第68話 オークション

 ――二週間後、カイル達はアルバネリス王国の王都メルリーネに到着しようとしていた。


 王都の規模はカイルが今まで旅してきたロムリア王国、グラント王国の王都を凌ぐ。


 城壁の中には大小の建物群がひしめき合い、三階建て以上のものも存在していた。


 宿も四階建て、五階建てが軒を連ねており、王国が高度な建築技術を保有していることが窺える。


 宿数や部屋数も多いはずなのだが、カイル達は宿の確保に苦心していた。


 何件か探したところ、高額だったがようやく二部屋確保する。


 こうも宿が確保できないのも珍しかったので、カイルは王都で何か催し物が開催されるのか宿の店主に聞いてみた。


「明日、王都でオークションが開催されるんですよ」


「オークション?」


「はい。毎年数回ほど開催されています。色んな品が出品されているみたいで王国各地から人が集まってくるんです」


 (だから、宿が確保しにくかったんだな)


「面白そう! 私達も参加してみない?」


「そうだな、雰囲気だけでも味わってみるか」


 どうやって参加できるのか確認したところ、落札者側の参加資格は特にないとのことだった。


 ――翌日。


 宿の店主にオークション会場を教えてもらい、開催直前に到着した。


 会場内に入ると、すでに大勢の人々が詰めかけている。


 会場を見渡したところ、軽く数千人はいる雰囲気だった。


 座席も用意されていたが満席のため、カイル達は後の方から立ち見で見学することにする。


 しばらく待っていると司会の男性が会場正面の舞台へ姿を現した。


「この度は、遠路はるばる会場までお越し頂き、誠にありがとうございます」


 司会は開催前の挨拶を述べた後、オークションの開催を宣言する。


 物珍しい商品が次々と運ばれ、落札されていく。


 一見、なんの変哲もなさそうなものが金貨数百枚で落札されていくことに、カイル達は驚きを隠せなかった。


「皆さま、お待たせいたしました! 今回の目玉の登場です」


 司会の言葉に会場内がざわつき始める。


 その注目の品が舞台へ運ばれてくると、会場のざわつきはより一層大きくなった。


「こちらが……故サティロ作、名剣リルファリアです!」


 会場内座席のいたるところから歓声が上がり、一気に熱気に包まれる。


 (あの剣そんなにすごいのか)


「会場内の皆様にはすでにお分かりだと思います。この輝き、この意匠、これこそが本物の証!」


 (ウィルさんが聞いたら、すっとんで来そうだな)


