第19話◎周囲の反応
「なぁ~。真奈美。お前、何言ってるんだ?」
「えっ…サックさん要らないの?」
ザワザワッ
ザワザワッ…
あれ?
この感覚……
魔王のこの言葉の後、俺はコンビ二内にいる全ての者の気配が俺の元に集まっているのを感じてしまった。
この時、俺は彼女との激戦を繰り広げたことにより、自分に対する感覚というのが研ぎ澄まされていたということなのだろう……
全く本当に恐ろしいヤツを相手にしていたものだ…
店員も客もその表情も目線もハッキリと見せることはない。
パッと見、下を向いて俺たち二人と顔を合わせないようにしているのだが……
間違いない。
彼らの気配は、こっちに向いている。
器用に気配だけ……
その気配から感じられるものは嘲りや冷やかしといった感じだ。
そこから考えるに……
そう!
ヤツラは全員、面白がっているに違いないのだ!
第三者という仮面を被ることにより他人の様を面白おかしく観察して自分の興味本意を満たしてやろうというのだろう。
顔や態度は必死に隠そうとしているのは分かる。
現に店内にいる人間の誰からも、外見的異変や行動を感じない。
不自然なほど完璧に……
全員が全員、完璧に隠しているのである!
普通に考えて、そんなのあるか?
魔王のバカでかい声。
あれが聞こえなかったと?
そんなことは間違ってもあり得ない。
彼女の選手宣誓。
そう!
夜の大運動会の選手宣誓だぞ?
あの声は、全校生徒に聞こえるように大きくハッキリゆっくりの見本となる声の如く見事な大声だった。
普段そんな声が聞こえたら、店内の人間の何人かは明らかに此方に対して嫌な顔をするものだろう?
もしくは「のろけんじゃねーぞ!クソが!」ほどの悪態をつくヤツもいることだろう。
それがない?
無いどころではない。
誰一人が反応どころか動きさえ見せないだと?
そんなのはあり得ない。
堪えているだけなのだ!
笑いから……
恐らく、誰か一人が反応を見せた瞬間、店員は俺たち二人の間に入ってくる。
そうなるとこの話し合いは強制終了と言うことになるはずだ。
そして俺はそれを望んでいるのだが…
周りは時が止められているかの如く全員が動きを止めているのだ。
まるで、動き出すと堪えきれずに反応してしまうと言うように……
それとも何か…
魔王の時空魔法により時間さえも停止してしまったというのか?
だとしたら、お願いだ!
早く起きてくれ、みんな!
このまま、魔王の支配を逃れようと思わないのか!
みんなで平和な世界を取り戻したくはないのか!!
勇者にだって限界というものは存在するんだぞ!
……
なんだ…
ホームだと思っていたのによぉ……
このコンビ二は…
いつからアウェーへと成り下がっちまったんだよぉ……
そう思った俺は……
(お前、何言ってんだ!!)
この言葉が出なかった……
出たのは……
「あっ…ちょっ…」
と言ういかにも惨めな言葉だけだった。
恥ずかしくて、恥ずかしくて思いっきり下を向いてしまったのだ。
だが下を向いたところで魔王は攻撃を緩めたりはしてくれない。
それどころか激しくなる一方なのだ!
「なに?いらないの?ってことは、やっと覚悟を決めたの?」
お前アホか??
何言ってんだ?
今日、俺とお前は別れ話をしてたんだぞ!
覚えてないとか言わせねーし!
サックさんがどうとか全く関係ない話してたろーが!
覚悟なんて、俺は別れる覚悟とっくに決めてんだよ!
決めたの?
何て言われるのは、俺じゃなくてお前だろーが!
全く大概にせーよぉ!
等と言いながら、胸ぐらでも掴むことができれば、恐らくは事件など一瞬で解決してしまったのだが…
だが場所はコンビ二……
周囲の目線がそれを許さない。
先程、窓際で立ち読みしているオッサンの肩がピクッと動いたのだが…
それっきり……
それくらいの反応では店員さんの「けんかをやめてぇ~」は聞くことが出来ない。
もう!
全く!
反応するなら、店員さんが止めに入るまで、しっかりと反応してくれよ!
