第21話 少女との再会

 カイルはグラント王国を出てロムリア王国に来ていた。


 来ていたというよりも戻ってきたが正しい。


 ロムリア王国はカイルがずっと活動拠点にしていた国だからである。


 小麦を売買したスタンレード地方、武具を仕入れたファルカセ地方も含まれる。


 カイルが戻ってきた理由は王国最大規模の街、王都ロムヘイムスへ行くためである。


 しかし、カイルは行商人になってから数えるほどしか行ったことがなかった。


 行かなかったのは当時経験が乏しかったため、競合ひしめく状況でうまく立ち回る自信がなかったからである。


 そんなカイルも今では新米行商人としては十分な経験を積んでいる。


 自分の実力を試す機会だとして活動範囲に入れようと思い立ったのだ。


 王都に入ると、まず宿を探した。


 宿指定の場所へ馬車を留め、建物の中へ入り宿泊手続きを済ます。


 三階の部屋に案内されると、そこで数十分ほど休憩して少し旅の疲れを癒した。


 窓から外を眺めると、眼下には多くの人々が行きかっている。


 そこから視線を上げて遠方に向けると堅牢な城壁に囲まれた中に荘厳とそびえ立つ城が見えた。


 空は綺麗な青が広がり、まばらな雲が当てのない旅をしているようにゆったりと流れている。


 部屋での支度が済んだカイルは宿から出ると王都に繰り出す。


 昼下がりになっていたので少し遅めの昼食を取ろうと考えていた。


 すでに目的の店は決めている。


 (ここだな)


 店の入り口の扉を開けて中へ入る。


「いらっしゃいませー! ……あー! カイルー! 来てくれたんだー!」


 出迎えてくれたのはアイリスだった。


 カイルに気が付くと驚いた後、ニコっと微笑む。


 アイリスはカイルを廃業の危機から救ってくれた恩人の一人である。


「近くに来たんでな」


 実は王都へ来たのは、この店に来ることも目的の一つだった。


「本当に来てくれるなんて嬉しい! 奥の席に座って」


 カイルは奥のテーブル席に案内されて着席する。


「お勧めの料理で頼む」


 料理メニューは見ずにアイリスへ伝える。


「わかった! 任せといて!」


 アイリスはテーブルから離れて厨房の奥へと入って行った。


 しばらくすると、前菜、スープ、メインと次々料理が運ばれてきた。


 お勧めだけあって料理はどれも絶品である。


 食事を終えてくつろいでいると、アイリスが厨房の奥からカイルのテーブルに近づき対面する席に座る。


「ねー、カイル明日暇?」


「午前中は仕入の予定がある。その後は特に決めてない」


「それなら、私行きたいところがあるの」


「図書館か?」


「ちがうー、もー」


「うそうそ冗談だ」


「明日、仕入が終わったらお店に来てね。待ってるから」


「わかった。昼頃に行く」


 アイリスと明日の昼に会う約束をすると、会計を済ませて店を出た。


 カイルは取引所に行き、日が落ちるまで特産品の情報を入手し商人と情報交換を行う。


 王都ロムヘイムスはグラント王国の王都ラグラントよりも規模が大きい。


 取引所は通常、町に一つだけだが、ここでは四か所ある。


 その為、午後からの行動だったので二カ所しか回れない。


 グラント王国で仕入れた特産品を取引所の商人に売ることで利益を出せた。


 カイルが今まで取り組んでいた、同じ地方内でのみ売買するより利益率は良い。


 次の目的地はまだ決めていないので、何を仕入れるかは明日以降じっくり考えることにした。


 仕入商品の需要と供給を読み間違えると大赤字になってしまう。


 小麦粉を仕入れた時のようにならないため、仕入れ商品は慎重に決めなければならない。


 二カ所目の取引所から外へ出ると大小様々な形の建物がひしめき合って立っていた。


 建物は平屋か二階建てが主流だが、王都ではカイルの宿泊している宿がそうであるように三階建て以上の建築物も見られる。


 外はすでに日が落ちていた。


 建物の窓からは室内の明かりが漏れて外観を彩る綺麗な装飾となっている。


 あまり土地勘がないので路地に入り込んで迷わないよう、できるだけ人通りの多い道を選ぶ。


 宿泊する宿まで迷わずに帰ってくることができた。


 部屋に戻ると入手した情報を整理して就寝する。


 ――翌日早朝、取引所へ向かう。


 整理した情報を元に仕入れ商品を探していたが、いまいち仕入れたいと思うものが見つからなかった。


 昨日も訪れた二カ所の取引所への訪問が終了したところで、ちょうど昼になる。


 (そろそろアイリスの店に行くか)


 馬車は一旦宿に置いてから店に向かう。


 店の前にくると昨日と違って静けさに包まれている。


 扉に手をかけて開けようとすると鍵がかかっていた。


 (今日は定休日なのか?)


 扉が開かないので、店の玄関をノックしてみる。


 すると扉が開き奥から女性が現れた。


「こんにちは」


 カイルは女性に友人であることを告げ、約束の時間にアイリスを迎えに来たことを説明した。


「あなたがカイルさんね。ちょっと待ってくださいね」


 (アイリスの母親か?)


 そういうと女性は家の中に入っていき、玄関の扉が閉まる。


 少し待つと扉が開いて中から私服姿のアイリスが現れた。


「それじゃ行きましょ」


 二人は大通りを歩きだす。


 アイリスの案内で王都内を歩き回り、途中雑貨店に立ち寄ったりした。


 その際、大通りから路地に入ったり、細い裏道のようなところも通る。


「俺一人なら絶対迷ってたな」


「カイルは王都に来たことないの?」


「何度かはあるが取引所など大通りにある目立つ建物の往復ばかりだ」


「じゃー今日は知らないところたくさん見て回れたね」


「そうだな。……ずっと歩いてばかりで疲れただろう。どこかで休憩するか?」


 アイリスはカイルの気遣いに一瞬驚いた表情をする。


「そうだね、近くに飲食店があるからそこに行こ」


「わかった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る