第2章
第37話 新しいギルドへの加入
カイルはアイリスの実家に来ていた。
アイリスの父親にギルドのことについて報告するためだ。
ギルド以外にも、まだしばらくは王都にいることと礼を済ませると、家を後にする。
アイリスがいればもう少し話してから帰ろうと思ったが、この日彼女は家にいなかった。
カイルは王都の夜道を宿に向かって歩きながら、次の行動について思案する。
主に他のギルドはどういったものなのか、またギルドによって加入金が異なる理由が気になっていた。
ギルド マグロックの場合は、ギルド長のはからいで加入金が全額戻ってきた。
しかし、他のギルドでも戻ってくるとは限らない。
その為、次は加入金が少ないところを検討していた。
――翌日、加入予定のギルドへ赴いて話を聞いた後、ギルドへの加入を決める。
加入金は金貨10枚だった。
一度流れを経験しているため、加入の手続きは滞りなく進む。
「これで手続き完了だな。……よし、ではさっそく仕事だ」
カイルは手続き終了後、仕事開始は少なくとも明日以降だと考えていたので当日とは想定していなかった。
「今からすぐですか?」
「そうだ。何か問題あるのか?」
「いえ、大丈夫です。内容はどういったものですか?」
「この依頼書通りやってくれ。内容が分からなかったら、そうだな……おーい! ロズロ」
ギルド長フルエムにロズロと呼ばれた男は、カイルたちの方へ向かって歩いてくる。
「彼は今日からギルドへ入った新人のカイルだ。さっそく今から仕事をこなしてもらう。カイルのサポートをしてやってくれ」
ギルド長はロズロへ手に持っている依頼書を渡した。
ロズロは手渡された依頼書に一通り目を通した後
「わかりました」
と一言返事をする。
「じゃー、よろしくな!」
二人にそう伝えるとギルド長は去っていった。
カイルはロズロから無言で差し出された依頼書を受け取った。
「ありがとうございます」
カイルの礼に答えずそそくさと去っていく。
その後、カイルは作業を開始するため依頼書に目を通してみたが指示内容が大雑把すぎて不明点がいくつかあり、ロズロへ確認しに行った。
「ロズロさん」
後からカイルに呼びかけられたロズロは振り返ると
「忙しいんだ! 後にしろ!」
と返事して自分の作業に戻ろうとする。
「ロズロさん、一点だけ教えてください。積荷はここにあるものでいいでしょうか?」
「あー」
一言だけ答えると再び自分の作業に戻っていった。
早く作業に取り掛からなければ約束の期日には間に合わないので、カイルは積み込み作業を開始する。
作業が完了した頃、ロズロがカイルのところにやって来た。
「おい、それ何積んでんだ?」
「依頼の積荷です」
「ちげーだろ! 積むのはそれじゃねーよ! なんで確認しねーんだ! おぉん?」
「積み込む前にロズロさんへ確認しましたよ」
「知らねーよ、んなこと。……勝手に判断して勝手に動く。これだから新人は困るんだよ」
「……」
「まー、俺が気付いてよかったな! いや、俺だからこそ気付けたってところか! ガハハ!」
「……」
「黙ってねーでさっさと手動かせ!」
そこまで言うとロズロはカイルから離れる。
カイルは言われた通り積荷の積み替えを始めた。
積み替え作業が半分ぐらい完了した頃、誰かに後から声をかけられた。
「君が新しく入った新人か?」
振り返ると、見知らぬ男性が立っている。
「はい、新しく加入したカイルです。よろしくお願いします」
「私はリールドだよ。……さっきのやり取り見てたよ。彼の仕事はいい加減だからね。……ところでどんな依頼なんだい?」
リールドはカイルから手渡された依頼書の内容を確認した。
「今からだと一人で積み替えしてると今日中に出発できないかもしれないね。よし、積荷を積み替えするの手伝ってあげるよ」
「いえ、そんな……自分の仕事なんで大丈夫です」
カイルは積み込みのペースを上げれば何とか一人で対応できる見積もりで考えていた。
「まー、そう言わずに。新人なんだからここは先輩に頼って」
そこまで言われると断る理由もないと判断して手伝ってもらうことにした。
「手伝ってもらってありがとうございます」
「先輩として当然のことをしたまでだよ。それに私がちゃんと見てないと、このギルドは回らないからね」
リールドに礼を言うと、馬車に乗り込む。
(よし、行くか)
出発する頃には、すでに夕方となっていた。
積荷の運搬先は馬車で三日かかる村である。
(今日は野宿して過ごすか)
昼に出発すれば途中に立ち寄る村で宿泊できたが、予定がずれてしまった。
野宿するのは、夜間の移動は道も暗く危険なためである。
カイルは完全に暗くなる前に野宿する場所を探した。
平地で周囲の視界が開けているところに決める。
野宿と言っても護衛や傭兵はいないため睡眠をとることはできない。
朝になるまで焚火の前で待機した。
――翌日の朝、睡眠ができなかったので若干の気だるさを感じながらも目的地に向かって進み始める。
その後、順調に道を進み、モンスターに遭遇することもなく宿で体を休めることもできた。
これは新人が一人でこなす仕事のため、難易度が低いためである。
――王都を出発してから三日目、カイルは予定通り目的地の村に着いた。
村についたのは昼頃だったので、そのまま積荷受け渡し先へ向かう。
目的地に到着するとカイルは馬車から降りて、受け渡し先の建物に入っていく。
中に入ると受付の人間に説明し、担当者を呼んでもらった。
数分ほど待っていると担当者らしき人がカイルに近づいてくる。
「どーも、さっそくですが積荷はどちらですか?」
「こちらです、案内します」
カイルは担当者と一緒に馬車に向かった。
「ん? ちょっと待ってください」
担当者は馬車の荷台に積まれている積荷を見るや否や発言する。
「どうかされましたか?」
さらに担当者は近づいて積荷を確認した。
「これ依頼した積荷と違いますよ!」
「え? そんなはずは……しっかりと依頼書通りのものを持ってきました」
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