オッサン!
だが、そう思った瞬間。
俺の中で不思議な力がみなぎってきた。
毛が逆立ちパワー全開とまではいかないが……
にんにくを食べて精力がみなぎっているぞ的な感覚くらいには感じる。
「俺とお前が今日、何を話したか覚えてる?」
強い口調で出た俺の言葉。
周囲から強く感じる好奇の目線の中であっても俺には関係ない。
そんなものは後日、コンビ二の店員に謝り倒して何とかすればいいだけだ!
それよりも何よりも彼女には今日、俺たちが何を話していたのかを認識させる必要がある。
さぁ!言え!
言うんだ!
別れ話だと!
そう思い、俺は彼女の次なる言葉を待った。
もしも嘘を言うようであれば、俺は強く否定してやる!
そう思って彼女の言葉に合わせて俺はいつでもカウンターを打てるようにと待ち構えていたのだが……
それなのにヤツは……
「うん、知ってるよ!今後のことでしょ?」
なんて事を平然と言ってきた。
おいおいおい!
ちょっと待てよ!
どうやってお前はそんな返しを思い付いたんだ?
今後のこと?
お前、確かに別れ話なんて言うのは、お互いが別の道を歩いていこうと言う今後のことなのかもしれないよ!
だけど…
だけどよぉ~……
お前、サックさんの後に、今後のこととか言ってたらだよぉ~。
みんな勘違いしちゃうじゃないですかぁ~。
いくらなんでも、ぶっこみすぎってやつでしょうーがよぉ~。
勘弁してくださいよ…
カウンターを狙ってやると思っていた俺の考えを逆手にとり、カウンターのカウンターであるクリスクロスを狙っているとは思わなかったよ……
そう思って俺は周囲を見渡してみると……
あれ?
みんながみんな…
俺と視線を合わせない?
と言うよりも明後日の方向を向いてしまう始末……
肩は細かくカタカタと揺れ……
って、そうか……
そうですか?
お前ら笑いをこらえているんだろ!
そうか!
こ・れ・がぁ~
お前らのやり方かぁぁああ~~~!!
店員さんに至っては、店内に客がいるという状況にも関わらず。
奥に引っ込んでしまいましたよ……
おいおい、そんなのどうすんだと思ってレジの方から奥を見てみると……
防犯カメラに食いついている店員さん……
ほー、なるほど……
カメラ越しであっても店内の様子はしっかりと分かるというんだね。
へーへー、そうですか……
この場は己の力だけで何とかしなさいよと言うことですか~。
分かりましたよ!
あんたは、あくまでも魔王の味方っていうわけなんですね。
そうか?
そんなに今の俺が面白いのか?
いいだろう!
そんなに見たいなら見せてやろう!
こっちにだって意地とプライドというものがあるからな!
確かに今の俺は魔王のクリスクロスをモロに浴びて頭の周りをヒヨコと天使がさまよっているような無様な状態だけどな!
俺だって男だ!
いつまでもこんな状態じゃねぇーからな!
見てろよ。
ヤローども!
俺はそう思い振り返ると……
鋭い目線で両手を組みながら手首と足首のストレッチを行っている魔王がそこにはいましたよ。
その様子を見て、俺も覚悟を決めましたよ。
じゃー、バツーンと一発、遠慮の無い一撃ってやつをぶちこんでやりましょうかねぇ~。
「おい!俺とお前は、もうこんなことする関係じゃないだろ?」
俺は、ここで一気に魔王を畳み掛けてやるつもりで、しっかりと強く言ってやった!
本当であれば、別れたとまでいってやれば決定的だとは思ったんだが……
正直、別れたのか?
と聞かれた場合、微妙な感じがする。
本当であれば、嘘を突き通せればよかったのかもしれないが…
ここが普通の善良市民である俺の弱さだったのかもしれない。
だから、そこはぼかしながらになったのだが、それでもそれとなく分かるであろう言葉を選んで彼女に言ってやった。
だけどですね……
世の中には化け物っていうのが本当にいるんですね……
俺は彼女の行動を見て言葉を聞いて、心底彼女が化け物だってことを認識しましたよ。
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