城にしていると報告する。
先遣隊リーダーは根城へ一気に攻めることを提案し、物資運搬隊のリーダーもその案に賛成した。
翌日は準備をして翌々日に攻略を開始する段取りで話がまとまる。
「いよいよだね」
ロゼキットがカイルへ話しかける。
「そうだな」
「私達はどうするの? 洞窟に行く?」
「俺達は引き続き拠点の護衛をする。一気に攻めることには賛成だが、拠点の防衛が手薄になっているのが気になったんだ」
アイリスの問いかけにカイルは自分の考えを説明した。
「拠点が襲われたら、みんなご飯食べられなくなっちゃうね」
「そういうことだ」
戦える人間のほとんどが根城攻略に割り当てられていた。
その為、拠点の防衛には一部の戦闘要員を残すのみである。
他は商人などの非戦闘員で構成されており、カイル達も書類上は非戦闘員として割り当てられていた。
――根城討伐隊出発当日。
「では、我々が戻ってくるまで拠点の防衛は任せた」
「あー、任せてくれ!」
討伐隊リーダーが拠点防衛リーダーと出発前に最後の言葉を交わす。
カイル達を含む拠点防衛隊は、早朝出発する討伐隊を見送った。
人が減り、賑やかだった拠点は静かになる。
「後は吉報を待つだけだな」
カイルの隣にいる商人が呟いた。
討伐隊は遅くても翌々日には戻ってくる予定である。
それまでの間、各々は物資の移動などやり残した作業に取り掛かった。
カイルとアイリスが一緒に作業していると後ろから聞き覚えのある声で話しかけられる。
「カイルさん!」
カイル達は声のする方へ視線を向ける。
「おっ! やっぱりカイルさんじゃねーか! こんなところで会うなんて奇遇だな!」
そこにはダームルが立っていた。
彼はカイルが依頼をこなす際に人生で初めて契約した傭兵だった。
「あなたもここに来てたんですね。傭兵志願ですか?」
カイルは敬語を使って無難に対応する。
「そうだな。いやー、カイルさんの依頼の時はジャイアントゴブリンに後れをとったが、今度はそうはいかねーぞ!」
(やっぱりあの時遅れをとってたんだな)
「今回もよろしくお願いします」
「おーよ! 見てろよー、モンスターども!」
ダームルは正面にモンスターが立っていることを想定して、急にパンチの応酬を繰り出した。
「あのー、まだ戦闘始まってませんよ。体力温存してください」
「おー、そうだったな! つい体が反応しちまうんだよ」
「……」
「なんつーか、俺達もとうとう山の頂に来ちまったなぁ。そのまま権利も頂きます!……なんてな! だーはっはっはー!」
(まだ山のふもとなんだよな)
カイルはアイリスの反応が気になって横目でちらっと窺うと、彼女は真顔でダームルを見ていた。
その光景がおかしくて思わず吹き出してしまう。
「なんだー? 俺のギャグがそんなにツボに入ったか? まー、俺持ってるからなー、これをなー!」
カイルの反応を見たダームルは、そう言いながら自分の右上腕部を左手でぱんぱんと叩く。
「……そこの木材、持ってもらえます?」
「おっ! 木材? ……あー、任せろ! がはは!」
カイル達は引き続き各々の作業に取り掛かる。
――翌日の昼頃。
見張り係の声が拠点に響く。
「モンスターの襲撃だ!!」
各々は作業を中断し拠点中央に集まる。
拠点防衛隊のリーダーが現れて状況を確認した。
「護衛はモンスターの前方に展開し、商人達は後方に下がって物資を守れ!」
リーダーが指示を伝え即座に十人の戦闘集団を形成すると、拠点から出てモンスターの集団へと向かう。
商人たちは各々の馬車へ拠点の物資を積み込み、後方への避難準備を始める。
カイルは遠くにうっすらと見えるモンスターの集団を確認した。
「あれがリザードマンですか?」
隣に立っている商人に尋ねる。
「そうだね」
商人はリザードマンを確認してカイルに返事するが、直後に無言でモンスターの集団を凝視する。
「……ん?……いや、違う。……あれはファイアリザードマンだ!」
「ファイアリザードマン?」
「そう。火耐性があって通常のリザードマンより強力な種族だ!」
ファイアリザードマンはざっと二十体は超えていた。
討伐隊の本体は根城を攻略している最中である。
(あの人数で拠点を守り切れるか?)
「ファイアリザードマンには弱点とかってあるんですか?」
「氷が弱点なんだが、ここじゃーな……」
男は辺りを見渡しながら話す。
「それより、俺達も早く物資の積み込みをして逃げるぞ!」
「そうですね!」
商人は積み込み作業に戻っていった。
「アイリス」
さっきの話を隣で聞いていたアイリスは頷く。
カイル、アイリス、ロゼキットの三人は外から中の様子が分からないように、馬車の荷台へ乗り込む。
アイリスはポーチから魔導書を取り出して魔法詠唱する。
「エンチャントアイス」
カイルのショートソードに氷属性が付与された。
三人は荷台から外へ出ると、カイルはロゼキットに馬車を後方へ移動させるよう頼む。
ロゼキットは頷くと、すぐに荷台へ物資の積み込みを始める。
カイルとアイリスは拠点防衛隊の援護に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます