第46話 戦利品
――翌日の朝、カイル達はフロミアの元を訪れていた。
カイルはフロミアへ昨日の出来事について説明する。
「そういう事情だったのですね。アイリスさんも無事で何よりです」
フロミアはカイル達に微笑んだ。
「……では仕事の話に移りましょうか」
「フロミアさん、その前にもう一点報告があります」
カイルは小さなアクセサリーをフロミアへ手渡した。
「名前が彫ってあったので、もしかしてと思いまして……」
「……これは……夫が肌身離さず身に着けているネームプレート……二人で商いを始めた時、お揃いで作ったものなんです……」
フロミアは絞り出すような声で言うと、じっとネームプレートを見つめる。
「これをどこで?」
「昨日戦ったモンスターの足元に落ちていました。……もしかしたら荷馬車を襲撃したモンスターなのかもしれません……」
「…………しばらくひとりにさせてもらいますか……?」
カイル達が退出した後、部屋の中からすすり泣く声が聞こえた。
三人は建物の外へ出ると、馬車の前まで歩き立ち止まる。
「…………アイリス、昨日図書館行けなかっただろ? 今から行くか?」
「……うん……お願い」
カイルは馬車を図書館へと走らせる。
道中いつもは、荷台からロゼキットとアイリスの会話が聞こえてくるのだが、この時は全くなかった。
今度は念のため、図書館の入り口までカイル達も一緒に付いて行く。
「また後でね」
アイリスが図書館の中に入っていくのをカイル達は見送った。
「アイリスちゃん、元気になってくれるといいけどね」
「そうだな」
「……ところでカイル」
「なんだ?」
「昨日取り逃がしたローブの男だけど、船で脱出する計画だったみたいだよ」
「だった……ということは計画には失敗したのか?」
「船の在り処を吐かせて、そっちとは反対方向へ逃げて行ったからねー」
「ということは、まだ船も残っているかもしれないということか?」
「アイリスちゃんの誘拐に失敗して、他の男達も逃げたからそのまま放置されてるかもしれないね」
もし、船を回収できれば今後の商売に利用できるかもしれないとカイルは考えていた。
「よし! 一度確認しに行ってみよう」
夕方、アイリスを迎えに行く。
図書館から出てきた彼女は入っていく時とは打って変わり、いつもの元気を取り戻していた。
――翌日。
ロゼキットの案内でドーム状の建造物を超えてさらに奥へ進むと、海岸が広がっていた。
その海岸に沿ってカイル達は歩いている。
しばらく歩いていくと、波で浸食されてできたであろう洞窟が見えてくる。
「たぶんこの中だね」
カイル達は松明を灯すと洞窟の中へと入っていく。
洞窟は奥行きは深くなく、歩いてほどなく最深部が見えてくる。
そこは広い空間となっており、目的の船が停泊しているのも確認できた。
木製の桟橋も用意されており、簡易的な港のようになっている。
「おー、まだ残ってたね。ローブの男こんなの用意してたんだ」
「帆船か。予想していたよりも大きいな」
カイルは船体に近づき詳細を確認する。
(大きさはざっと見積もって二十メートルってところか。かなり老朽化が進んでいるな)
船についてあまり詳しくなかったが、この大きさになると船員が三十人ほど必要ではないかと見積もった。
「カイル、この船に乗って帰ろうよ」
「船は勝手に動いてくれないぞ。誰が操縦するんだ?」
じー
アイリスはカイルを見つめた。
「俺何人必要なんだよ」
「……となると、残念だけど放置して帰るしかないかな」
「……いや待ってくれ。運用はできなくても売却はできる。一度帰ってフロミアさんに相談してみよう」
カイルはフロミアの伝手で売却先を紹介してもらえないかと考えていた。
彼女に仲介料を支払うことで互いにとって利益のある話になる。
カイル達は一旦町に戻り、アイリスを図書館へ送るとフロミアの元を訪れた。
「先日は大変申し訳ありませんでした。もう大丈夫です」
フロミアの表情からは、商談時の落ち着きが感じ取れる。
カイルはフロミアが落ち着きを取り戻したことに安心し、中断していた仕事の詳細打ち合わせを行う。
「積荷の積み込み日に関してはカイルさんの希望に沿います。内容についてはだいたい纏まりましたね」
「ありがとうございます。……フロミアさん、この仕事とは別件で一つ相談があります」
「何でしょうか?」
「先日の戦闘の戦利品で船を手に入れて売却先を探しています。そこでフロミアさんに売却先を紹介してもらえないかと思いまして」
「船の売却先……ですか……わかりました。いくつか伝手がありますので確認してみますね」
船の売却が成立すれば、フロミアへ仲介料を支払う約束も取り交わす。
翌日、二つの売却先候補をフロミアから紹介してもらえた。
カイル達はさっそく候補の二件を訪問する。
最初に訪問した一件は、町まで船を運んでこないと査定できないと断られる。
もう一件は、査定師と現地まで確認しに来てくれることとなり、正式に依頼することができた。
カイル達は三人の査定師と一緒に船が保管されている洞窟へと向かう。
現地に到着すると査定師達は、まず船の外観の確認を始める。
「外観はだいぶ老朽化が進んでいますね」
「はい、船に詳しくない私にもそのように感じました」
「では、船内も確認します」
カイル達は三人の査定師と共に船内へ乗り込んだ。
査定師達は真剣な表情で船内の細部を確認していく。
その様子をカイル達はそっと見守った。
一通り確認が終わり、一行は再び船外に出る。
「カイルさん、フロミア氏から聞きましたが、この船は戦利品ということで間違いないですね?」
「はい、間違いないです」
「戦利品、つまり所有者が明確でないものは本来買取してないのですよ」
「ということはこの船の買取はできないということでしょうか?」
「通常ならそうなります。……ですが、フロミア氏からの依頼ということで今回は特別に買取させて頂きます」
「ありがとうございます」
カイルは、ほっと胸をなでおろした。
「では、査定結果の報告をしますね」
「お願いします」
「船外、船内共に建造されてから年数が経過しているので老朽化が進んでいます。ですが、実運用には影響なさそうです」
そのまま査定師は話を続ける。
「このサイズの帆船はサラベル船と言いまして、外洋航海ができる船で最も小型なものになります」
「この大きさでも小型なんですね」
「はい。このサイズの船を新造した場合の建造費相場は、だいたい金貨五千枚ほどになりますね」
(やはり船は高いな……)
「そして……それらをすべて加味して考慮した買取金額は……金貨七百枚になります
「七百枚!?」
「……申し訳ありませんが、フロミア氏からの紹介とはいえ、これ以上の金額で買取することはできません」
「あー、いえ。そういう意味ではありませんので大丈夫です。ぜひその価格で買い取りお願いします!」
(金貨数十枚にでもなれば上出来だと思っていたが、まさか七百枚とは……)
「それでは取引成立ということで」
「はい、ありがとうございます」
カイルは査定師と握手をかわした。
「売却契約は町に戻ってからにしましょう。船はこのまま我々が預かります」
町に戻り、契約を結ぶと金貨七百枚を受け取った。
その後、フロミアの元を訪れて結果を報告する。
「無事売却できてよかったですね」
「フロミアさんのおかげです。これは約束していた仲介料です。受け取ってください」
カイルは事前に約束していた仲介料をフロミアへ渡す。
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