108.試し焼き 六
「私、すっごい満足してたの」
千佳と二人、目配せをして聞き役に徹する。
「この屋台、元はと言えば青年団の人手不足が原因で、減っちゃう出店をどうにかならないか、ってところから始まったよね。お祭りなのに、ぽつぽつ空いた地面が見えると寂しくなっちゃうって。その話を聞いた時、乗りかかった舟だし、そのお助けができるならいいなっ、て。ただそれだけだったの」
太鼓に感動していた小湊さんだ。その青年団の力になりたいと。手助けができるならしたいとなるのは自然な流れだった。
「赤字になってもいい。空き地が埋まるのならそれだけで十分助かるからってさ。そういう話だったから、こっちも責任とかそういうストレスを感じずにここまで自由にやれて、味を追求することができたんだ」
店を出す。学校の文化祭などでやる出店とはまた勝手が違う。いくら青年団の後ろ盾があるとは言え、一般の世界に飛び込んで行うことだ。
「屋台がこうして形になって、試し焼きをして。ある意味、もう満足しちゃってたんだろうね。お祭りもまだ、始まってないのにね」
慢心してたワケじゃない。けれど、それこそ順調に行き過ぎてた傾向もあった。調子よく行き過ぎていた。それが今、本来はなんてことないはずの試食で急に不安になり、その揺り戻しで身を震わせたのだろう。
「このお祭り。絶対っ、私たちの玉子串が
あらためて芯に火が
須藤はまだ来ない。この顔を見たかったろうな、と思いつつ、僕も千佳への想いをあらたにする。
「それじゃ、もう一回だけチェックするわよ!」
遅れて須藤が合流し、すべての準備が整った。
玉子串を焼きに焼いて、本番の環境にも慣れることができた。味の太鼓判はすでにもらっている。
これ以上、なんの不安があるだろうかというくらい仕上げ、最高のコンディションで今日が終わり。
そうして僕たちは、当日を迎えた。
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【重要なお知らせ】
2章の書き直しに伴い、次回更新の内容は9章(新2章部)となります。詳細は最新の近況ノートで確認することができます。よろしくお願いします。
新月の花が色めく夏に 葦ノ原 斎巴 @ashinohara-itsuki
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