第22話 王都の散策

 歩いて数分のところに飲食店はあり、中に入ると奥窓際のテーブル席に対面するように座った。


 席に着くとメニューにさらっと目を通した後、飲み物を二つ頼んだ。


 注文した飲み物はすぐにテーブルに運ばれてきた。


「結構歩いたねー。私こんなにいっぱい歩いたの久しぶり」


 アイリスは特に疲れた素振りも見せず嬉しそうに話す。


 じー


 話題に一区切りついたところで、アイリスはジト目になりながらカイルを見つめる。


「なんだ?」


「うーん、なんか前よりもかっこよくなってる気がする」


「そうか?」


 アイリスはカイルの返事に笑顔で頷く。


「それに気遣いもできるなんてカイルっぽくない」


「あのなー、俺もそれぐらいはできる」


 すかさずカイルがツッコミを入れる。


「ほんとかなー?」


 アイリスはカイルをからかうように訝しんだ表情で見つめる。


「そだ! カイルの話聞かせてよ」


 カイルは頷いて話始めるとアイリスは興味津々で聞く。


 立ち寄った国や町、そこで起こった出来事を中心に話したが、アリューム城のエピソードについてはあえて話さなかった。


「色々あったんだね。経験積んで逞しくなったからかっこよくなったんだよ」


「あまり自覚はないけどな。……それでアイリスの方はどうなんだ?」


 カイルは褒められて嬉しかったが、女性から面と向かってかっこいいと言われたことはほぼない。


 だんだん恥ずかしくなってきたので、話題をアイリスに振る。


「順調だよ。けど、この国で入手できる情報はあまりないかもしれないわ」


「次の休みが取れたら、別の国へ調べに行くのか?」


「それもいいかもしれないわね。だけど、もっといい方法があるの!」


「もっといい方法?」


 じー


 アイリスは再びジト目になってカイルを見つめた。


「……一緒に旅へ連れて行ってよ!」


 カイルは急に何を言い出すんだと思ったが、最初の出会いもこんな感じだったことを思い出して微笑ましく感じた。


「いつ実家に戻れるかわからないんだぞ?」


「大丈夫! 親にはうまく話をするから。今はまだ、実家の手伝いをしなくちゃいけないけどね」


「……わかった、考えておく」


「絶対だからね!」


 互いに久しぶりの再会で話に花が咲き、窓の外は日が落ちてきて夕焼け模様となっていた。


「だいぶ話し込んじゃったね。よかったら夕飯ウチで食べて行かない?」


「急に家へ行ったら両親に迷惑がかかるだろ」


「いいの、大丈夫。むしろお父さんとお母さんに紹介したいから」


「な!急に……緊張するな……」


「いつも取引の交渉してるカイルなら慣れっこでしょ」


「まぁそうだけど……」


 カイルはアイリスの店で夕食することをしぶしぶ了承した。


 二人は会計を済ませて店の外へ出るとアイリスの両親が経営する店に向かう。


 店に向かっている道中、アイリスはカイルが腰に備え付けている美麗な装飾品と思わしきものに気付いた。


「わー、その剣すごく綺麗! あれ? 前そんなのもってた?」


「あぁ、これはファーガスト製のダガーだ。新しく護身用として使ってる」


「ふぁーがすと?」


 アイリスはきょとんとした表情でカイルを見ている。


「すまない説明が足りなかった。武具の製作で有名なファーガストという人の作品なんだ」


 武具についての知識があるのは商人か貴族、富裕層、軍人などの対象顧客ぐらいなので、アイリスの反応は至極当然である。


 カイルは腰からダガーを革ケースに入れたまま取り外してアイリスに手渡す。


 受け取ったアイリスはダガーの装飾部分をまじまじと観察する。


「装飾が綺麗ですごい細かいね」


「本人曰く、これでも失敗作らしい」


「これで失敗作なの? 信じられない!」


 カイル自身も信じられないので無理もない。


 二人が歩く先に店が見えてくる。


「ただいまー!」


 アイリスは店の扉を開けて中に入り、両親へ帰宅を伝える。


「お帰りー。あら、カイルさんも一緒なの?」


 カイルがアイリスを迎えに行った際に応対してくれた女性が話す。


「そうなの。夕飯みんなで一緒に食べたいなと思って」


「そういうことなら、腕によりをかけて振る舞うわね」


「私も手伝うよ。お父さんは?」


「二階にいるわよ」


 カイルは改めて母親に挨拶した後、アイリスと一緒に二階への階段を上がった。


 二階にはいくつか部屋があり、アイリスは一番手前にある部屋の扉を開ける。


「お父さんただいま!」


「アイリスお帰り。おや、そちらの方は?」


 父親がアイリスの後に見知らぬ男性が立っているのに気づく。


「カイル・アーバインと申します」


「あー、君があのカイルさんだね。ゴブリンの襲撃から娘を守ってくれてありがとう」


「いえ、こちらこそ娘さんには助けてもらいました」


「その話も娘から聞いてるよ」


 アイリスの父親はにこっと微笑んだ。


 食事の準備ができ二階のテーブルに次々と並べられる。


 カイル、アイリス、そして彼女の両親はテーブルを座って囲み食事と談笑を満喫した。


 食事がひと段落してアイリスの父親がカイルに話しかける。


「これからカイルさんはどうするつもりなんだい?」


「もっと活動範囲を広げたいと思っています」


「意欲があっていいね」


「ありがとうございます。さらに様々な特選品を取り扱い、高利益の出せる商品の取り扱いもしたいと考えています」


「いい考えだ、応援するよ。……ただ……」


「ただ?」


「……自分一人でできることには限界があるとは思わないかい?」


「はい、いつか一人では限界が来るとは思っています」


「限界が来ると売上はそこで頭打ちになる。その時はどうするんだい?」


「……そこまではまだ考えていません……」


 カイルはやっと行商人として最低限の経験を積み歩き出したところだ。


 そんな先々のことまで考えていなかった。


「……ギルドの存在は知っているかい?」

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