18-11「手練(てだ)れ」
敵機は、5つの分隊に分かれている様だった。
3機の分隊が1つに、2機の分隊が4つ。合計で11機
これまでの戦いでもいつもそうだったが、敵も、味方も、基本的な戦い方は似ている。
それは、そうだろう。負ければ命を失ってしまうのだから、どちらも、相手の優れたところ、参考になるところは何でも取り入れていく。
戦い方があまり変わらないということは、数による有利、不利が、勝敗に大きく関わって来ることになる。
とすると、7機でしかない僕らは、敵に対して不利だった。
パイロットや機材に大きな実力差があれば話は別だったが、敵機の動きを見るに、それを期待することはやめておいた方が良さそうだ。
だが、僕らは敵機に対して高度優位にあり、先制攻撃を加えるチャンスを得ている。
最初の一撃によって少しでも多くの敵機を撃墜、撃破し、何とかして数の上での優位を確保したいところだ。
敵機は、狭いソレイユの港湾部から広い海上に出て、旋回を始めている。
広い海上で僕たちからの攻撃をかわし、反撃してくるつもりなのだろう。
敵機が反撃して来る気概を見せていても、僕たちがやることは何も変わらない。
彼らを排除し、友軍機による攻撃を成功させる。
レイチェル中尉の機体を先頭にして突撃した僕たちは、敵機に対して攻撃を開始した。
中尉の機体が敵編隊の隊長機らしき機体目がけて射撃を開始し、無数の20ミリ砲弾が海面に着弾していくつもの水柱が立ち上り、敵機の姿を覆い隠す。
だが、隊長を務めるだけあって、敵の隊長機は手練(てだ)れのパイロットだった。
レイチェル中尉の腕前だから、その攻撃は正確なものであったはずだったが、敵の隊長機はそれを見事な操縦で回避していた。
水柱の中から再び姿を現した敵機は無傷で、1発も命中弾が出ていない。
レイチェル中尉に続いて、カルロス軍曹、ナタリアと連続で攻撃を行ったが、敵機は的確に攻撃のタイミングを見定め、素早く回避して被弾を許さなかった。
これには、射撃可能な時間が短いということも関係している。
僕たちは敵機に対して高度優位にあるが、敵は思い切ってさらに高度を下げて、海面から数十メートルという、超低空を飛行している。
上から攻撃をかける僕たちは海面に突っ込まないよう素早く機首を上げる必要があり、敵機に対して十分な攻撃時間を確保できていなかった。
恐らく、敵はそれを狙って、超低空を飛行しているのだろう。
敵のパイロットたちの操縦技量は、これまで戦ってきた敵の中でも、最も優れたものである様だ。
それに、その操縦を受けている敵機の動きもいい。機敏で、鋭さがある。
《くそっ、ちっと欲張り過ぎた! おい、ジャック、アビー! 敵は手練れだ、2機で1機、確実に仕留めろ! 先頭の機で攻撃して、回避したところを2番機が撃つんだ! それと、敵の最後尾の分隊の動きが一番鈍い! 》
了解!
攻撃がかわされたことで、レイチェル中尉はやり方を変える様に指示を出した。
レイチェル中尉たち3機に続いて突入していくジャックとアビゲイルはその指示に答え、中尉の作戦通り、敵編隊の最後尾を飛行している分隊に狙いを絞った。
レイチェル中尉は一番動きが鈍いと言っていたが、僕にはそう見えなかった。
ジャック機からの射撃を回避した敵機の動きは、レイチェル中尉の攻撃をかわした敵の隊長機とさほど変わらない様に思える。
だが、その機影は、次の瞬間には狙いすましたアビゲイルの攻撃によってバラバラに粉砕され、無数の破片となって海へと突っ込んで消えた。
水柱が消えた時には、そこにはわずかな残骸と、油の膜が浮かんでいるだけだ。
《いいぞ、ジャック、アビー! ……ライカ、ミーレス、同じ様にやれ! 》
了解!
