6章
第93話
魔法都市を離れて十日ほど。
僕らは深い森の中でレベル上げに励んでいた。
草原や街道付近、町や村のある近くも、高レベルのモンスターは生息していない。
ゲームだとエリアが進めば進むほど、町のすぐ外も高レベルモンスターになってたりするんだけどな。
でもここじゃあそれはないようだ。
まぁ考えれば当たり前なことか。
村の一歩外に高レベルモンスターが闊歩してて、それに対して住民が普通の顔して歩き回っていたら・・・
この世界は勇者だらけだよ。
「なかなかレベルが上がりませんのぉ」
「ほんと。もう1日1レベルも無理なのかしら」
アーシアとルーシアのレベルは揃って75。僕の方は73と、ついに追い抜かれてしまった。
まぁ普通の下級職業である二人と、転生職だと必要経験値も違うだろうし仕方ない。
だけどもっとコンスタンスにモンスターが狩れればなぁ。
「地上のモンスターは、雄雌の交配で産まれるのだとしたら……狩れば狩るほど数が減っていくよね」
「そうですねぇ。その点ダンジョンモンスターは、ある一定数が常に補充され続けるという噂があるですし、もしその通りだとすれば──」
「レベル上げはダンジョンの方が最適かもしれないわね」
「うーん。ダンジョンかぁ」
レベル80前後のダンジョンだと、東の大陸のほうにあったなぁ。
一つは獣人族の国に、あとは大陸の北側に四つぐらい。レベル80あたりからは東の大陸の北側を拠点にしていたものだ。
いや、たぶんあの大型アップデートでエリアの拡張もされていたはずなんだ。
それを見る前にこの世界に転移させられたけど。
「そういえば、新しくダンジョンが五つ実装されるってあったな」
「新しいダンジョン?」
僕の呟きにルーシアが目を丸くして、興味津々な顔で近づいて来た。
「あ、うん。僕の世界の方の話だけどね。僕がこの世界に飛ばされたあの日、ゲームでは新しい要素が実装されていたはずなんだ」
転生が優先だったから、新エリアなんてもちろん見ていない。
でも公式サイトで情報は見ていた。
港町オーリンから真っ直ぐ西の山と、南西の山にそれぞれ一つずつ。
ジータから西の海岸には、巨大海賊船ダンジョンが。
オーリンから北の大地にも二つ、ダンジョンが実装されているはず。
その内オーリンから南西と、北の二つのダンジョンがインスタンスダンジョンだったはずだ。
他のパーティーと獲物を奪い合うことのないよう、パーティー単位でダンジョンが生成されるタイプだ。
そんなこと、異世界の現実で出来るのだろうか。
でも出来るというなら──
「あの日、実装されてまだ実物を見たことがないダンジョンがあるんだけど、行ってみる?」
「タックが行きたいなら、アタシはどこでもついて行くわ」
「はいですの。タックさんが行くところに、私たちはお供するですのよ」
そんな風に言われると、めちゃくちゃ嬉しいんですけど。
そうと決まれば移動開始だ。
地図を開いて、公式サイトにあったダンジョンの位置を思い出す。
少し南に下り過ぎてるな。北北東を目指しライド獣を駆って、途中の町で屋台を開いて宣伝も忘れない。
五日ほどかけて山の麓にある村へと到着した。
「ダンジョンは……ない?」
村唯一の宿屋で、僕らはこの近くにあるはずのダンジョンについて尋ねた。
宿を切り盛りする夫婦は、揃って首を傾げる。
「えぇ。ダンジョンがあるなんて話、生まれてから一度も聞いたことないだぁ」
恰幅の良い奥さんがそう言った。旦那さんの方も同じようだ。
まさか未実装……なのか?
食事のあと、部屋で寝転がって地図を確認。ここから入った山で、位置はあってると思うんだけどなぁ。
まぁ実際に行ったわけじゃないし、公式サイトのは地図のイラストだ。多少のズレがあるのかもしれない。
「明日は少し山の中に入ってみよう」
「はいですの」
「あるといいわね」
「うん。まぁなければ他のダンジョンに行くよ」
そうは言ったものの、普通のダンジョンだと適正レベルが固定されている。
でもインスタンスダンジョンだと、入場するパーティーの平均レベルに合わせて難易度が設定される仕組みだ。あちこち移動しなくて、そこだけでレベル上げが可能ってうのは有難い。
ただ一つ所にプレイヤーを固定させないように、それぞれのダンジョンで専用装備がドロップするっていうのがあるんだけどね。
神殺しの武具を装備するためにカンストさせたいんだ。ドロップ装備はこの際どうでもいい。
アーシアとルーシアに至っては、下級職をカンストさせただけじゃダメなんだ。
上級職に転職させて、更にそれをカンストさせなきゃ。
そんなことを考えていると、部屋のドアをノックする音が。
「はいですの」
アーシアがドアを開けると、そこには10歳ぐらいの男の子が立っていた。
「こ、こんばんは」
「はい、こんばんわですの」
宿屋のご夫婦のお子さんかな?
「あ、あの、ダンジョンのことをとーちゃんたちに聞いてたけど……」
やっぱりお子さんか。
「もしかして俺、知ってるかもしんねーだ」
「え、もしかしてって?」
男の子を部屋に招き入れ、ベッドに座って貰って話を聞いた。
「去年、村の子供たちだけで山に入ったことがあるんだ。あ、とーちゃんかーちゃんには内緒な」
「バレたら怒られるってことかい」
「へへ」
怒られると知っていても、遊びに行きたかったんだろうな。
8人ぐらいの子供たちで山に入っていき、ひとりが斜面から滑り落ちてしまったそうだ。
「大丈夫だったの?」
「平気さ。ちょっと擦りむいた程度だったから。そんでな、滑り落ちたその先に、大きな岩で塞がれた穴があったんだ」
「穴!? な、中の様子は?」
男の子は首を振る。
「すっげーでかい岩なんだ。穴は上の方にちょこっと見えただけで、中に入るのは無理だった」
だけどその穴の周りは明らかに人工物っぽく、遺跡の柱のような感じだったらしい。
そのことを大人たちに話したかったが、話せば──
「勝手に山に入ったことがバレるし、俺ら子供だけの秘密にしてたんだ」
「ありがとう。明日さっそく行ってみるよ。詳しい場所を教えてくれるかい? 地図とか、描けるかな」
「うんっ、任せてよ!」
そう言って男の子は手を差し出した。
お小遣いをくれって……そういうことか!
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