第38話 ギルド加入金の差
カイルは鞄から依頼書を取り出して一度目を通した後、担当者に渡す。
(ロズロさんとリールドさんにも確認してもらっているから間違いないはずだ)
担当者は渡された依頼書に目を通す。
積荷は小麦粉であり銘柄が異なっていると彼は依頼書を確認した後、カイルへ説明した。
(つまり最初に積み込んでいたもので合っていたのか)
「……おたくのギルドさんこれで何回目? いつも平謝りばかりされるけど勘弁してよね。……いい加減にしないと取引中止にするよ」
「申し訳ございませんでした! 提案なのですが数日猶予を頂くことは可能でしょうか?」
「すぐに使うわけではないから、三日ほどなら大丈夫ですよ」
「わかりました、ありがとうございます。それまでに正しい納品物を用意してお持ちいたします」
猶予は三日しかないため、王都に戻っていては間に合わない。
しかし、すでに対策をカイルは考えていた。
ギルド マグロックでの経験で近隣の村で指定銘柄の小麦粉を入手できることは分かっていたのである。
翌日早速行動を開始すると、指定の小麦粉は簡単に入手できた。
仕入れ代金はカイルが立て替えている。
猶予の三日よりも早い、二日で指定の数量を仕入すると担当者の元へ急いだ。
「指定の小麦粉は用意できましたか?」
「はい、荷台に積んでいますので一緒に確認してください」
担当者と一緒に馬車の荷台へ向かい確認してもらう。
「確かに依頼通りの小麦粉ですね。今までの方は謝るだけで何もしようとしなかったので助かりました」
「依頼を確実にこなすのはギルドの責任と考えています。本当に申し訳ございませんでした」
カイルは改めて謝罪をすると担当者と別れて馬車で王都へ帰る。
トラブル対応により、ギルドに戻る予定日が二日遅れた。
夕方ごろに王都へ到着し、そのままギルドの建物へ向かう。
建物に入り、ギルド長のフルエムがいる部屋まで歩く。
部屋に入るとフルエムはいなかった。
積荷の積み込み作業を行っているかもしれないと思い、作業場に向かうとフルエムが作業をしている。
カイルはフルエムに声をかけて仕事の報告を行う。
「おー! カイル、遅かったじゃないか! 新人だからっていい加減な仕事するなよ」
ギルド長の表情から不満がにじみ出ていた。
「届けた積荷が間違っていて、その対応のため帰りが遅れました」
「それで無事依頼はこなせたのか?」
「はい、近くの町で代替品を用意することで対応できました」
「おー、なかなか機転が利くじゃないか」
ギルド長はさっきまでの不満の表情から笑顔に変わった。
そのやり取りを聞いていたリールドが会話に参加する。
「あー、報告が遅れました。それね、私が助言しておいたんですよ。もしもの時のために。いやー、彼の初仕事に泥を塗らずに済んだね」
もちろん、彼から指示など一切受けておらず、全てカイルの判断で対応したことである。
「ほー。リールド良い判断だったな」
ギルド長が感心の声を上げる。
「でも……くー! 私がもっとちゃんと見ていればこんなことにはならなかったのに! そもそもこんな失敗しなかったのになー! 私もまだまだ精進が足りない……」
「まー、お前のお陰でカイルも助かったんだ。そこまで気にすることはないだろ」
「そう言ってもらえると嬉しいです! それによく考えると今回の失敗がカイルくんにとっても良い経験になったはずです。な、カイルくん?」
「……そうですね、ありがとうございます」
「リールド、お前……よく考えていて、向上心もあって、周りがよく見えてるな。……将来お前にならギルドを任せられるかもな、ははは!」
「ありがとうございます!!」
(黙っておこう)
カイルは今回仕事を無事完遂することが大切だと考えていたので、それ以外について気にしていなかった。
その為、内容を訂正する必要もないと考えていたのである。
――このギルドでの初仕事を終えた翌日、カイルはギルド長へ報告に来ていた。
「ギルドを辞めるって? どうした? 初仕事を達成したばかりじゃないか。体調でも崩したか?」
「いえ、そういうことではないです」
「先輩たちに迷惑かけたこと気にしてんのか? まだまだ先輩の力を借りないと仕事一つできない新人なんだから、そんなに落ち込むなよ」
「……他にやりたいことができたんですよ」
「……なるほどな……だが加入金の金貨10枚は返さないぞ」
「構いません。最初からそのつもりでしたから」
「それなら特にこちらとしては問題ない」
カイルはフルエムとの話がまとまると部屋から出ていく。
その後、離脱の手続きを行ってギルドに別れを告げた。
カイルがギルドから抜けることを決めた理由は、初仕事の流れからここで得られるものはないと判断したからである。
(ギルドへの加入金に差がある理由がだいたい分かったな)
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