「名門ユースクリフ家に伝わる! 門外不出の一振り! その名剣が今この場に、皆様の目の前にございます!!」


 再び会場が歓声に包まれた。


「入札は金貨1枚からスタートです。それでは……オークションスタート!」


 開始と同時に会場内にいる人々は声を張り上げ、次々と入札希望金額が提示された。


 正面の舞台には現在の入札金額を知らせる掲示板が設置されている。


 そこで提示される金額は、どんどん更新され見る見るうちに高騰していく。


「すごい! あっという間に入札金額が金貨1,000枚になっちゃった」


 隣のアイリスが驚いている。


 その後も金額が上昇する勢いは全く衰えない。


 入札金額が金貨10,000枚を超えたあたりで、カイル達は自分達には雲の上の話だと思い始める。


 いつの間にか、これを見たさに人が集まり、カイル達が立っている場所は身動きが取りにくくなるほど窮屈になってきていた。


「一旦外に出るか?」


「そうだね」


 カイルとアイリスは人混みをかき分けて、会場の外へ出た。


 オークションの開催は午前と午後の二部に分かれている。


「外で休憩して、午後の部から参加するか。宿の店主の説明だと個人出品中心で、落札金額が高額になりにくいみたいだしな」


「うん、そうしよ。どんなお店があるのか楽しみ」


 カイルは午後の部で思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれないと考えていた。


 会場外の飲食店で休憩してから、午後再び会場へと戻る。


 午前とは異なり、空席が目立っていたのでカイル達は座席に座れた。


 午後の部は、出品者各々が自分の出品商品の説明をする。


 五品目の入札合戦が開始されている最中、カイルの隣に座っている男性が突然話しかけてきた。


「今二人が入札競ってるだろ? あれな、片方は出品者の仲間なんだ」


「そうなんですね」


「仲間の入札者が、競っているように見せかける。あーやって落札価格を吊り上げて行くんだ」


 さらに男が続けて話す。


「このオークションに初めて参加した人達が、ころっと引っかかるんだ。今入札してる奴みたいにな」


「気をつけます」


「そう、だから兄ちゃん。あいつの出品物には手を出さない方がいいぜ」


「分かりました、親切に教えて頂いてありがとうございます」


 カイルから礼を言われた男は得意げな表情になる。


 直後、五品目が無事落札されたことを示す鐘の音が会場内に鳴り響いた。


 続けて、同じ出品者が、次の商品の準備を始める。


 (一人で複数個出品することもできるんだな)


 舞台の上にテーブルが置かれており、その上に一冊の本が置かれた。


「この魔導書を読めばあなたも魔法使いに! ……とはいきませんが……古の知識に触れてみるのもまた一興。あなたのコレクションにぜひ加えてください!」


 舞台に立つ出品者が声高々と商品説明を行う。


「今の時代、魔導書なんて全く価値ねーのにな。よくもまーあれだけ 謳い文句が言えるもんだな」


 さっきカイルにからくりを説明してくれた男が呟いた。


 (魔導書か……)


「アイリス、あの魔導書落札してみるか?」


「うん……でもいいの?」


「想像以上に高くなったら諦めるさ」


 最低入札金額は銀貨1枚だったので、カイルは挙手をしてその金額で入札を宣言する。


「あーあ、さっき忠告したのにな。俺は知らねーぞ」


 隣の男が呟く。


 案の定、出品者の仲間がすかさず銀貨2枚で入札してくる。


 それからしばらく入札の応酬が続く。


 カイルが銀貨50枚で入札したところ、相手の入札が止まった。


 (想像以上に安く落札できたな)


 無事落札したカイルは、座席から立ち上がり正面の舞台へと上がる。


「落札頂きありがとうございます」


「いえ、こちらこそ、貴重な品を出品して頂いてありがとうございます」


 カイルと出品者は軽く握手した後、代金と落札商品の受け渡しを行った。


 (魔導書が銀貨50枚で売れるなんてぼろ儲けだな。笑いをこらえるのも大変だ)


 出品者の口角が上がり、一瞬ニヤリとした表情になったのをカイルはたまたま目にした。


「どうかしましたか?」


「い、いえ、何でもありません」


 そう言って出品者は舞台の袖へそそくさと消えていく。


 カイルは落札した魔導書を手に持ち、舞台から降りて元の座席へと戻る。


「落札おめでとう!」


「無事手に入ってよかった」


 カイルとアイリスの会話を聞いていた隣の男が話しかけてきた。


「そんなぼろぼろの魔導書が銀貨50枚とはねー」


「俺には銀貨50枚の価値があると思ったんですよ」


「かぁー! 世の中には物好きもいるもんだなー」


 隣の男は呆れた顔をして会話を終えると、正面の舞台に視線を向けて次の出品商品の説明を聞き始める。


 魔導書が出品されたのは、カイルが落札した一冊だけだった。


 オークションが終了し、新たな魔導書を手に入れた二人は宿の部屋へと戻ってくる。


「何の魔法について書かれた魔導書なんだ?」


「うーん、魔導書なのは間違いないけど、保存状態があまりよくないから文字が所々かすれてるね。何の魔法なのかも含めて内容を理解するのには少し時間がかかりそう」


「時間かかっても読めるなら良かった」


「うん、落札してくれてありがとうね!」


「そろそろ夕飯の時間だな。昼間いくつか見て回った飲食店で美味しそうなところへ行ってみるか!」


「うん、行こう!」

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