第69話 コボルトとの戦闘

 ――翌日の早朝。


 アイリスは王都の図書館へ向かった。


 カイルは取引所に来ており、何人かの商人に情報提供料を渡して特産品の情報を教えてもらう。


 情報の中から、優先して買付したい商品を一つ決める。


 その商品を王都で仕入れようかとも考えていたが、製作元に直接伺って交渉できないかも検討していた。


 そうした方が王都で仕入れるよりも安価になるからである。


 カイルは取引所の商人に、買付を検討している特産品がどこで作られているのか聞いてみた。


「ピコル村だよ」


「その村にはここからどうやっていけばいいですか?」


「行き方は教えるけど……今はあの村の周辺に近づかない方がいいぞ」


「どうしてですか?」


 話を聞いてみると最近道中でコボルトの群れが出没し、商人が何人も襲われているとのことだった。


 (コボルトはキンゼート鉱山で戦ったモンスターだな)


「教えて頂いてありがとうございます」


「それと、これは風の噂なんだが、群れを率いているのはユニークモンスターらしい」


「ユニークモンスター?」


 商人は通常個体よりも強力なモンスターのことだと説明する。


 カイルにとってコボルトはゴブリンよりも戦いやすい相手だった。


 その為、万が一遭遇してもアイリスと協力して退けることができるだろうと考えている。


 (ユニークっていうのは群れのリーダーみたいな感じか。いくらコボルトとはいえ、出会わないに越したことはないな)


 カイルは商人に改めて礼を言い、一通り情報を入手し終えて宿へと戻る。


 それからアイリスが帰ってくるまで、部屋で情報の整理を行った。


 夕方頃に彼女が戻ってくると、次の目的地が決まったことを伝える。


「ユニークモンスターに出会わないように気をつけないとね」


「そうだな」


 ――三日後。


 特にモンスターに襲われることもなく、無事ピコル村に着いた。


 この村には取引所がなかったので、宿屋の主人に尋ねて情報収集する。


 教えてもらった情報を頼り工房を尋ねて買付交渉すると、一件目で驚くほどあっさり話が纏まった。


「ありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ。遠路はるばるお越しくださってありがとうございます」


 カイル達は買付けた商品を馬車の荷台へと積み込む。


「こんなにあっさり決まるとはな。まだ時間があるし、他のところにも交渉してみよう」


「そうだね」


 その後、他の工房にも赴き交渉を重ね、希望価格で買付することができた。


 何件か訪問するうちに、あっさり買付できた理由が分かる。


 村の道中にモンスターが出現し、買付に来る商人が激減したところへ、カイル達が来てくれたからだった。


 仕事が終わったカイル達は、村唯一の飲食店で夕食を食べた後、宿に戻る。


 明日は村に一日滞在して翌々日、王都メルリーネへ向けて帰ることにした。


 翌々日、村を出発してしばらく進んだ昼頃、道の途中で両側が緩やかな丘になっている場所へ差し掛かる。


 カイルはその丘の頂上にモンスターらしき集団がいるのを確認した。


 (あれが話に聞いてたコボルト達か?)


 じっくり観察すると、前方左右の丘に十体ずつ、計二十体ほどのコボルトの群れであることが分かる。


 念のため後ろも確認するが、モンスターの気配はなかった。


 (思ったより数が多いな)


 馬車を加速させて一気に逃走することも考えたが、積荷は工芸品も積んでおり衝撃に弱い。


 カイルは商品の破損を懸念し、コボルト達に応戦することを選択した。


 馬車を止めて荷台に乗っているアイリスのところへ向かう。


「噂のコボルト達らしい。応戦するからアイリスも協力してくれ」


「わかった」


 二人は馬車の荷台から出て、馬車の前方へと移動した。


 コボルトの群れはカイルの馬車が停止したのを確認すると、左右の丘から次々と駆け下りてくる。


 二十体のコボルトは馬車の前方に展開したが、距離はまだ100mほど離れていた。


 コボルト達は皆、小型剣と鎧で武装している。


 カイルは群れの中に王冠のようなものを被り、他のコボルト達よりも一回り大きい個体がいるのに気付く。


 (あいつがユニークモンスターだな)


「あの王冠のコボルトは俺が相手する。アイリスは他のコボルト達の相手を頼む」


 アイリスは頷いてポーチから魔導書を取り出す。


「新しく覚えた魔法をさっそく使ってみるね」


「頼む」


 彼女は魔法詠唱を開始する。


「我が魔力、鳴動する稲妻となりて、貫け! サンダーブラスト」


 サンダーブラストの稲妻が正面のコボルト達の集団に襲い掛かる。


 集団へ命中すると、周囲にいた十体ほどのコボルトが一気に感電して倒れた。


 命中を逃れたコボルト達は驚き立ち止まりひるんでいるが、逃げ出す者はいない。


「カイル、エンチャントは?」


「ファイアで頼む」


 アイリスはショートソードにエンチャントファイアをかける。


 カイルは王冠コボルトに向かって走り出し、途中で立ちはだかるコボルト達を斬り伏せていく。


 彼と対峙せず撃ち漏らしたコボルトは馬車へと走って来るが、アイリスのサンダーアローで迎撃された。


 彼女は魔法の連続使用で疲労の表情を見せるが、それでも以前より連続使用に耐えられるようになっている。


 疲労の主な原因はサンダーブラストの魔力使用量が予想以上に大きいからだった。


 カイルが王冠コボルトの正面に到達した頃には、周囲のコボルト達もほぼ掃討されている。


 残りもアイリスのサンダーアローで露払いされつつあった。


 カイルは王冠コボルトへ、じりじりと詰め寄って攻撃の機会を窺う。


 対して右手に小型剣、左手に小型盾、さらにレザーアーマーで武装している王冠コボルトも同じ状況だった。


 まずはカイルが先に仕掛けて、斬撃を繰り出す。


 他のコボルトとは違い、斬撃をかわし一撃で斬り伏せられることはなかった。


 (話に聞いていた通り、通常個体と違って手ごわいな)


 カイルは油断せず、ルマリア大陸で遭遇したモンスターの時のような緊張感で挑む。


 王冠コボルトは攻撃をかわし反撃を繰り出すが、カイルも軽い身のこなしで回避する。


 今度はカイルが反撃すると、王冠コボルトは持っている盾で防ぐ。


 直後、エンチャントファイアの効果で木製の円盾は燃え始める。


 その状況にも王冠コボルトはひるまずカイルに斬りかかるが、その斬撃はカイルのレザーアーマーをわずかに掠っただけだった。


 王冠コボルトは徐々に火が燃え広がる盾を投げ捨てる。


 落ちた盾は地面に生えている草花を燃やし始めた。


 それから両者は互いを見据えて膠着状態になる。


 (エンチャントファイアがある分、こちらが幾分有利だな)


 カイルは相手の隙を窺いながら、アイリスの方に一瞬視線を向けた。


 すでに王冠コボルト以外のコボルトの掃討は完了しており、次の魔法詠唱を開始してカイルに加勢しようとしている。

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