第35話 ギルドの行方

 ギルドの一室にはガストル、カミール、レイジーンを除くメンバー全員が集まっていた。


 一連の騒ぎでガストルの行方は分からず、売上金も一切戻ってくることはなかった。


「つまり……ガストルが単独で売上金を盗んだと思わせて、裏でカミールとレイジーンも繋がっていたと見るのが自然ということか……」


 エリックが事件の内容をまとめる。


 マグロックを始め他のメンバーも現在の状況からそのように判断せざるを得なかった。


「……それで、今後ギルドはどうするんですか?」


 スコラムがマグロックに尋ねる。


「……みんなよく聞いてくれ……」


 マグロックが一呼吸置いてからギルドメンバーに話始めた。


 一同は彼の口から発せられる次の言葉に緊張しつつも注目する。


「……ギルドは……解散する……」


 どれぐらいの売上金が金庫の中に入っていたのかはカイルにはわからない。


 それでも、金貨数十枚程度でないことは容易に想像できた。


「ワシがもっと厳重に金庫を管理しなかったからだ……」


 マグロックを責める人間は誰もいなかった。


 まさか誰もこのようなことになるとは予想もしておらず、金庫も客観的に見ても十分厳重に保管されていたからである。


 カイルは改めて振り返ってみるが、なぜこのようなことが起こったのか未だに信じられなかった。


「……後で今後について各々個別に話をするので改めて声をかける……皆……すまん……」


 マグロックはギルドメンバーへ深々と頭を下げた。


「……マグロックさん頭を上げてください。自分たちだって彼らの思惑を見抜けなかったんですから」


 エリックはマグロック一人だけの責任ではないと考えているメンバー総意の意思を伝えた。


「……本当にすまなかった……」


 そこで場は解散となり、明日個別の話があるまで王都で待機する。


 カイルはレスタを誘って飲食店に来ていた。


 食事が終わると、互いの今後について話始める。


「それでお前はこれからどうするんだ?」


「俺は行商人に戻る。レスタはどうするんだ?」


「そうだなー、行商人に戻るか別のギルドに入るかこれから決めるってとこだな」


 カイルは行商人に戻るとは言うものの先の予定は決めておらず、レスタも同じ状況だと感じた。


「しっかし、驚いたよなー。まさかガストルさんが犯人だったなんて。いやそれもだけどよ、カミールさんとレイジーンさんも裏でつるんでいたなんてな」


 それについてはカイルも同じ意見である。


 約二か月という短い期間だったものの、ガストルと話す機会は多く、打ち解けあって相手をある程度理解したつもりでいた。


 ただ、傭兵たちとはあまり話す機会はなかったので、彼らがどういった素性なのか窺い知ることはできなかった。


 ガストルは最初から売上金を盗む目的で加入したのか、マグロックと何か揉めたのか、傭兵たちに誑かされたのか、その真実をカイルが知ることはできないだろう。


 今回の事件において一番の被害者はマグロックであるが、カイルも無傷ではない。


 カイルがギルドへの加入金として渡した金貨30枚はおそらく戻ってこないからだ。


 しかし、そのリスクは事前に想定しており、それを含めて経験した方が自身の役に立つと判断して加入した。


 今回の経験もきっと自身の役に立つと前向きに考えている。


「レスタ、今回の事件お前はどう思う?」


「うーん……正直わっかんねーな。そもそも俺たち加入して二か月ちょいだし、内部の事情も理解してねーしな。……まーこういうこともあんだなーって教訓にはなったけどよ」


 カイルはレスタに何か知っているか聞いてみたが返事は予想通りだった。


 互いに情報が不足しすぎているため、真相に迫ることは困難である。


「そうだな。これ以上考えても仕方ないかもな」


 会話が一段落すると会計を済ませて店の外へ出る。


「ここでお別れだな」


「そうだな。……最初は正直いけ好かなねーやつだと思っていたけど、今は大切な仲間だ! またどこかで再会して組むことになったらよろしくな!」


「あー、よろしく!」


「まー、次会った時はすげー商人になってるんだけどな!」


「俺を差し置いてか?」


「お! 前より乗りが良くなったじゃねーか! ははは!」


 レスタは嬉しそうに笑った。


「そうだ、カイル。俺の仕入れた音玉買わねーか?」


「ここの店、玉一個を金貨1枚のぼったくり価格で売りつけてくるらしいから遠慮しておく」


「ははは、ばれたか! でも違うんだなーこれが。こいつは、ただの音玉じゃねー特製品だ。きっと役に立つぜ」


「ほんとか?」


 カイルはレスタを冗談交じりの怪しんだ表情で見る。


「俺を信じろって」


 カイルは金貨を袋から1枚取り出してレスタに渡した。


「まいどあり!」


 威勢よく返事したレスタはカイルに特製と豪語していた音玉を手渡した。


 その後、レスタはカイルに手を差し出して互いに固く握手を交わす。


「じゃーな!」


「あぁ!」


 カイルとレスタは互いの目的に向かってそれぞれの道を歩み始める。

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