ライカと僕はレイチェル中尉の指示に答え、敵編隊の最後尾に1機だけ残った敵機へと照準を定める。
狙われているのが分かったのか、あるいは、僚機の仇を取るつもりだったのか、敵編隊の最後尾の1機は僕たちの方へと機首を向けた。
だが、敵機が僕らへと機首を向けきる前に、僕たちはその敵機を射程内へと納めている。
ライカの機体から閃光が生まれ、短く発射された20ミリ機関砲弾が敵機を包み込んだ。
機首をこちらへと向けようとしていたことから、ライカの攻撃は敵機のエンジン部分へと吸い込まれるように命中し、プロペラを軸ごと吹き飛ばした。
火災こそ起きなかったものの、敵機のエンジンからは黒いオイルが溢れ出し、風防をあっという間に黒く染めあげて、操縦席の中にいるはずのパイロットの姿が一瞬で見えなくなる。
僕たちは機首をあげた勢いのまま飛んで来る敵機とすれ違いながら、再攻撃をかけるためにレイチェル中尉たちを追って高度をあげた。
プロペラを吹き飛ばしたのだから、あの敵機も撃墜と判断していいだろう。
だが、問題は、残りの9機だ。
彼らは、僕らが隙を見せるところをじっと待ち構えている。
《ライカ、ミーレス! 後方に注意! 敵機が反撃して来る! 》
カルロス軍曹の鋭い言葉で、僕は背後を振り返った。
そこには、攻撃を終えて上昇に移った僕らを追撃しようとする、9機の敵機の姿がある。
降下してきた速度を持っているから、9機が追って来たところで、僕たちが追いつかれる心配は無いだろう。
だが、このままでは、敵機に再攻撃をかけることができない。
真っ直ぐに逃げれば追いつかれることは無いが、敵機を攻撃するためにはこちらも旋回して機首を向けなければならず、そうなれば当然、敵機に懐に入り込まれることになる。
僕たちは、敵の戦闘機を排除しなければならない。
当然、逃げ続けるわけにもいかず、反撃しなければならない。
だが、反撃しようとすれば、敵機とのドックファイトに入るしかなくなってしまう。
《301A各機、止むを得ん、ドックファイトをやるぞ! ライカ、ミーレス、援護してやるから、そのまま飛んで、敵機を振り切って反撃しろ! 》
了解!
すでに味方機は近くまで迫っており、僕たちが敵機を排除するのに使える時間は、数分間しかない。
じっくりと距離を取り、有利な位置をしっかり確保しながら戦っている時間的な余裕は、僕たちには無い。
レイチェル中尉は不利かもしれないことを承知で、ドックファイトを挑んで来る敵機の挑戦を受けて立つことにした様だ。
しかし、今僕たちが機首を敵に向けるために旋回しようとすると、敵に追いつかれて攻撃を受けてしまう。
僕たちはレイチェル中尉の指示通り、針路を保って、まっすぐに逃げ続けた。
降下して得た速度もあることだし、ベルランの高速であれば、敵機の性能が未知数とはいえ、追いつけないはずだ。
やがて、敵機とドックファイトを戦うために引き返して来たレイチェル中尉たちの機体とすれ違った。
5機の僚機たちは、僕たちを追いかけて来る9機の敵機に対し、20ミリ機関砲を発射しながら突っ込んでいく。
バックミラー越しに、僕たちを追って来た敵機が旋回して散っていくのが見える。
敵としては、僕たちをドックファイトに引きずり込むことが目的だったのだから、レイチェル中尉たちを迎え撃つつもりなのだろう。
《ミーレス、左旋回して、空中戦に加わる! 》
《了解、ライカ! 》
僕はライカの指示に従い、機体を左旋回させて、機首を敵機の方へと向けた。
すでに、先に突っ込んでいった仲間の5機と、9機の敵機との間で激しい空中戦が始まっている。
たった今、レイチェル中尉が1機を撃破し、被弾した敵機は白い煙を吹きだしながら逃走していく。これで、敵機の数は8機になったが、それでも、5機だけでは不利なことには変わらない。
アビゲイル機が被弾し、左の主翼の翼端が吹き飛ばされるのが見えた。
肝が冷える光景だったが、操縦系に大きな被害は無かったらしく、アビゲイルはすぐに機体を立て直し、分隊長であるジャックの機体に追従して回避運動を続けている。
アビゲイルが被弾したのは、たった1発だけだった。
たったそれだけの被弾なのに、翼端とは言え、頑丈に作られているはずの主翼が簡単に吹き飛ばされてしまった。
これまでに、こんなに強力な武装を持った敵とは、戦ったことが無い。
敵機も僕たちと同じ様に、20ミリ機関砲を装備しているのかもしれない。
あるいは、それ以上の威力を持った武装を持っているのかもしれない。
手袋の中で、じわりと汗がにじんだ。
僕の背中には防弾鋼鈑がしっかりと設置されているが、さすがに20ミリ砲弾ともなると、防ぎきれないかもしれない。
ほんの一瞬のことで、全てが終わってしまうかと思うと、何だか息が詰まる。
《ミーレス、ジャックとアビゲイルを援護しましょう! 》
《了解! 》
あの中に飛び込んでいくことが怖いからと言って、仲間を見捨てられるはずが無かった。
僕とライカは、ジャックとアビゲイルの機体を追い回している4機の敵機に狙いを定め、突撃を開始した。
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