79.フードコート 二

「……うぇっぷ」


 もはや苦行としつつあったが無心で食べ進めることしばし。最後の一口を頬張り、麦茶で無理やり流し込む。


「はい、ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


 結局、千佳とほぼ同時に食べ終わることができた。


「美味しかったです?」


「分からない……、ヒリヒリする」


 味覚が馬鹿になったのか、途中から味がまったくしなくなっていた。ただジンジンとした痛みだけが残っている。


「ふふ、祐司さんがそこまで言うなんて相当ですね」


 楽しそうに笑う千佳は立ち上がり、空になった器と皿を手に取った。


「これ、片付けてきますので祐司さんはそのまま休まれてください」


 どうにか食べきることは出来たが、体力の持ってかれ方が半端なかった。ちょっと動ける気がしない。


「ごめん、頼んだ」


 でも完食したことでなんとか威厳は保てた筈だ。と思いたい。

 千佳を見送り、今後の予定、もとい作戦を練る。ひとまず、もう一度クラフトエリアに戻ろうか。さっきはただの冷やかしになってた気もするし、なにかプレゼントできるものを見繕い、それを何気ない風を装いさらっと渡し……、よし、これならきっと千佳も喜んでくれるだろう。


「ただいま戻りました」


「おかえり。なぁ、この後なんだけど、千佳は行きたいところある?」


 それとなく確認する。もしなにもなければクラフトエリアに誘うとしよう。


「それなんですが、もしよければフードエリアを歩きませんか?」


 今食べ終わったばかりだが、他にめぼしいものがあったのだろうか。


「やっぱり食べたりなかったか?」


 それとも、思った以上に牛とろ丼が少なすぎた?


「いえ、そうじゃなくて、お祭りで出す屋台の話。今、見て回るのもタメになるかと思いまして」


「あぁ、そっちの話か。でも参考になるか? フードフェスと祭りの出店だぞ?」


 千佳はそのことを考えていたらしい。でも正直、これらのイベントは似てるようで似ていない気がする。イメージでしかないが、フードフェスは全国から集まってきたこだわり店が多く、祭りの屋台は昔ながらの定番屋台という頭がある。


「同じ屋台ではなくても、どの系統の屋台が人気でどういうウリでやってるだとか、値段を含めて色々知っておくだけでも有利な気がするんです」


「そうか。だったらちょっとまわっていくか」


 遊びの雰囲気からはズレてしまうが、これはこれで構わない。千佳がやりたい、したいこと第一だ。


「ありがとうございます。それじゃ行きましょ、祐司さん」

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